帰還−これからも…

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【帰還−これからも…】

−−A.D.2203「ヤマト3」
:お題2006-No.13R「帰還・3」
“ただ1人、此処で”:番外編

 
−− N o.37「追憶−間の時代」の続編です


(1)
 
 すい、と格納庫に着艦した。
ふわりと一瞬、その腹の中で浮き上がるような感覚。
忘れてはいなかったことにホッとし、先行し着艦していた2機を横目で見つつ、
なんとか着いてきた後ろの2機――部下たちにサインを送ってやる。
 滑り降り様、後部座席の怪我人を「頼む」と預けると、森ユキ自らが差配をし
て、さっと医務室へ運んでいった。
ユキの、真っ直ぐな、相変わらず印象的な目で一瞬だが見つめられ、その笑
顔は、(お帰りなさい)と言ってくれているようだった。
俺は自然、笑顔になるのを止めようとも思わなかった。

 滑り降り、佇むと、前方の2機から2人が降りて近づいてきた。
(佐々――)
自然、目はその2人に向き、感情を抑えて敬礼をする。
「古河大地、ただいまヤマト戦闘機隊に着任いたしましたっ」
そして、加藤隊長にそっくりな弟。
 四郎くんか。……一度、火星で会っているが、学生学生していたあの頃とは
まるで別人の落ち着きに、実戦の旅の重みを感じる。
「――第三代ヤマト戦闘機隊長・加藤四郎です。歓迎します――よろしく、
古河中尉」
手を差し出され、それを握った。
佐々の目が真っ直ぐ自分を見ており、その、あまり表情の変わらない顔と瞳が、
心なしか潤んでいたように思うのは気のせいか。――やっと、会えた。そんな
想いが湧く。
そう感じるだけで、同じ空気を呼吸しているだけで十分だった。

 「コロニーでの部下だ。新参だがそれなりに実力ちからはある。よろしく鍛えて
やってくれ――何とかヤマトの名に恥じないよう、がんばると思う」
こくり、と加藤隊長は頷いて、俺の後方に目をやった。「名は――」
 「等々力勲とどろき いさむ――准尉です」
高遠義夫たかとう よしおです、ヤマトに乗れて、本当に光栄ですっ。 がんばります」
加藤四郎の名を知らない者もない。同僚として合間見えるのは俺も初めてだ
が、すでに貫禄十分でこの隊を仕切っていることは感じられた。
佐々の、無意識に寄せる信頼も感じられ――三郎隊長の面影が今は濃い。
「…あとで艦長に引き合わせる。部屋に落ち着いたら、艦尾指揮室へ来てくれ」
加藤は等々力と高遠2人にそういい置くと、
「古河さん、艦内の施設などの場所は以前と変わっていません。ただ、多くの
機能が相当バージョンアップされてますので、そのへんは島副長と」
俺は頷いた。「あぁ――島は?」
「先ほど第二艦橋に」「わかった」
――のんびりしている間がないのはわかった。

 格納庫の入り口でぱたぱたと音がする。
だだっと駆け込んで来た者の姿を見ると、「古河っ!」「教官せんせいっ」という声。
走り寄り、抱きつく者、背を叩く者、髪をぐしゃぐしゃとやるもの、ふざけかか
る者。手荒な歓迎だが本当に嬉しかった。
昔馴染みのヤツがいる――学校の教官をしていたのは1年半前だ。
あぁそうか、あの時の生徒たちがヤマトに。……生きていたのだな。
 再会をひとしきり抱き合い、背を叩き合って喜んだ。だが大半は知らないメン
バーである。
 その後ろでニッと笑って敬礼したのが――揚羽!? 驚いて佐々を見ると、彼女
はこっくりと頷いた。
――確かに、揚羽武だ。それはあの学年の中では抜きん出て優秀だったが…。
よく乗れたな。いやそれほどに地球は絶望的だということか? ガミラスへの当
てのない航海に出た時に搭乗した南部康雄を思う。

 一通りの騒ぎが終わるまで10分もかからなかっただろう。
その間、静かに立って待っていてくれた佐々が言った。
「部屋に案内するよ――今回はいろいろな立場の人間が乗っている。…戦艦
といっても調査が主目的だ。非戦闘員も多い……中で、うまくやってくれよ」
 生活エリアへ向かいながら、俺は足許からぞくりとする感情がわきあがってく
るのを止めることができなかった。
(佐々――)
その背を見、肩を並べて歩きながら。
(もう俺は、離れやしない――戻ってきたからには。一緒に戦ってやる)

 
 カツ、カツと通路に微かな足音が響く。
「士官エリアに部屋が取れてるから――前の部屋がいいか? 2人部屋だが」
ユキに任されてるんだ、という。
「等々力と高遠は戦闘機隊エリアに同室で放り込む。4人部屋だ――彼らは、
訓練学校出身じゃないよな」「あぁ…」
「データとカルテを作るから。あとでそれは真田副長と相談して」「あぁ…」
 佐々――頼みがある。
「なに?」
部屋の入り口で立ち止まって、彼女は向き合った。
「――2人部屋でいい。桂木と一緒にして、もらえないか」
「あの、けが人か?」
「あぁ……俺の、恩人だ」「……」
そう、と言って。
わかった、じゃぁここどうせエリアの外れだから、一緒に使ってと。

 じゃぁあとで、と踵を返そうとして、佐々はもう一度振り返った。
その腕がゆっくりと首を包む。驚いた。
温かい胸――強くてしなやかな腕が首に回って、髪ごと抱きしめられる。
「――よく、帰ったね……お帰り」
一瞬のことだったが。
喜んでくれているのが心底伝わって来――俺は、言葉をなくして震えていた。
そう……宮本さんと、このひとと、俺は。特別なんだ、と。
 懐かしい、宇宙の香りがした。不埒な思いは浮かばなかった――ただ、温か
かった。

   
背景画像 by「壁紙宇宙館」様

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