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・・願わくは花の下にて・・


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 西暦、2201年――。


 ふぁぁぁあ。
 大きく伸びをして体を起こすと「よく寝たなぁ」と爽やかな表情でかたわらにすで に起きていたらしい相棒を見た。それに手をかけると「おはよう」と言って軽いキス をし、それで飽き足らずに腕に力を入れ、ぐ、っと抱き寄せると「あ…」と相手は言 って胸にもたれる。
 「――やだよ、もう」
 押し返すように腕を動かすが、いやがっているわけではない。少し甘い、声。普段 の彼の“熱血野郎”のコワモテぶりを知る部下たちが見たら、卒倒しそうな甘い 表情かおだ。
 キスをしたらやっぱり愛しくなって、本格的にそう・・する。 また唇の横から顎、頬から首筋へと唇を這わせると「くすくす…」とくすぐったそうに 笑う声と同時に
「やめろよ、朝から…」と小さな声が言った。


 「――朝だから、だろ? お前だってわかるだろうに」
「うん……」きゅ、と腕を掴む感触があって、彼は相棒を上から押さえ込みベッドに 背を押し付けると体の上に乗った。
 下から笑いかける笑顔が、ちょっと困ったような顔をしている――あぁそうか。
 「少し走ってこようと思ったのに……」
それでも嫌がりはしないでおとなしくキスされ、伸ばした手で触れた肌はそれをはねのけ もしなかった。
「お前、そういうやつだよな」
真面目だというか。休暇で、のんびりしようって地球へやってきて――それでも毎朝の メニューは欠かすことがない。
 「違うさ」ヤツは言う。「――不安なんだ。一日休むと、それだけ衰える。それが 死につながるかもしれない…俺たちの職業病びょーきだな」 やっぱり困ったような顔をして笑った。


 ――戦闘士官なら誰でもそうだというだろうか。だが、俺たちと違ってコンマ秒単位 を扱いそれに体ごとさらす戦闘機乗りは特別だ。いや、戦闘機乗りだけじゃない。“パ イロット”と名のつく職業は……同じ戦闘員でも。同じ平和の中を満喫しているよう にみえても、その厳しさは想像するしかない。……こんなに、愛していても、だ。
 俺がお前になれないのと同じように、お前はお前で。まったく別個の存在。もちろん、 だからこそ愛しいのだけれど。
 諦めたのかキスを返してきて、英は積極的に俺の腕に身を投げかけた。
「する?」そう言って囁く声は、甘い。「――でも、腹減ったんだけど、俺」
 かわいい……かわいい、英。抱きしめ、唇を落とし、抱きすくめて……やはり朝から 俺はお前を求めている。限られた邂逅――月と、地球に別れて。いまこの時が、大切 だった。


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 小1時間が経過した――ということになっても仕方ないだろう。
 まだ寝坊したというほどには遅い朝ではなかったし、地球の光はまだ朝の雰囲気を まとわりつけている。


 「本気で、腹減った!」
吉岡がそう言って体をほどき、カーテンごしに入る光に起き上がった。まぶしげに 目を細める。


 「あぁ……いいな、こういうの」 膝を立てるようにしてシーツを裸の体にかけたまま、小首をかしげて吉岡が言う。そ れを見返す豊橋も「あぁ」と答えてまた額に軽く唇を落とした。
「そうだ――俺たちの家、だもの」
 さほど広いマンションではない。だが此処は2人の所有する部屋だった。戦後、軍 人の賃金は最低に抑えられたとはいうものの、だが年齢の割に高級取りである上にヤ マトの報奨金が出た。それで購入した地球の部屋――本来官舎に住むべき身ではあっ たが、そのあたりも“士官特権・特約”に違反しなければ問題ない。そう思って豊橋 が主張したのだ。


 “俺たちの家がほしい―― 一緒に住まないか、英”。


 明日をも知れぬ、わずか1%の未来に望みをかけて、旅を続けた1年間だった。 死んだ者も生き残った者もいる。そんな想いを抱えたまま地球へ戻ってきた。
 大気の浄化にヤマトと共に最後まで働いた豊橋たちに比べ、BTチームは早々に 解散させられ、山本隊が率先して再建されつつあった月基地へ飛ばされた。結局、 加藤隊長の下にまとめられ全員で赴任した第一基地の吉岡たちは、体制が整ってから の最後で、それまでは新型機の試乗をしたり開発部隊を手伝うほかに、地方へ飛ば されたり、また吉岡のように訓練学校のシステム開発や教練に借り出されていた者も いる。
 ――すぐに月基地なのだろう……その予測は正しかったのだが、せめてその短い 間でも。豊橋が熱心に希望して、建ち始めたマンション群に応募し、得た住まいだ。 “元ヤマト乗組員”という特権もあっただろう。社会人であり功績があるとはいっ ても、2人ともまだ未成年だ(豊橋は先ごろ20歳になったが)。真田さんに後見人に 立ってもらい、親の許可が必要だったから、なかなか事情は複雑だったが。中学校の 寮暮らしの妹しかいない吉岡はさほど苦労しなかったが、まさか妹に本当のことは言 えなかったようで、少し決まり悪そうにしていた。俺は――親にもハッキリ言った。 俺は英を愛している。これからも共に生きるつもりだ、と。そうして、ほぼ勘当され る同様の扱いとなっての今がある。母親だけはいまだにあきらめ切れないのか、山ほ ど縁談のような話を持ってくるが、そんなファイルは見ないで捨てていた。
 俺たちは、2人だけで、歩き出したのだ。……そう思いたいし、信じての今がある。


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 「なぁ……年のうち、どのくらい帰ってこれるのかわかんないぜ? そんでもいい の?」
 物件を選び、場所的な条件(出撃・エマージェンシーの際に、50分以内に基地へ参集 できること、というのが士官の最低の条件である)、設備やセキュリティその他。もち ろん軍とある程度のつながりのある業者の紹介ではある。だからこのマンションには 関係者も少なくなく、その上階の、わりあいプライバシーの確保できる一角(空中庭 園のようなバルコニーがあるのだ)に住まっている俺たちは、まさか将来を誓って共 にいるとは思われないだろう。現に、こうやって平和な地球再建が始まった現在、英 が此処に来るのは月のうち3日あるか無しか。
「まるで通い婚だよなぁ」……金、勿体無くねぇ? そう言った英だったが、俺が 強引に通した。――どちらかが待っていないと一緒にいられないだろ? たとえ今、 別々でも……この先何年もそうでもいい。俺は、お前と俺が“帰ってくる場所”を持 っていたいんだ。
 そう言って説得した。
 英は少し涙ぐみながら――嬉しそうに笑って。「お前がそう、言うのなら」とハンコ をついた。資金は半分ずつ出し合ったし、管理費なんかも送ってくる。“2人の家”な んだから、だそうだ。そうしてシルバーのリング(ドッグタグと同じ材質のものだ) を交わし、英はそれを右手の薬指に、俺はタグに絡ませるように胸に着けている。


 明るい陽光が差し込む。
 それが俺たちが最初に必要とした条件だった。15階建ての建物の13階部分に住居 はあり、屋上にはヘリポートともう一つ発着場がある。――極秘だが、英のCTは此 処へ発着する許可証を持っているのだ。もちろん俺も艦載機は操れるから、資格は あった。
 だからいざとなったら――いつでも来れるな。もちろん冗談だが、英はそう言った。



 
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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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