地球連邦図書館 宇宙の果て分室
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The End of this Load

・・銀の翼・血の赤・・


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【銀の翼・血の赤】
:武士の時代2009-No.47「この道の果てに」



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 北風小僧が、戸口から飛び込んできた。


 ばたんっ! と部屋の扉を開けて、開口一番、そいつは言う。
「おいっ、来たぞ。来た来たっ!!」
風と共に外の冷たい空気も紛れ込んできた気がして、だが興奮して紅潮している 吉岡こいつの顔もかわいーなと思い……で。何がだ?
 と思ったのでそう言った。
「あれ?」と戸口で立ち止まり、「おい、行こうぜ。まだ飯まで時間あるだろ? な、今なら 見られるからっ」と、ベッドに腰掛けていた俺の手をぐいぐいと引っ張る。
「だ、か、らぁ」と俺は見上げてそいつに言った。「だから、何がだよ。最初から、わかるよ うに話せって」
 吉岡 すぐる は、あ、という顔をして。だが次の瞬間
「おめ、知らなかったの? 訓練機の新型。いまさっき格納庫に搬入されたんだっ。もう、 皆大騒ぎだぜっ。早く行こうって!」
――訓練機って…あぁ。昼間食堂で古代が騒いでたやつか。そういやあいつも島におんなじ ようなこと言って、小言言われてたな。くすりと笑って、
「あぁ、行こうか。見られるの?」
と訊ねると。こくりと頷いて、またぐい、と引っ張る。
 あぁそんなに興奮しなくってもさ……俺、飛行科じゃないから関係ねーんだけど。 なぁんて言っても聞こえねーんだろな、こいつはよ。


 廊下を引っ張られるような勢いで外に出ると、ひゅん、と冷たい空気が肌を刺した。 慌てて上着を羽織り……吉岡ってば、そんな格好で寒くないのかな? 興奮して熱くなっ てるってか。
 地下都市には木枯らしが吹くわけじゃない。だが、冬は冬だ。四季をある程度模すつもり もあるのだろうが、エネルギー供給量を必要最低限に抑えるという理由もあるんだろう。 地下都市は此処のところ急激に冷え込んでいて、「あぁ冬だなぁ」と思わず思ってしまうのも 仕方ない。そうしてからようやく“あぁ、地下都市なんだよな…”と気づくのだ。
 吹きっさらしの校庭を囲む外廊下を通り、格納庫に駆け込む。いつもは厳重に施錠される か当直が立っていて自由に訓練生が出入りできる場所じゃないのだが、今日は野次馬がたく さんたかっていた。――やっぱりほとんどが飛行科の面々だが、われわれ第四期生は物見高 いのか好奇心が強いのか……それに。俺たちってなんだか科とか関係なく、皆いろいろやる んだよな。南部もそうだし古代だって戦闘機大好き少年だ。で、実は俺も最近ライセンスね らってたりすんだよね。そんな簡単なもんじゃないとうのは皆、知ってるんだが。戦闘員で すらない島や、砲術の古代が何でもやっちまうもんだから、皆、刺激されてさ。なんとなく 俺たちみんな引きずられてる感じだったりもする。
 だけど、男なら誰だって好きだろう。だいたいこんなとこ来るような連中だ。白銀の翼、 美しいフォルム。それの新型となれば、自分で動かしてみたい、と思うのが人情だろ? 飛 行科のトップグループをぶっちぎりで走っている吉岡の興奮もわからんでもないのだ。


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 「見えるか?」
上級生の後ろからだから、もぐりこんで前へ出ることにした。足の下から、匍匐前進。 ちゃっかり前へ乗り出して見ると、そいつは本当に白銀に輝く機体で、なんと、2機が 装填されている。
 お前ら、何やってんだ。
 邪魔だぞ、下がれ。
 とか頭や肩をどつかれながらも、俺たちはすみません、ごめんなさい、と言いながら も後ろへは引かず、それに目は釘付けだった。
 「……すっげ〜」「あぁ……」
 あれ、と思ったら横に古代と島がいた。古代は目を輝かせて拳を握り締めていて、 言葉には出さなかったが、俺には声が聞こえた。「絶対に乗ってやる」そう言っている に違いない。吉岡は直情径行なやつだから、その古代を見て、それからつぶやくように、 「乗るぞ。絶対」と言ったのを聞いた。


 ――あ。
 ふと見ると一機が動き始めていた。
「お、おい。誰か」「動くのか? 試乗!?」「聞いてねーぞ。でも、すげー」
ぐいん、と機体が動き始め、誰かが搭乗しているらしいのがわかった。


 『――ただいまより試運転を行なう。こらぁっ、そこらへんの野次馬! 邪魔になる場所 から退去!! 基本くらいは習っただろうっ、どけ!』


 教官らしき怒鳴り声が聞こえ、俺たちは慌てて稼動エリアと整備士の動く範囲から下がり、 そうしながらもそれから目が離せなかった。


 「だ、誰だ? 乗ってんの」
「――教官せんせいの誰かじゃ…」「片岡先生さんはだって、目が…」
「ほかにいんだろ、田谷とかさ」「三崎? 嘘だろ」…ざわざわわいわい。
 「ち、ちがう……あれっ!」
格納庫からラインに沿って滑り出した機体のフードから軽く敬礼してきた姿を見ると。
「や、山本だ。二期の」「山本先輩? すげっ。動かせんのかよ、新機種だろ」
「コスモ・ゼロ型だって…」
 俺たちは呆然とその、超有名人の山本 明 が搭乗したコスモ・ゼロ型の壱番機を見上げた。 ずるずると出てきて、あとは一気に火が入り――
『さがれっ! これまでのものとパワーが違うんだ、危険だ。全員、退避っ!!』
俺たちは咄嗟に全力で影響範囲から飛びのいた。


 最初こそエンジンが温まるのに時間がかかったようだったが、それから一気に飛び出した それは、本当に白銀の矢だった。
 『こらぁっ山本! あんまり最初から飛ばすな』
『――天井ドーム開けてください。許可を…』『――調子に乗るなっ』
『中の方が危険です。開けてくださいっ』
 そんなやり取りが入ったあと、急上昇し、地下都市の臨界点へ消えるのが見えた(天井その ものは擬似的な雲で隠され、空のように擬態しているのだった。それを超えるとすぐにドー ムがあり、都市の地盤が見える。何箇所かある発着口を開け、外へ飛び出しただろうことは 想像に難くなかった。



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背景画像 by「素材屋通り」様


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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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