candle icon エンゲージリング
(081) (022) (045) (008) (029) (070)



★このお話は 「赤と青」(by三日月小箱NOVEL)の続きです...
22. 【エンゲージリング】

 「艦長代理、相談があるんだが」
真面目な顔をして、航海長・島大介が艦橋に現れたのは、勤務解除があと1週間後に
迫ったある日のことだった。

 ヤマトは無事、帰還した――滅亡の日、リミットといわれる日まであと数日を残
すだけの、まさに命の瀬戸際に。
歓呼の声、地下都市にようやくの命をつないでいた人々が熱狂的に迎える中。俺たち
は帰還しーーそして早速に改善されたコスモクリーナーDをまず、一度稼動させて。
滅亡を先送りにするためだけに、とりあえず。真田さんと長官の周到な計算の上で。
 それからは忙しかった。
 熱狂する地球市民をとどめ、ヤマトは再び地球上で動ける唯一の艦として(エネ
ルギーがまったく足りなかったのだ)算出された結節点に飛び、この命の機械を操
作しなければならなかった。
と、同時に、地球上にネットワークを張り巡らせ、浄化するにはあと2台あれば。
それは真田さんが帰路懸命に計算し、設計し、すぐに実践に移せる処までを持って
いってあったがため。補助機を組み上げ、大規模にその浄化が実施される。
 その後は――。

 まずは航海班が解体されるのだという。
この島大介はじめ、航海班所属の者たちは、他の艦が動けるようになればすぐに。
航路の設計、艦のメンテナンスと復帰を経て、地球連合市のために資材の調達に旅
立たなければならない。また、各所に点在する孤立した都市国家の救援もあるのだ
ろう。
 そして、俺たちは。次の任務が決まるまでは、まだこのヤマトからしばらくお役
ゴメンになりそうにはない。
艦長代理として――最後の最後まで艦と運命を共にできるのは、嬉しいことだが。
その後、ヤマトがどうなるのか。俺たちがどうなるのかはまだ、不明だ。

 ともかく。
 島たち航海班と生活班が最初に任務解除されるまであと1週間。
「ヤマトの解散パーティをやろうと思うんだが。…艦長代理の了解がほしくてな」
今は地上のある場所に設置されて、すぐに飛び立てる状況にありながら地上に留ま
っているヤマトには、通勤するように人々が出入りする。
俺の勤務場所である第一艦橋へやってきた島は、真面目な顔で、そう言った。
なんだ。島らしくない物言いだな。
 「い、いいけど……皆が集まれるのか?」
「各班長の了解は取り付けたーーあとは戦闘班長と。あぁもう南部と加藤の了解は
得たぞ。班長以外は戦闘班全員オーケーだ」
なに、越権行為で何決めてやがる、と内心思った。
「つまり、俺と、真田さんと徳川さん。戦闘班は両副班長」
「生活班は?」「炊事科チーフの幕の内さんと、生活班は副班長に、な」
なに? つまり、俺とユキ以外のみんな、ってことじゃないか。
 島はその俺の顔を見て、ニヤリと笑った。
 「つまり、そういうことだ――」
何かたくらんでやがるな。
「解散式というかーーお前たちの、結婚披露パーティを、ヤマトでやろうってわけさ」
「なにっ!」
俺――古代進は、本当に驚いた。

 「古代さんっ、とりあえず任せてください」
「艦内でどうしても、解散前にやりたいって、皆言い出しましてね」
「やっぱりもちろん正式な婚約とか結婚は先にしても。俺たちの女神と艦長代理な
んだから、ヤマトでやりたいっしょ」
 わらわらと、南部、太田、相原が乱入してきた。
「お、お前ら――」
「で、肝心のご本人たちの了承がほしいわけだ」と島がまたニヤリと笑う。
「この際、祝われてやってくれ。俺たちの餞別でもあるし、バラバラになっても、
それが俺たちの生きがいにもなるさ、これからな」
いつの間にか、真田志朗の姿も現れた。徳川彦左衛門もいる。
「沖田艦長も、喜ばれることじゃろうて」なぁ、と横にいた佐渡艦医に笑いかけた。
「真田さん――徳川機関長。佐渡先生」
 「古代。皆の気持ちもわかってやれや」
「は、はい……でもユキが」
「ユキはいやがらんじゃろ。派手なセレモニーとドレスがないのが残念じゃがな」
「なぁに、またホンモノの結婚式は派手にやればいいんですよ。ヤマトはヤマトです」
南部が言い切って、艦橋には久しぶりに明るい声が沸いた。


 とはいえ。
 困っちゃったなぁ――どうすればいいんだ。

艦長代理は忙しい――。

この“ヤマト艦内での婚約式”のことだけはぜひ「自分の口から言わせてくれーっ」
と言って、ニヤニヤ笑いとからかいをやめない仲間たちから、さんざいじめられ。
それでも、皆の気持ちをありがたく受け止めて、俺は「いざ、出陣」というような
気分で、森ユキがやってくる翌日の勤務時間を待った。
 実際は生活班はもう、休暇に入っているのだ。
 ヤマトのメンバーはその功績を認められ、最大1か月までの休暇と、その先の勤
務に対しての優先意思権を認められた。艦が地上に下りてしまえば、生活班はさほど
の仕事もなくなる。だから日勤を義務づけられているのは森ユキ生活班長のみだった。
強制休養を言い渡され3日ほどは休んでいたが、ユキはすでに復帰して忙しくヤマ
トと本部を往復していた。艦内でまだ暮らすメンバー(任務が解除されていない現
在はもちろん、その先も地下都市に家がない古代もそうだったが、新しく官舎が整
うまでという者にも)、艦内生活維持のための仕事はある。

 その話を伝えた時、ユキは驚くやら喜ぶやらだった。
ぐすん、と涙ぐみさえして。
「みんな――ありがとう」と言った。それで、決まり。
「本当は、ヤマトの中で結婚できたらいいな、ってずっと思っていたの。だけれど、
仕事柄そんなこと言えないし、無理だと思っていたから――本当に、嬉しい」
「でも、何の準備もできないし――艦内服で、皆の気持ちだけ、だよ」
ううん、とユキは首を振った。
「だから良いのじゃないの――本当の結婚式は、まだ先でって決めたでしょ」
「あぁ…」
古代はやんわりと微笑むと、その言葉に一喜一憂している、美しい恋人の姿を見た。
その視線に包まれてユキの頬はほんのり赤らむ。
(かわいいーー)
思わず手が伸びて、ちゅ、とキスしてしまった。
「古代くんたら……」また赤くなって。

 そして、古代進はどうしよう――と。

古代の困惑は。
実は、結婚式の(まぁ婚約式でもいんだが)重要アイテムの一つ。エンゲージリングを
用意していない、のである。

「こんな時代に、宝石屋がやってるわけないじゃないか――」
島が呆れたように言うのを、南部が
「でも、それがオンナゴコロってやつかもしれませんしね」
「どうすか、真田さんに作ってもらっちゃぁ」これは太田。
「きっと珍しいもの作ってくれますよ」
コスモクリーナーの整備と地球環境の正常化にやっきの技術班長に、そんなもの
頼めるわけがないだろっ。
 「あぁ、いいぞ」
雑談に割り込むように声がして、その技術班長がそこに居た。
「古代も、妙なことを気にするんだなぁ」あははと笑って。
「どんなのがいいか、言ってくれ。あまり複雑なものはダメだぞーーあとユキの
指のサイズと」
真田さん真田さん――それって。いくら何でも作れるといってもね。
 「これでも画家志望だったんだ。あんまり妙なものは作らないさ、気に入らなけ
れば直せるんだし」
普通こういうものって2人で選ぶんだよなぁ――古代進は、親族や家族が待ってい
ないとはいえ、ヤマトからまだ降りることも離れることもできない自分の境遇を、
はぁとため息をついて考え直すのであった。


続く、、、
[to be continued...]

綾乃
Count022−−28 Dec,2006

このページの背景は・・・  様です
inserted by FC2 system