もののふ -武士道-
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このお話は、当艦オリジナル・キャラクターの息子、 加藤大輔 が主役です。
そういうお話が苦手な方は、ページを閉じて、お忘れください。
加藤大輔は、加藤四郎と佐々葉子の長男。地球へ戻ってきて中学校に編入し、2年生。
スポーツ万能の愛嬌のある子で、弓道部に所属しています。
詳細にご興味のおありの方は短編 「小さな城」 「巡り合う」 などお読みください。


 「なぁ、大輔。“もののふ”ってさ――」
昼時間。部室長屋でたむろって思い思いに昼飯にかじりついている同級生たち。
安井がそう言った。
「あぁ――さっきの話?」大輔がおむすびを齧りながら返す。
「うん。もののふたる精神は現代にも通じる日本人大和民族の誇りである――なんちてね」
「なんだそれ」
「――古典の亀井か?」横から武井主将が口出した。「あいつぁ懐古主義者だからな」
「そーそ。やったら“〜道”とか好きでやがるし、えっらいめーわくだぜ俺たち」
顧問になられている剣道部に所属している同じクラスの戸畑が吐き捨てた。
 そーいやそんなとこあるかな。
古典を担当されているだけの安井國彦と加藤大輔は目を見合わせた。
けっこう授業おもしれーけどな、そう思って大輔もなんとなく頭に残っていたのだ。
 単純にいえば“武士道”っていうことなんだろう、と辞書を引いた大輔は思った。

大輔はその亀井に目をつけられている節がある。
贔屓されているというわけではない、成績は悪くないため、怒鳴られたり呼び出された
りすることこそなかったが、「へらへらしてるんじゃないっ、ぴしっとしろぴしっと」
というのが口癖だ。安井に言わせると、
「弓道部なのに、ってのが気に入らねーんじゃねーの。あの先生、ヤマトの人たち崇め
ちゃってるからさ。お前ぇカワイイ系だし、女の子ともよくしゃべるからな。それでさ、
ナンパなイメージあんじゃない」
気に入られてるか期待されてんだよ、ということらしい。
 それはかなり迷惑だといえよう。

 弓引く時は弓引く時。ふだんから厳しい顔してるなんてバカみたいだ、と大輔は思う。
だって人間。いざという時に戦う力があればいいんだし。だいたい、威勢の良い人とか、
怖そうに見える人や、やたらと怒鳴る人ほどアテにならないって僕知ってるし――。
 両親とも軍人そっちの息子で外惑星で育って、この年齢にしてはそれなりに修羅場も
知ってる大輔としては当然の感想であろう。
 だから余計に――“もののふ”って考え方とかなのかな、と思ったわけだ。
「警官とか軍隊の人とか。――道場やってる頑固爺ぃとかいればな、そんな感じだろ
うけど」「今どきいないってそんな人」
いえば古武士風ってやつ?

 「“〜道”ってつくとさ、それらしいじゃん」安井が続ける。
「弓道もそうだし、剣道とか柔道とか」大輔も言うと
「――士道不覚悟!! なんちてね」戸畑が茶化す。
「武道ってまとめるなよな」と由比。「じゃぁ、茶道とか華道はどうすんだよ」
大輔の肩に寄りかかってそう言った。
「あ、そうか」と安井が頭をかく――。まぁいいや、俺、難しいことわかんねーし。
でもさ、「もののふ、ってちょっとかっこいいよな」とまだ言っている。
「武井センパイなんかそんな感じっすよ」戸畑がちょち見上げるようにそう言った。
ふざけてばかりいるヤツだが、隣の剣道部にも尊敬されていたし、西中弓道部に武井
ありってのは他校の関係者に聞いてもわかる。
「――ば、ばか。俺ぁそんな柄じゃないよ」少し赤くした顔がまだ15歳である。
 「加藤の親父さんとかそういう感じじゃないか?」と由比が言うが、大輔はうーむ。
「戦闘機乗りってどうもそういう感じしないんだよね〜」とまたシビアな息子。もっ
と、なんてーのかな。斜に構えてるってか。すっ飛んでく時は真っ直ぐだけどさ…っ
てそれは物のたとえにならんだろうというのは横から武井である。
――武士道ってと、父さんより母さんだよなぁなんて思ってしまうほどに父の四郎は
穏やかで、○○道とか嫌いな感じ。根性、とか言われたことないし。
安井の親父さんは人が良さそうで、会社ではそれなりに偉い人みたいだけどニコニコ
してて人懐こい。安井は親父さんそっくりなのだ。――うち、どうかな。父さん似な
のかな、僕?
 「ヤマトの人たちって案外、そんな感じしないんだよ」とぼそり。皆、案外印象が
柔らかい。それにひょうきんだし。「古代さんくらいかなぁ、雰囲気あるの」
その古代も仲間たちと一緒の時や家に来るときなんかは優しい普通の小父さんだ。
……ただ、雰囲気は凄いけど、やっぱり。

 「ヤマトの人、ねぇ――」安井がしみじみ言って。「あ、別に深い意味はないからな」。
ガキの頃さんざそれで大輔をいじめた彼だが、あまり積極的に触れられるのを好まな
いのも安井は知っていて。だからこそ南部勇人や大輔なんかとも親友やっていられる
のである。
大輔もふっと笑って思った。祐子あたりに聞くと「そんなの、古代さんに決まってる
じゃなぁい」と目をハートにして言いかねないな。くす、と大輔はお茶を喉に流し込
みながら笑った。
――でも確かに古代さんって指揮してる時は武士もののふって感じはするけど。
幼い頃に一度だけ見たあの艦橋での風景を彼は思い出していた。


 「大輔、強くなったんだなぁ」
小さな対校試合を忙しい合間を縫って見に来てくれた古代進艦隊総司令――大輔にとっては
第二の親のようなものだ――に食事など奢ってもらいながら古代が言った。
普通の小父さんみたいにこんなことしている余裕はないはずなのに、自分の息子たち
だけでなく、自分の行事などに日程が合えばこうして駆けつけてくれるのは嬉しい大輔
であった。
まぁ大きな大会だからといって日が合うことなどないから。たまたま時間があった、
というのも一つの理由。それと、子弟で武道らしきことやっているのは僕だけ、という
理由。また、父さんが地球にいないから、というのがもう一つの理由。
――で、時々なんかは母さんと一緒に来ちゃったりなんかして。一度は大騒ぎになって
しまった……2人とも気にしないからいーけどさ。もっとも、母さんにいわせれば
「休みが同じなんだから仕方ないでしょ」ということになるのではあるが。
 ということで、古代は有名人である。会場に長くいるといやおうなく目立ってしま
うので、さっさと抜け出してきた2人である。
「――武道なんだけど、こういうの、軍隊には取り入れられてないんですか?」
うーん、と古代さんは笑って、「そうだな。実用的じゃないしな…だいたい1Gで空気
のある処でしか効果的じゃないし、環境で簡単に軌道が歪むしな。……俺はできないよ」
と言われた。「母さんも父さんもやらないだろ?」こくり、と大輔は頷いて。
「まぁ、電子弓アーチェリーはできるけどね。持ち方が反対だしもう少し小さいから。
こちらの方が実戦的なんだ。でももうそれも今の訓練学校では必修じゃない」

 「ねぇ、古代さん、どう思います?」
ふと大輔はこの間の雑談の顛末を、古代進に訊いてみようと思った。
祐子が“もののふのかがみ”と言ったひとだ。 あの亀井ですら随分信奉しているらしいひと
「――う〜ん。面白い言葉を習うんだね」
そういえば惑星探査の艦内でそんなこと言い出したヤツがいたな。あれは、雷電とか
坂巻とか…土門だったか。やたら熱血野郎が多かったから、あの時は。
「もののふっていうと物静かなイメージがあるだろ」
くるくるっと面白そうな目をした古代が大輔にそう言って、大輔も「そうですね」と
頭にいろいろな人の顔を思い浮かべた。

「俺はそういわれて思いつく人は何人もいる――あの時代な。皆そうだった」
「沖田、さん?」――ヤマトの初代艦長だった沖田十三と古代進の関係は、母親から
も聞かされていた。「あぁ」目が細くなって少し遠い目をした。
「沖田さんはまさにそのものだったが……艦隊司令だった土方さんだな、最初に思い
浮かぶのは」その名は古代の口からは初めて聞いた。
「俺たちの頃、訓練学校の校長でね。いやずいぶん悪さして怒られたが…」
くすくすと笑う。「奉職してからは敵対したこともあったよ」
それはテレサの声を受けヤマトが飛び立った時の話なのだが――正史からは抹消された話だ。
「あと、デザリウムの時の艦長だった山南さんも、ね」
古代はまた紅茶を口に運んだ。
「そうしてみると、ヤマトの艦長は皆、そんな感じだな――俺は置いておいて」
「――古代さんだって立派にそうじゃないか」大輔が真剣に言うと
「そうか? ……いや、どうだったかな」ちょっと複雑な表情になった。「俺はさ。皆に
助けてもらって何とか勤めただけ――ヤマトは特別な艦だからね」と自嘲ではないように
古代はそう言って、またけぶるように笑った。
「――でも。今じゃ古代さん、立派に貫禄十分の艦長さんじゃないか」と大輔。
皆、鬼の古代とか、カリスマ指揮官、なんて言ってるさ。母さんが時々話してくれる。
それには黙っている古代だったが。結局、
「信念の人、ってことだろ――それならたいてい艦長クラスや指揮官にはそういう人が
多い。黙ってて皆が動く、というのも指揮官の資質だしね。それに皆、命がけだからな」
そんなことで古代が締めくくった。
 なるほど。
大輔には腑に落ちるものもある。
信念の人で――命がけで。そしてもう一つは、静かなこと。
当てはまる人がいるかな? そう思って目の前の、とても穏やかな笑顔の男性ひと
また見上げた。

 ん? どうした、大輔。
まぁ今日はよくがんばったよ。加藤も喜ぶだろうさ。
「――父さんとは、会うの?」「あぁ、明後日には月で約束してる。何か伝えておこうか?」
考えてみれば妙な親子なのだが、それを不自然とも思わない生まれ育ちだ。
「久しぶりに一緒だね」
にっこりと笑う大輔の笑顔は、古代には少しの感傷を呼び覚ました。
 また。そんな顔して。
時々古代に向けられる表情が、彼は実は少し苦手だ――叔父さんのこと考えてるって
わかっちゃうんだよ。でもね、仕方ないね。なんで僕って叔父似、なんかしちゃった
んだろうね?
「そうだな――お父さんが乗ってくれると私は安心だよ。それに、楽しいしな」
軍務に楽しいも嬉しいもないのだろうが、旧友と会うってのはそんな感じなのかなと
思う大輔。「よろしく言っおいてよ」生意気にそう言って。「で、僕が大会でどのくらい
強かったか、ってオーバーめに話しておいてくれると嬉しいです」
ニヤ、と笑って言った大輔もなかなか大物であった。


 古代さん――古代さん。
でも僕は知っているんだ。けっして見かけの強そうな様子や貫禄だけじゃなくってね。
いざという時に、そんな人たちが、どれだけ強いか。
信頼し合った大人たちが、どんな力を持っているか。
 そうだよね――信念っていうのか。
だから古代さんたちは、強いんだよね。
そういう人を、今でも本当は“武士もののふ”っていうんだよねきっと。
 柔らかくて、優しくて。普段は穏やかで。
スキだらけのひょうきん者でも――人は見かけじゃない。
だから、僕は、貴方が誰よりももののふだと思うんだよ。

Fin


綾乃
Count052−Phese10−−15 Apr,2007

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あとがきのようなもの

count052−−「もののふ」
 オチは古代くんに持っていきたい・・・ファンとしてはそうやって噂話をするのは楽しい。−−そう考えていたのですが、どうやらそういうお話は他所様で面白いのがあるらしい。
 「小さな城」を書いていてふと思いついた加藤四郎の息子・大輔の去就。いちお、武道=弓道なんかやってるし。弓道部の男の子たちは武井主将や同級生の由比くんなんかを筆頭に、けっこうカワイイ子揃いで人気も抜群。そうそう、「部室長屋」ってのは運動部の連中が着替えたり雑談に使う共有のダベり部屋で、廊下から中庭に突き出ていたりするバラック建ての…ってこれイメージできた方、もしかして自分の学校にそういうのありましたね?
 ともあれ、親子みたいに仲良しな大輔と古代進をどこかで書いてみたかったので、ここで出しました。
 現場見てますからね、大輔くんは。普通の中学生、とはいっても、イメージでいうカッコいい大人とはちょっと違うってよく知ってたんじゃないかな。そしてきっと本人の知らないところで、同級生たちなんかに、「やっぱり俺たちん中ではダントツ“もののふ”なんじゃない、あいつ」とか言われてたりするんですよ、きっと。
 ともあれ。まぁ「武士道」を体現してる人ってことなんでしょうか。・・・綾乃的に、ヤマトのキャラクターでは一番に土方総司令が思い浮かびますね。最初から最後まで、もののふって感じの硬骨漢でした。沖田艦長はもちろんそうですが、見かけによらず、藤堂平九郎長官もそうなんじゃないかな、と思っています。
 ではまたどこかでお会いできましたら(_ _) ☆ ・・・綾乃・拝

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