夕陽浴びて
「進さん、ひどいわ。一言も相談なし、なんて」 古代はぽり、と頭をかくと、ごめんごめん、と困った顔をした。 「だが、できるよ、君なら」「…そうかしら」「人材の育成が急務なのは 君だって知ってるはずだ。…僕らがそうそう動けないってことも」「えぇ」 ユキは頷いた。 できるだろうか。 古代艦長の地獄の訓練−−あの訓練航海の時も、デザリウムへ向かっ た戦闘の旅の時も。そして惑星探査の度でも、次元断層の調査の際も。 ヤマトではどれだけ厳しい訓練を課し、一人でも多くの人たちが生き残れる ように心砕いたか。それぞれが力を尽くし、使命を果たせるように…そう学 んだ。だからこそのヤマトで、だからこその私たちの今の命と、地球がある。 −−できるだろうか、私に。 それを語り継ぐことが。受け継ぐことが。 鬼になって、進さんたちのように、彼らを宇宙へ送り出すことが、できるか。 「責任は、軽くは無い−−」 ユキの想いがわかったように、古代が言った。 「だが一番、僕らの想いを理解しているのも君だからね」 真剣な目の中にユキの一番好きな、優しさを宿して、古代の目が見ていた。 …えぇきっと、とユキは頷いた。 心配なのは技術なんですけどね。 とユキが言うと、これがメニューさ、と古代はバサリと計画表をテーブルの 上に拡げて見せた。 え? 何これ……演習と実習ばかりなんですけど。 仕上げと実戦想定の訓練が多いんだ。それと、演習。 えぇまぁ。演習なら何度かやりましたけど−−うう、大丈夫かしら……ユキ ちゃんドジだしな、と心の中で首をかしげる。 あと、看護の方も基礎だけは頼むよ。 そうね、艦内でもやったわね、とそれはニッコリ。 それにしても。 ともかく、やってみるしか、ないか−−。 森ユキ−−これでもヤマトの戦士、ですから。うん。 ということで。 「悪い、ユキ、休暇なしになった」 突然、いつもの顔に戻って古代が手を合わせた。 「えぇっ!?」としかめ面。…怖い、ユキの顔。 「急に、すぐ火星に来いって…」 「まぁっ!」 いい加減、働きすぎよ。防衛軍はいったい何考えてんのかしらねっ。 と、ユキの怒りが炸裂する前に−−長官、逃げたわねっ、と内心思ったので あった。 「でもまぁ…今日は帰れるから、さ」 「当たり前ですっ」とちょっとふくれっつらをして横を向いたユキに 「怒るとキレイな顔が台無しだよ?」と耳元にこっそり囁いて、自分も赤くなっ てしまった古代進−−艦隊艇長形無し。 「せっかく早く帰って良いって言われたんだから…」 赤くなってじと目で見ている彼は、相変わらず少年のままのようで。 ふっと笑って、「別に怒ってはいないわよ。だけど、心配」 安心したように、あぁと顔を上げて。行こうか、と古代は。 えぇその前に。 「おかえりなさい、進さん」「ただいま、ユキ」 立ち上がって何をしていたかは、この際見なかったことに。 −−もしもし? ここ防衛軍の応接室なんですけどね? お二人さん。 絵のような2人の、めったに見られない防衛軍での睦まじい姿が、揃って ロビーに現れるのに、それから数分かからなかった。 |