02. 【片思い】 オリジナル設定・登場人物がありますので、苦手な方はパスされてください。
作中の ブラックタイガー隊員・ 工藤雄一 については、「 小箱事典」の設定をご覧ください 鶴見二郎 は、「ヤマト2」で登場する月基地第三支部隊長くんです また、 工藤 は三日月小箱 NOVEL「YAMATO 2199〜あざやかな光芒」でも活躍します 「どうした、工藤」 ぽん、と肩を叩かれて、ぼぉっとしていた工藤雄一は、振り返った。 見ると、鶴見二郎である。 「あれ、見てたんか?」 2人の目線の先――は格納庫の一角。森ユキが、古代進に何やら怒鳴られながら、 コスモ・ゼロに張り付いている処。 ふぅ、と鶴見もため息をついて。 「おめーの気持ちもわかるけどよ」「なんだよ」「諦めろや…」 うっせぇ、と腕を振り解いて、それでも、そのまま立っているだけで動こうとはしない 2人である。 「古代、かぁ――」 「最初、どんな若造かと思ったけどなぁ」これは工藤。 鶴見は古代や加藤たちと同期だが、工藤は岡崎隊とともにヤマト艦載機隊へ編入された 先任。当然、古代たちよりもパイロットとしてはベテランであった。 「あぁ……いいやつだろ」 「あぁ」 「優秀だし」 こくりと工藤はその言葉に頷いて、「……何より、善い上官さ」 とん、と鶴見はまた工藤の肩に手を乗せ「あぁ、そうだ」と言った。 その鶴見の目線も森ユキをじっと見詰めているのに工藤は気づく。 「もしかして、お前ぇもか?」 「ん? さぁな、どうだかな」 にへら、と笑いで誤魔化して、だが目は笑っていない。 そのまま、2人してまた古代とユキを見やる。 「そーいやぁ、あいつさ。わかってんのかな」と、鶴見が言う。 「わかってるって?」 「古代だよ」 手を広げて首を振る。 「なんなんだ、にぶいやろうだな」 「ユキの態度見てりゃ、俺たちですら丸わかりだってのによ」と工藤が言った。 「まぁいいじゃないか。古代が自覚しないうちは、ユキは俺たち皆の女神様ってわけだ」 あながち冗談でもないような口調で鶴見が言うのを、工藤はまぁそうかもしれねぇな、 と唇を歪めて受け取った。 「だから! ……何度言わせるんだ、そうじゃないだろ」 「――何度って。まだ2回目ですっ」 小さな声だが、はっきりと森ユキは否定した。 「何回目だろうと、1回は説明したろ? それでできないんだから復習不足か ――なぁ、生活班長。君、本当に向いてないみたいだから、やめろよ」 何度目かのため息をつきながら古代進はその同僚の生活班長に言った。 古代にしてみれば、危険なゼロの操縦なんかさせたくない。 戦闘機で飛び出すっていうことは敵の目標になるということだ。 そして、それを駆るということは――敵をその銃で撃ち落すことを意味する。 いかなベテランで天才だとしても戦闘機で相手を撃たずに逃げ切れるものではない――乗っ て、出た限りは。戦い、撃ち落し、敵を殺して、戻ってこなければならないのだ。 ユキに――(おそらくは)愛し始めた娘に。そんなことはさせたくなかった。 君の手は、命を救うためにある。看護師として、人々の健康を守り、慰安し、救いを 差し伸べてきた。そんな手に、銃ですら持たせたくないのに。ましてや戦闘機など。 ――だけれども。やるからには完璧に教えておかねば、出た途端に、殺られてしまう のだ…。それが毎度の古代の葛藤。 「俺、艦長に進言してやってもいいぜ? 何か目的があんだろ?」 「――絶対に、乗れるようになるのっ」 またかよ、と思う、古代進であった。 森ユキと2人で――合法的に、いられる時間。こうして教えてる時には考える余裕も ないけれども、宇宙2人で飛ぶ時は――それなりに至福の時間。 そんな時、俺が守ってやるからいいのに――なぜ君はそこまで、何度もの問いが襲う。 女心など、わかる古代ではない。 そこへ。 『戦闘班長、古代っ! 至急艦長室へ来いっ!!』 一瞬だが、残念そうな表情が古代進の横顔をよぎった。 「古代班長、ありがとうございました。あと、もう少し復習しておくから」 「おーいいぞ古代、あとは俺がやっとくよ」 どこから現れたか、ひょこ、っと隊長が顔出した。 「加藤か。適当に切り上げさせてくれ、あと、頼むわ」 と手を上げ、駆け去っていく。 ふっと機体に手をかけて笑いながらユキを振り返る加藤三郎。 「おめ〜さんも、相手が鈍いと苦労すんな」と言った。 「――加藤くん…」白い首筋がぽぉっと赤くなる。「え、そんな」バレバレなの? 「い、いえちがっ――私、本当にコスモ・ゼロに…」 「あぁ、わかってるって。もちろん使命感があるってことも、おめぇさんが真剣だって こともさ。だが、どっちもに“鈍い”だろよ、あいつは」 ニヤリと加藤は笑って。――こくり、と頷いたユキだった。 「行こうか」 まだそこにいた鶴見と工藤は2人ながらに肩に手をやって。 「古代も行っちまったことだしな――そろそろ夕飯の時間だ」 「あぁそうだな……」 ふっと顔見合わせて。 「だけどな――」 鶴見がその明るくてひょうきんな顔をひょいと向けた。「工藤さんよ。――本気なら」 「なら?」工藤も体を止めて訊ねかえす。 「今のうちに告っといた方がいいかもな……」 「チャンスはある……なんて、思うかお前?」 「――いや、無い」と唇をゆがめるようにして、鶴見は言う。「無いだろうよ、おそらく」 (だけれど――後悔したくねーだろ) 少し年長の彼に向かい、若い鶴見はそう心の中で言う。 ……次の医務室勤務、何時からのシフトだったかな――。 それとなくチェックしてしまっている森ユキのスケジュールを頭の中で描きながら、鶴見は (皆、真剣なんだぜ) と自分に語るように心の中でつぶやいた。 Fin ――Fin 「宇宙戦艦ヤマト」イスカンダルへの往路 綾乃
Count029−−12 Feb,2007 |
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◆現在(2007年2月)のデータ | ||||||
1: | No.57 コスモ・ゼロ(001) | No.100 誕生(002) | No.15 兄と弟(003) | |||
No.41 ヤマト艦長(004) | No.21 再び…(005) | No.53 復活(006) | ||||
2: | No.001 一目惚れ(007) | No.78 温泉(未) | No.82 夢(009) | |||
No.03 旅立ち(010) | No.84 First Kiss(011) | No.83 プライベートコール(未) | ||||
3: | No.09 もう、我慢できない(012) | No.18 ありがとう(013) | No.20 告白(014) | |||
No.26 ふたり(015) | No.69 もみじ | No.80 自棄酒(未) | ||||
4: | No.29 My Sweet Home(t016) | No.70 冬木立(017) | No.22 エンゲージリング(022) | |||
No.08 願い星(未) | No.56 二人きり | No.31 新入り | ||||
5: (paraA) |
No.06 心の変化(019) | No.95 ラブシュープリーム(020) | No.75 旅行(未) | |||
No.58 さよなら(未) | No.96.約束(未) | |||||
6: | No.02 片思い(029) | No.43 三つ巴(未) | No.04 メッセージ(未) | |||
No.62 チョコレート(033) | No.48 若い人(023) | No.14 記念写真(025) |
あとがき のようなもの
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count029−−No.02 「片思い」 第六期に、やっとかかりましたが、まだ積み残しがあるなぁ…。 2007年2月 綾乃・拝 |