air icon 恋人と友情の間

CHAPTER-17 (086) (073: 1/ 2 /3 /4) (038) (087) (061) (099)



No.73 【大好き!】より
 
= まえがき のようなもの(ご注意含)=
『宇宙戦艦ヤマト』の創作二次小説です。
お題は「古代進&森雪ファンのための100のお題」からお借りしたものですが
登場人物は、まるきりのオリジナル・キャラクターで、和気くん友納くんといいます。
オリジナル・キャラが苦手、という方は、このまま引き返してください。

もとのお題は「月に咲く空」様からお借りした「欲しがる想いに10のお題」から
「そっと背中から抱きしめる」で、少し怪しいbut本当は熱烈な友情、という2人を
イスカンダルへの最初の航海の中で書いてみた短編です。
別名“艦載機隊下っ端物語”というシリーズもので、『新月読本05:艦載機隊別冊』
に収載予定で制作中だったりもします。
古代進に心服している下士官たち−−このうち、友納は同期。和気は別の経緯を辿って
ヤマトに抜擢された、年齢も一つ上、という設定です。

「幼馴染(そっと背中から抱きしめて離さない)」:第一航海
「正義の反乱(助けて!)」:ヤマト2 に続くストーリーで、テレフィーチャーと
『ヤマトよ永遠に…』の間の時代です。この後、「この緑の地球を(再生)」:永遠に
に続く4部作となります。物語としては完全にOriginalですのでご注意ください。
古代も島も出ません。加藤や山本すらこの話には登場しませんので(殉死してます)
ご承知のうえ、先に進まれる場合は、下からどうぞ。
西暦2202年ごろ。ヤマトはイカルスに隠されて、古代守が参謀として本部に詰めています。




flower clip


= Prologue =

 「なぁ、お前さぁ」とある時、親友が言った。
「『大好き!』なんて男が言う時って、どういう時だと思う?」
窓の方を向いたまま――似合わねぇ科白を吐いて、照れてるかと思ったら普通の口調
だ。窓の外には敷地内に植樹された広葉樹からひらりと落ち葉が舞っていて――あぁ、
そろそろそんな季節なのかな、なんて思った。
「――どういう時だろうなぁ」俺はマグカップを取り出して、もういいかな、と思っ
た紅茶ポットをテーブルの上に置く。よしよし、ころあいも良く。……こぽこぽと紅
茶を注いで、「伸義。そんなとこ立ってないで、こっち来いよ。茶、入ったぜ」
と言った。
「あぁ…」そう言って来た伸義は、「女ってなぁ、なんで簡単に大好きだの愛してるだ
の言うんだろうな」――さっぱりわからないや、という風に言ってソファにぼす、と
座ると、ふぅふぅと(彼は少し猫舌なのだ)息を吐いて旨そうに紅茶を飲んだ。
「旨いな……お前の淹れてくれる紅茶、やっぱ旨いわ」
にこりと笑う顔は、本当に嬉しそうで、先ほどちょいと憂い顔だったのが錯覚かなと
思わせる。いやそんなことないだろう――だが二人で暮らし始めて半年。言う必要が
あれば言うだろうし、そうでなければ詮索はしない……それが独身のいい歳した男同
士、二人で暮らすための暗黙のルールだ。
 俺たちはそんなこんなで、あの史上最大の危機以来、なんとかや
ってきた。

 傷跡が深くなかったか、といわれれば嘘になる。
 あの戦いで喪われたものの多さといったら――筆舌に尽くし難い。本来、同僚であ
るはずの伸義はもとより、俺にとってだってあの、苦しかった旅を共にした大切な仲
間たちだった。――事故でそこから外れ、置いていかれた格好になったこいつはまし
てや……さらに、それがために生き残ったという枷を背負ってしまった。
 ――もし。
歴史に「if」は無意味だというのはわかっている。だが、もしあの事故がなくて、こ
いつがあのまま通常の予定どおり勤務に就いていたら――こいつは一緒に行っただろ
う。そして、全滅した仲間たちと行動を共にして……十中八、九――還らぬ者の中に
名を連ねていたかと思うと……今でも俺は胸の奥がキリキリするのを感じる。それを
――すまねぇ、加藤さん、山本さん、鶴見さん……と思いながらも、感謝したい気持
ちにもなるのだ。
 急に大人びた、というか。人を寄せ付けない表情を見せるようになった伸義――彼
の奥の方にはきっとその想いが、おそらく俺自身よりもずっと強く巣食っているに違
いない。

papillon icon

 たった3か月だったが、俺の身辺も激変した。“ヤマトの関係者”としていきなり
軍に1週間も拘禁されたのは参ったが、その後はローカルに地上からバックアップ体制
を敷き、自分の会社の航路もいろいろ振り回された。会社ごと戦時下に置かれた数週
間は、本当にどうなることかと思いながらも、案外、冷静に捉えている自分――相棒しゃちょう
も動じないでいてくれたのが助かったし、平和主義者で軍なんぞ大嫌いのクセに対処
は的確で、たいしたやつだと思って信頼を深くしたのも確かだ。
 だが俺自身、戻れないものもあった。
 結婚するつもりだった彼女とはついによりが戻らなかった。俺が言い出してこの
友納信義と同居している。
新しくマンションに独立して移ったりしたので、口の悪い連中は同居じゃなくて同棲
だろうと言ってくれるが、俺たちは別にそんなんじゃない。
幼馴染の親友同士――年はあいつが一個下で、訓練学校も別でヤマトで再会した時は
驚いたが……なにせエリートの行く士官学校組に居たんだもんな。子どもの頃からの
様子からしたら信じられなかったが……。自分では“軍人は天職”だと言っていると
おり、いまさら平和になったからって民間には転じられないと言っている。――結婚
とかもしないそうだ……それには別の理由があったけれど。
 俺たちが疑われるには十分な理由がある。友納は俗に言う同性愛者ゲイで、これまで
付き合った恋人や愛人は全部、男。10歳くらいには自覚していたというから筋金入
りだ。
 だが、俺たちの間にそういう感情は無い――無いと思うし、ましてや関係なんぞは
無い。だから本当に、友人同士の同居、なんだが。……周りがそう見なくても仕方な
いだろう。それにあいつは見かけに拠らず、そっち方面はけっこうお盛んらしい。意
思が強くてクールな処もあり、抑える時は抑えることもできるんだが、その気になっ
たら行動は素早いし。
 『――あっちは凄いらしいぜ? お前、イイ思いさせてもらってんだろ?』
『オトコってのはそんなにいいかねぇ、あんな美人振ってちゃうくらいにさ、へへ』
そんなことを言ってくれたやつは、もちろん、俺の鉄拳を見舞われることになった。
 だがまぁ、色事にも強いらしいのは普段の行動を見ていてもわかる。

 ただ――本人が言ったように。
「いくら友人だって言ってもなかなか信用してもらえないからなぁ……困ったなぁ」
それはそうだ。ゲイの男が相棒の男と二人住まいで、それを“友人同士”だと信じろ
という方が無理だろうってもんだ。俺はべつだん気にしなかったが、伸義はしばらく
本当に悩んでいたらしく……だが最近また恋人ができたようで、そういうことは言わ
なくなった。
「ん? やっぱそんなのが障害になる程度じゃダメだってわかったんだ。だからいい
んだ」と明るく言っているから、きっとラブラブってやつなんだろう。……俺は少し
は複雑な心境なんだが。まぁ幸せで、明るくなるのはいいことだと思う。

 だからといって伸義が恋人という相手と暮らしたいと思い、どこかへ出ていって別
の家庭を築く(?)という心配はしたことがなかった。不思議なことだが、あいつは
いつも俺の処へ戻ってくる――そう信じていられたのが理由はわからない。
 俺は伸義が好きだったし――だがあいつらがするように愛してやることもできない
し、また伸義も俺にそんなこと望んでいないのはわかった。一度以前、それらしいこ
とを言ったら、最初は「気の迷いだから」ときっぱり否定され、次に本気で告白めい
たことを言っ時――あの顔を忘れることはできない。絶望というのか、哀しみ。すべ
てが終わったというのはこんな表情なのか、という顔をされたので、俺は慌てて冗談
に紛らすことにした。
 だが俺が(その時は)本気だった、少なくとも本気のつもりだったことはあいつも
わかっていたと思う――つまり俺たちは、その道は選ばなかった。今でもあの時は本
気だったと思っているが――不思議なことにあいつに対して情欲を感じたことはない
から、それがどういうことなのかはいまだに不明だ。


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