片恋−あやしい2人


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【片恋−あやしい2人】

−−A.D.2203頃/「ヤマト3」
:二字熟語 No.38 【片恋・b】
「艦載機乗りたちの非戦闘的日常」

 
−−お題2005-No.92 「仲間たち−CT隊」 another story


 「なぁ」
 いつものように、6人部屋に溜まって時間をツブしている面々。
このタイプの部屋は休憩スペースが付いていてソファがあるのでCT隊の溜まり
場になっている。
こういう時、話題になるのは、やっぱり艦内の噂話――なにせ180人も乗って
いるんだ――と、女の話。あとは、スケベ話か――なにせ、お年頃が多い。
 入り口のところの柱に寄りかかったままの加藤隊長は、普段そっちの話には
あまり加わらないのだが、突然、口を挟んだ。
「女の子ってのぁ、こう……柔らかいものなのか?」
手で、くねっとした曲線を描いて。
川本達哉はそんな話題に入るでもなく入らないでもなく、ペラペラと雑誌をめ
くっていた。
その、きょんとした加藤の様子があまりにおかしかったので、隊長の顔を凝視
する。新兵の何人かが、反応した。
「どうっしたんですか、たいちょぉ」と同期の仲原。
「隊長も、オトシゴロ、ってね」ニヤニヤする山口さん。
「いや……そうなのかな、と思ってさ」とぽりぽり頭をかくあたり。
……隊長ってたって歴戦の戦士だけど、年は――19歳。俺たちと同じなんだよ
な、と改めて思ったりした。
 「加藤よぉ。急に色気づいたってか?」
そこでそ〜来るかの、溝田先輩。
「ふぅん??」ニヤニヤと笑って回り込み、顔を覗き込む。
「やめろよ…」溝田先輩にたじっとなっている隊長ってのも珍しいな。
ふふん、と彼は言って、隊長は決まり悪そうに顔を逸らした。
 それまで俺たちは、スケベ話の延長で、女性の肌がどうのこうの、って話をし
ていたんだ。皆、見栄を張ってたりするから本当のところはわからないが、18や
19の連中が多い艦内、経験のあるヤツがいったいどれくらいいるんだろう。今
期の繰上げの連中なんて、まだ恒例“卒業式”もまだだろうからな――って俺も
連れて行ってやってないけど。

 ふと思うんだけど。ヤマトのCT隊ってのはだいたいイケメンが多い。
歴代の残されたフォトコピーを見ても、特にそう思う。
初代隊長の加藤三郎さんや山本先輩は双璧ってやつ。特に山本さんなんか、
どこのモデルかと思うが、その実績たるや凄まじいものがあって…噂によると
見かけによらず喧嘩なんかめちゃくちゃ強かったんだそうだけど。初代とガトラ
ンティス戦までの人はもうほとんど死んじまってるけど、工藤さんや岡崎さんも
男っぽくていい感じだし、松本さんなんかは可愛いって感じだ。二代目の坂本
先輩の代はあまり乗ってない、にしても。加藤隊長や揚羽もイイ男だもんな。
――それなのに皆、飛行機バカというか。
 実は、ほとんどのヤツが女には疎いのだ――口先だけ、なのかもしれない、
とか思う。女性に人気があったのは山本・加藤両先輩は別格としても、宮本
先輩と、当時は戦闘班長だった古代さん、だったんだそうな。
だけど古代艦長、そういう点は真面目だったっらしいからな、その伝統ってや
つか。う〜ん、溝田先輩はどうなんだろう。揚羽は見かけによらず硬派だし。

 
 女の子ってのは柔らかいもんだ、なんていう話を連中がしていたから、ふと疑
問に思っただけだ。と隊長は言った。触るとどこまでものめり込んでいくんじゃな
いかと思う――誰だったかが言っていたことがある。柔らかくて、華奢で、壊れ
てしまいそうなのに、どこまでも受け入れてくれる感じがして――神秘だよなぁ、
って。
 そんなものなのかな、と川本もふと思った。――そういえばそうだったかな、
程度の、遠い記憶。
加藤は思う。――戦闘員として鍛えられている体は、たとえ女性であっても
“柔らかい”という表現はあまり当てはまらない。
肌は吸いつくようで触り心地はよいし、でもところどころ火傷と傷で引き吊れて
いる。首筋なんかは確かに華奢で、縊れば壊れてしまいそうで――でも、腕も
足も背中も、弾力もあって強くて、弛緩している時でなければそれは、自分と
同じくらいに張り詰めているから。
確かに、秘された部分は柔らかい――という表現が当てはまるかもしれない
けれど、それよりももっと……なんというか…。
 頭に血が上ってきた。

 「隊長、大丈夫ですか」誰かが言うのが遠くで聞こえる。
「熱でもあるんじゃ」「おかしいっすよ」ざわざわ、と。
 あ〜、おれ。どうしたんだ?−−というのは、加藤の内心の、声。

 

 「女によるだろ、そりゃ」坂井先輩がさらりと言う。
「それとも、だな。具体的に誰かを思い描いてる、んだろきっと」
ニヤニヤしながら、溝田先輩がそう追い討ちをかけると。
「あ〜っ! そういうことですか」「なるぅ」「ほほっ」
連中が騒いだ。「それで、か」と俺も口車に乗った。
「ばぁか、戦闘士官の身体が柔らかいわけないだろうが」
しゃらっと…溝田先輩が言葉を継いだ。
 「お、おいっ――」
焦る加藤隊長。この場合、墓穴を掘ったというべきか、溝田さんが鋭いという
べきか。次の瞬間、加藤隊長の拳が溝田先輩の頭を直撃しそうになったが、
予測をしていたのかひょいと避けられて、空を舞った腕はバランスを崩して、
こけた。

 
 
背景画像 by「Dream Fantasy:幻想宇宙館」様

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