そら 駆ける うお ・2



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−−――コスモタイガー隊、愛と誇りと。
A.D.2201年、月基地。


【宙駆ける魚・2 コスモタイガー篇】


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星の海の中に、一点のシミのように黒い空間がある。
――母なるふね、ヤマトよ――


= 4 =



 地球人類の存亡をかけた戦いが終わり――地球は青さを取り戻していった。


 古巣の月基地に再配属されて、佐々はその後の半年を過していた。
 「なぁ、この荒涼たる月面にもいいこたぁ、あるってな」
ヤマト生き残りの一人、宮本が言う。
「地球の色が戻っていくのが見えるからさ――」
「あぁ……」
 イスに足を上げて窓外に写る天空を眺めていた加藤も、そう言って外を見上げた。 地球が太陽の光を受けて輝いている。
 その色はまだ赤みがかってはいたが、わずかの間に徐々に大気を取り戻し、 われわれの心の故郷に戻りつつあった。
「信じられねぇなぁ、ついこの間まで、毎日切った張ったをやってたのによ……」
これは血の気の多い吉岡である。
「まぁオレたちがヒマなのはいいことよ。……こう毎日訓練ばっかりじゃ飽き飽きするけどな」
 「だがなぁ、周辺地域はそうのんびりもしていられないってよ」
どこからそんな情報を持ってくるのか、工藤が言う。
「この間、艦長代理……じゃない、古代艦が、ガミラスの残党に遭ったっていうからな」
 「ええ!」「ほんとか!!」
加藤はがばと跳ね起きると、工藤の腕をつかんだ。
「いて……オレも聞いただけだからよ。だが、外周艦隊は時々小さい戦闘があるらしいぜ」
 「・・・」
「ちぇっ。だからオレたちもヤマトに乗せてくれりゃぁよかったのに」
と吉岡。
「まぁそういうわけにもいくまい。古代の艦だって旧乗組員は15人ばかしだっていうしな」
 加藤はそう言うと、もう一度宇宙を見上げた。


 「15人? いくらなんでも少ねぇんじゃねぇ?」
「あぁ。新乗組員の経験値を上げるってこともあるらしい。 上官クラスはバラバラにされちまってるさ。古代にくっついて乗れたのは相原くらいだろう」
 古代進が辺境への警備隊としてヤマトを駆り、 そのまま婚約者のユキを残して太陽系外周の航海に出たのは、 帰還してひと月にもならないうちだった。  地球を救った英雄の扱いに困ったというのが理由の一つじゃないか――。
 少なくとも古代の揮下にいた連中はそう考えている。19や20歳はたち の若造が実績を嵩に官僚機構の中央に躍り出たらどうなるか……。
 確かに若すぎる。だが大々的に名誉を受け、地球でそれなりの地位を得て働いていてもいいはずが、 外周艦隊の艦長とは。しかも艦長“代理”のまま。
 島は輸送船団の艇長……体のいい運転手だ。
 しかし、彼ら自身はむしろ積極的にそれを望んだと加藤は聞いた。
 責任感、とでもいうべきもの――。だが、同僚たちを死なせたのはあいつらの責任じゃない。 むしろ生きて還っただけが奇跡のようなものなのに。


 佐々はユキからの通信でそれを聞いていた。



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 「それで――あんたたち、それでいいのか?」
月面基地への配属後1か月。古代が発った後、連絡を寄越したユキに問うた。 ユキはちょっと目を伏せたあと明るく笑うと
「――1年、待つことにしたのよ」
「1年――!?」
「進さんが外周航路から戻ってくるのがちょうどその時期。待つのも楽しいわよ」
 慌しく婚約だけしたあと、ユキは古代の部屋に引っ越していたが、 そこで主のいない部屋で1年も――? “喪に服する”という言葉が律儀な二人から想起された。
 「まぁ、お前のやることはたくさんあるしな――」
佐々は浮かんできた言葉を呑み込み、そう言うしかなかった。


 確かに地球の残存部隊にも課題は山積みだろう。 長官秘書として現場の経験を生かしながら勤め始めたユキにも、 けっしてゆっくり花嫁修業をしていられる1年ではないはずだ。だが。
(宇宙船乗りの1年は長い――何が起こるかわからないんだぞ)
 平和の時でも、宇宙は危険に満ちている。あたしたちだっていつどうなるか。 強いのか呑気なのか――ユキ、お前……。
 「そうだな」佐々は続けた。「まずその料理の腕をなんとかしないと、 古代に逃げられるぞ」
「まぁっ、失礼ね! もう葉子なんか知らないっ」
怒って通信を切ってしまった。


 それ以来、話してはないが、こんなことでも言わなくちゃ救われない――。


 「なぁ、葉子」
加藤の声に、はっと吾に返った。
「明日、山本隊が演習に来る。久しぶりに一杯やれるぜ」
佐々はにっと笑った。
(あいつに会うのも久しぶりだな――)。


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▼『宙虎シリーズ』の、背景画像は、「トリスの市場」様からお借りしました。
残念ながら、素材サイトは閉じてしまわれましたが、佐々やBT/CTのイメージとともに
宙虎作品のイメージシンボルとして無くてはならないものとなり、作品のリニューアルにあたっても
そのまま使わせていただきました。この場を借りて、制作/デザインのお2人に末永く感謝いたします。
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