地球連邦図書館 宇宙の果て分室>第6回BOOKFAIR バレンタイン/如月の訪ない
 島&テレサ in the パラレル・E

butterfly icon金色きんの光


・・The Thunder on the Earth, 2203/Parallel world・E・・

宇宙図書館bookfair06・如月の訪い
「お題-01.雷」より




金色きんの光】

moon icon


= 1 =



 テレサは雨が嫌いである。
 窓にポツポツと落ちてきては、そのうちに筋を作り、そうして流れ、あたりを覆って変化していく雨を、 最初は珍しげに眺めていた。
 そのうち、外に出て――本当にそれに触れた途端……。
 ひどい悲鳴を上げて震え始め、島の胸に飛び込んでガタガタと震えていたほどだった。


 「雨――を。知らないの?」
 すぐに大きなバスタオルにくるみ、髪のしずくも何もくるみこんで腕の中に抱きかかえながら (実際はたいして濡れたわけではない。ベランダから少し顔を出してみただけなので、 足先と服の一部、そうして髪が濡れただけだ。 テレサが不思議そうに手を伸ばして触れてみようとしたくせに、驚いて手はひっこめてしまった) 島大介は愛しげにそう囁いた。


 「しまさん――あ。あの……これが『雨』なんですか?」
そうだよ。説明しなかったっけ?


 地球人にとってはあまりに当たり前なこと。テレザートも地球型の大気を持っていたし、 確かに荒れ果てた空洞惑星ではあったが、 大気組成まで異なっていたガミラスなどに比べれば雨や風があってもおかしくない。
 テレサは黙って首を振り、島の胸に顔を埋めた。
 「こわい、です――水が。空から落ちてくるなんて……それに」
 空から、落ちてくるだって?
 うん。まぁ、確かに、宇宙に雨は降らない。
 ん。それに?
 それに――あれ・・には意思があるようですわ。
「意思? そんな、莫迦な」


 身近にいれば誰でもわかるだろうことだが、島大介は現実主義者リアリストである。 とんでもない夢想主義者ロマンチストなところも、あるにはあるが、 それは感情表現や夢や女性に対してに限られていて、科学現象や宇宙に起こることについてはすべて、 論理と科学で説明可能だと思っている――真田と、気が合う(古代とは、合わない)。
 そこへもってきて“雨には意思がある”といわれても実感はできない。


 だがそれも慣れたほうがいいのではないか。
最近、島はそう思い始めている。
 何故なら、その同居人である情人こいびと――おそらくこの先、 一生の連れ合いになるだろう――の女性ものは異星人であり、さまざまな感覚を大いに異にする。 だいたい、宇宙の神秘、というのか。宙域から再生されて救出された――これだけでも、 現代の地球科学では証明するのが難しいかもしれないのだ。 島はこの件に関しては、並み居る科学者たちの探究心と知的好奇心からも彼女を守らなければならない立場だった。 それはある意味“親友”とでもいうべき立場の真田志郎や、 自らの体を預けているともいえる佐渡酒造ですら、そうなのだ。 もちろん、真田さんや佐渡先生は人を実験動物扱いなぞする人で無いことは信用もしていたけれども。


 テレサの存在そのものが−−不思議現象なのかもしれない、そう思うこともある。
 だがそのたびに思うことは……やんわりとした不安。
島はまたぎゅ、とテレサをその腕に包み込んだ。
 「しま、さん?」
 きょとんと腕の中で安心したような顔を見せる彼女が、本当にかわいいと思い。 緊張していた筋肉がほぉと緩むのを感じるとやっと自分も安心することが続いた。
共に暮らし始めて数週間――いつもいつも、そうなのだ。


 そうしてほっと緊張が緩むと……不思議なことに体温が上がる気がした。
 腕の中がぽぉと光るようにも思うのだが――実際に光を発していた以前のテレサに比べ、 彼女の能力ちからは完全に失われていたので、実際に光るわけでは、もちろん、ない。 だが島にはそれが、彼女の心の中のようで、やんわりとそれに癒されるのも感じていた。


moon icon


 そんなこともあって。
 ともかくテレサは外に出ることなく、相変わらず基地の奥深く特別官舎の外れのメガロポリスの一角に、 柔らかく守られて暮らしている。
 現代人はもしそうしたければ外出しなくても暮らすことは可能だ。
 ヴィジホンで訪問しあうこともできるし、食べ物は東京メガロポリス内やその近郊なら、 24時間サービスの宅配サービスを頼めばよい。都市中を巡るチューブが自動選択して、 注文した食材などを運んでくれるのだ。もちろん、出来合いのものを頼むこともできる。


 地上勤務での島の所属先は、航路管理部別科企画室。名称は仰々しいが、要するに、 新規航路の開拓や既存の航路についての問題点などを抽出し、より安全で快適な航路を研究する部署。 「航路管理部」自体は、宇宙船や宇宙艦の安全な航行と管理・民間との調整、航路の確保などの業務を司っており、 各惑星の管制官も此処の所属の者が多い。 「別科企画室」は通常業務に含まれない仕事を担当する。外郭諮問機関も作られており、 もともと島はそちらへは“顧問”という形で名を連ねていた。
 要するに、外宇宙航路にかけては若年ながら現在、最も経験豊富な者。さらに、 ガミラス戦とガトランティス戦の間の1年間をもって、内惑星航路・太陽系のメイン航路も押さえており、 要するに豊富な知識と経験で、彼に勝るものは、さほど多くはない。
 ここで島は現在、太陽系外へ向けての定期航路の開発企画に携わっていた。
 別科の部屋は航路管理部の奥まった処にある。航路管理部には、各艦の航海士たち、 管理官はもちろん、艦長クラスや秘書官も出入りする。太田や相原とも会うだろうし、 森ユキとはよくすれ違った。


 「なぁユキ」
 島は昼休み、ランチでもしない? と航路管理部に顔を出した森ユキに言った。
「あら。どう? その後、テレサさんはお元気?」
ユキは彼女が救出されてから、そのあともずっと、看護とケアを担当していた。女性同士ということもあり、 島だけでは絶対にどうすることもできなかったであろうことも、ユキになら安心して任せておけたのだ。 なにせ、同じ戦いで一緒に戦った者同士である。
 「元気だよ――いちおう」
と島は定食を食べ終えてコーヒーに手をつけながらそう言った。
「……だと、思うけど」
「だと、思うですって?」
ユキはデザートを空にすると、スプーンを置いて、眉をひそめる。
 柳眉という言葉があるが、ユキほどの美女になると、眉を寄せてしかめっ面をしてもきれいである。 長年の親友だが、時折見惚れる−−わけはない。そこは島である。
「どういうこと?」ユキの目が少し吊り上る。……怖い。
 「いや、だってさ」島はそれに気づかず困ったように言った。
「朝と夜しか会わないだろ? 昼間はずっとあの部屋に閉じ込めっぱなし−−いいのかな、と思って」
 人の意識がどちらへ向かうか、ということを別にすれば、軟禁といえなくもない。 だがまぁよろこんで囚われているとすれば、そのはずもなかったが。
「外へ出すのは危険だ――警備させるのもよけい注目を集めて危険だろう? だからといって、 一生閉じ込めておくわけにもいくまい? 俺は、どうしたらいいかわからないんだ」
まぁっ。とユキはまた目を吊り上げた。
 「島くんっ!」
どん、と拳骨がテーブルを叩いた。
ひゃ、と島は驚き、一瞬、周りの目も引く。
あ、あら。なんでもないのよ、とユキは周りには愛想笑いをして、島を睨んだ。
「――いま、どうこう言っても仕方ないでしょう?」
ユキの表情も少し困ったようなものになる。
 あのまま居れば、研究施設の奥にそのまま軟禁に近い生活を強いられることになった。 いつかは外惑星に住まいを与えられるとはいっても、そうなれば誰も守ってはやれない。 会うこともなかなかままならなくなる……その可能性があったことを、ユキは知っていたし、 島だとて推測していた。だから急いだ、ということもあったのだ。
 決まってしまった決定を覆すことはなかなか難しい。だが、前例のないことだらけのものなら、 意思の強い者が積極的に動けば、なんとかなるものなのだ−−と、島も、 そして実際にマメに陰で動いてくれた親友・古代も理解(わか)っていた。


 「ともかく、まだ数週間でしょう? いまは2人で時間を埋めてればいいのよ。ね?」
島くんが守ってあげて――それが一番なんだから。
大丈夫。女は――異星人でも女性は女性――本来、強いものなの。生き方なんて、なんとでもなるわ。 愛してくれる、自分が生きる意味さえ見つけられればね。
 ぱちん、と鮮やかなウィンクなど呉れて、森ユキは立ち去った。
 島大介はその明るい光の降るカフェテラスで、徒歩10分ほどの距離にある部屋にいる彼女を想う――そうだ。 明日から、昼休みも家に帰ろう。55分あるのだ、走れば5分、一緒に食事するだけでも、違うかもしれない。

 島――それはちょっと、違うような気もするぞ。
 ……それはそれでベタ惚れの過保護なのではないかと思うが、それに気づくような島ではない。 本人は真面目なのである。
 さっそくそれを実行に移した島大介である。


aqua clip



 
←新月の館blog  ↑index  ↓続きを読む


La Bise's_linkbanner

背景画像 by「La Bise」様
copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2010-2011. (c)All rights reserved.

この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

inserted by FC2 system