air icon 落日−惑星ほしの果て

(1) (2) (3) (4)
    


【落日−惑星ほしの果て】

−−circa..15 years later
:お題2006−No.15「落日」


 

・・・脱出・・・


(1)
 
 もはやこの星も終わりか…。

 地平に落ちる赤い炎を眺め戦士たちは地球の夕陽を想った。
吹き上がる炎が大気を焼き、その光は中空まで届いていた。
天から落ちそうな赤い月が上空の半分を覆い、この小さな惑星ほしの向こう半分に
迫っている。
 岩場に手を付き、先に立ってそこを乗り越えた聖樹せいじゅは、辛うじて這い上がろう
とする仲間たちに手を貸す。その横には油断なく、張り詰めた充実さで隙無く
銃を構える妹・ゆいが居た。
宇宙空間に出てから――いや、この星の生存圏に入ってからか? あれほど
病弱で、本当に戦艦ふねなどに乗せて大丈夫かと思われた妹は、 見違えるように
生気を取り戻し、兄である自分が見たことの無い姿を見せている。
――このは本当に“宇宙の娘”なのかもしれない。そんな錯覚に陥るほどに。

 地球よりもね、こういう環境の方が体に合うだけよ。
 うふ、と無邪気に笑いながら、唯は楽しそうに聖樹にそう言った。限界を考えな
いで走ったり、跳んだり。訓練をしたりするのは、本当に素敵よ? 兄様やお父
様の気持ちがわかるわ。
――親父のことは、言うな。聖樹はその名が出ると、唯の言葉を乱暴に遮った。
聞きたくもない――俺たちをこんな羽目に追いやった男のことなど。
 そのたび彼女は、ちょっと哀れむような目をして兄を見た。
 ――兄様、本当にわからないの? かたくななのは、貴方あなたの方。


 

 追いかけるように、その炎の方角からやってくる黒い粒――ここからだと虫の
行進のようにしか見えないが――を、唯は平然と横に構えて撃った。
息も上がっていない。そして――この距離で、その射撃は正確だった。いくら空気
が無い、希薄な大気の中で、空気の揺れや視界のゆがみがないとはいえ。
「早くっ――追いつかれる」下を向いて俺は怒鳴り、薄い酸素の中、呼吸困難を起
こさないように、その限界で走り、ばらばらと駆け上がってくる人々を引き上げ、
壁を背にしてその高台に座り込む。


 

 「つながりますか――上空うえふねに」
通信をオープンにした聖樹に、
「見捨てて、いくのか?」
斉門裕さいもん ゆたかが顔を上げて見た。
かすかに頷く。
「――ここで、運命を共にするとでも?」
躊躇する表情。こいつは村に馴染みすぎ、そして深く入り込んだ。調査員としては
仕方ないとはいえ、地球の……戦士であることを忘れてはいけないんだ。
 唯が彼の肩に手を置いてかすかに首を振った。「――辛いのは、皆。同じよ」
……そうだ。俺こそ――古代聖樹、自分こそが残るべきで、残りたかったのだ。
だが俺は、約束した。――帰るって。地球へ、戻ると。
 「それでいいんだよ」津村さんが声をかけた。「艦長は、君らの犠牲など、望ん
じゃいない。俺たちは地球人なんだ」

 
背景画像 by 「壁紙宇宙館」様 (最終ページまで)

Copyright ©  Neumond,2005-07./Ayano FUJIWARA All rights reserved.


←tales・index  ←space・index  ↑前書・ご注意  ↓次へ  →TOPへ
inserted by FC2 system