MISSION

・・宙駆ける魚・3・・



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= 2 = 火星基地にて――次世代の戦士たち



 火星の訓練基地は、3年ぶりだった。  地球防衛軍少年宇宙戦士訓練学校の上級機関として、そこはある。最 上級生および2年生が、演習や卒業前の実戦の総仕上げをする施設で、 ほとんどが実習に明け暮れた。  古代や島も、ここでの訓練期間中に、不時着したイスカンダルのカプ セルを発見した――というのは知られた話だ。  ヤマトは訓練航海に旅立って行った。 そして佐々は、火星基地に短期の教官として赴任した。  訓練航海を終えたヤマトは、また次の訓練生を乗せ、出発する予定だ。 その時には、これから火星で教える卒業生の中から何人かが選ばれ、 佐々自身も乗り込むことになるだろう。 ――これはそののち勃発した急な戦いとそれに続く植民地時代により、 まったく不可能になってしまうのだが――。  「おい! 四郎!」 「なんだ」 同期生の山口がシャワー室の隣から声をかけた。 「今度来たヤマトの教官、知ってるか?」 「あぁ、女士官が来るっていってたな」 反対隣のブースからは溝田が同調した。 「そう。すっげぇ美人!」「なに?」 「美人なんだよ〜あぁおれ、明日っからその人に怒鳴られるかと思うと 幸せ」 「お前、ばかか」 「なんだよ〜こんな女っけのないところにいてよ、そのくらいの楽しみは あってもいいじゃん」 「…まぁな」  基地でのシャワーは短い。たっぷりとした水を使うのは地球圏内でも なければ許されない贅沢だからだ。しゅわっと温かい水蒸気を体全体に 当て、それを洗い流す。昨今の機械なら、それで十分汗や汚れが取れた。  ところが。  翌日早速山口も溝田も、そして加藤も。 その“美人”の前で震え上が ることになる。 教壇に現れた佐々葉子は、右手は釣ってはいるものの、戦闘服に身を固 め、小柄な全身に気を漲みなぎ らせてすでに出撃準備、という風情だった。 「よ〜し、並んだな! 端から名前っ」  「はいっ。一番、ややや、山口仁ひとし っ」「二番、溝田幸っ」「三番、加藤 四郎」「四番、坂井省太」……16名のメンバーが次々に名前を申告して いく。 「よしっ。これからさっそく演習を行う。隊長役は、決まっているか、 誰だ?」  「はいっ、一番隊、加藤です」「二番隊、溝田です」 佐々の目が一瞬、加藤の上に止まった。丸く見開くが、すぐに逸らせて。 「よし、行くぞ。伝声管からの声に注意して、コンバットフォーメーション、 Aフォーメーション、ダイヤモンドフォーメーションの三つを展開。 わかったな」  「了解っ!」 駆け出す彼らを、佐々は追って、地上管制塔に立った。  「ちぇっ」駆け出しながら山口がいった。「もうちっと、お話できるかと 思ったのによ…」 「ばかやろう」四郎がいう。 「あれでもヤマトの戦士だ、俺たちの相手じゃないぜ……」 「よくいうよ、やっこさん、あんたに見惚れてたぜ」 「ば、ばか! そんなわけあるかい」 「いや、確かに見てた。…間違いねぇよ」  ……それが、加藤四郎が佐々葉子を意識した最初だった。

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