>YAMATO'−Shingetsu World:KY題100(KY・No.12)より



butterfly clip そらで見た夢


・・お母さん・・


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 古代進は次男坊である。父さんにはお兄さんが居て、お前の名前はその人から貰っ たんだよ、と守には話していた。
「……兄さんはずいぶんオトナだったからな、父さんはいつもお母さんの後ばかり ついて歩いてるって小さい頃は言われたものさ」
「? 小さい頃って?」
「お前より少し大きいくらいの頃かな――」
「ほんとぉ?」
 強くてカッコいい父さん。幼稚園でも学校に上がってからも、コダイススムといえ ば男の子たちの憧れで、子どもながらに守はそれが自慢だった。


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 イスカンダルへの航海日記ともいえるそれの随所に「お父さん、お母さん」という 言葉が出てくる。それはそうだ、もともと父母に当てて……というよりも独り語りの 寂しさを紛らわすために書くようになったものだったからだ。
 息子に言われるまで忘れていたが、そういえば自分は子どもの頃は甘えっ子だったな、 と思い出した。父を尊敬していたが少し怖かった。兄には厳しかった父だが自分には優しく、 だがその父に認められるには大人になるしかないだろうとも思っていた。
 母と一緒にいるのが好きで、いつも母のエプロンの後ろに隠れているような子ども だったんだそうだ。何故忘れていたんだろう――戦いの記憶と無縁ではあるまい。
 兄を失ったからだったろうか。とも思う。
 兄が居たから弟でいられたのだ。
 兄が父や村の人たちと、家を守るために外へ出て戦っていたから、自分は甘えていられたのだ。 いや逆に、その兄への憧れと反発があって――だからこそ自分はあの故郷の村に居て、 皆を守るんだと幼い頃から思っていたような気すら、する。
 それが――人生ってわからないものだな。


 人生どころか。
 地球人類全員が、すべてを狂わされた。自分の思った通りの人生をまっとうした者など、 皆無だっただろう――その、まったく新しい地球の上に、俺たちは今、居る。
(多少、人格や立場が変わってしまったくらいは、仕方ないな…)
古代は自嘲もし、むしろそれを誇りにも思っていた。


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 「父さんのお母さんはな――そうだな。とても穏やかで、優しかった。気が利いて、 料理が上手くて、世話好きでおせっかいだったかな」
「ふうん」と守は興味深げに聞いている。
「――でもそれじゃ、うちのお母さんと同じだね」
「ん?」と古代は首をかしげる。
「穏やかで、ってのはちょっと違うけど」
子どもというのはよく見ている。はは、と古代は笑った。
「そうだな。守のお母さんは、どちらかというとパキパキしてるからな。怒らせると怖いしな」
うんっ、と守は言い、こっそり目配せをし合った。
「――う〜んと。でも、お料理も上手だしぃ、優しくて、とってもとってもキレイっ」
「あぁそうだな」と古代はまた微笑ましい気持ちになる。


 自分の母親は客観的にいう美人だったかどうかはわからなかった。 だが息子にとってみれば母親はすべて美人だし、古代の記憶の中にある母も、 とても美しい人だなと思っていた。 ユキの“料理が上手”には吹き出しそうになったが、確かに今のユキの手料理に 文句をつけるやつはいまい。守が生まれる前に研鑽できてよかったな、と思う夫である (練習過程のものを“旨いよ”と言って食わなければならなかった身としては)。
 父をよく支え、仕事を手伝って村人たちにも感謝されていた。謙虚な人柄で、 だがいざとなったら一家で一番強かったのではないか。 物心付く前だからほとんど覚えていなかったのだが、軍に入りたいという兄と、 お前が跡を継がないでどうするという父が大喧嘩した夜も、兄を庇って一歩も動じなかった 母の横顔をうっすらと覚えている。


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 「なぁ、守」
「?」息子は父親を見上げた。
「お前の母さん――ユキもな。凄い女なんだぞ」
「??」
「父さんを何度も助けてくれた――ふだんは優しくてな、どこのお嬢様か、って風情なのにな」
「――ほんと?」その話はしてなかったかもしれない。学校へ上がったことだし、 これから少しずつそんな話もしてやろうと思う古代である。
 「勇気があって、優しくて、素敵な女性だよ」
「……お父さん、お母さんを愛してるのね」
マセたことを言う子どもだが。古代は素直に頷いた。
「――あぁ。とってもね」じっと目を見てそう言った。「お父さんはお母さんを愛しているし、 お母さんもお父さんを愛してくれてる――もちろんお前のこともな」
 きゅ、と守は父親の首にかじりついた。
 それをやんわりと立たせながら古代は少しおどけた口調で言った。
「女、てのは偉大なもんだ。――お前もな、これから近寄ってくる女はいっぱいいる だろうけどね。よく見て、母さんみたいな女性を選べよ」
それに守は口を尖らせる。
「――まだぼくわかんないよ。――そりゃ確かに、女の子はみんなかわいいけどさ」
かわいいけど? なんだその思考回路は!? 俺はそんな教育した覚えはない……あぁ そういえば幼稚園でもバレンタインにチョコレート沢山貰って女の子同士が揉めたと か、遠足の時に誰が手をつなぐかで、園児同士が喧嘩になったとか……なんか そういうのいっぱいあったなぁ。我が息子ながら、、、そんな経験は俺にはないぞ?


 「母さんみたいな人なんて、探すの大変だね」
「――ほぉ? そう思うか」
大きく守は頷いた。
「なんたって美人だもん。なんでもできるし――優しいし。強いしさ」
 古代は少々息子の教育に問題点を見出したくなったが、今日は言うのはやめておいた。


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