planet icon  First Kiss
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 着々と、準備(なんの?)は進められていき、ついに、太陽圏が明日は視認できる、
という処へ、ヤマトは来た。
「島、ワープ準備」
第一艦橋に古代艦長代理の声が響く。
「了解――ワープ、3分前。……太田」
「はい、準備完了」
「波動エンジン、回路開け」徳川機関長の声。
 沖田は艦長室にあって不在だが、最近ではもうすっかりこのメンバーだけでワープ
をしても大丈夫と任せて、艦長室でワープを過ごすことが増えていた。
その理由は佐渡とユキだけが知っている。
同じ衝撃でも、ベッドに伏し楽な姿勢で迎えるのと、艦橋の艦長席で、あらゆること
に気を配りながら迎えるのでは、その与える負担は大違いなのだ。
もう一人。真田だけはその姿がない。
 最近は、第一艦橋で姿を見ることも稀で(だが2日に一度はもちろん当直している
のだが)、食堂でも見かけなくなっていた。コスモクリーナーへの突貫工事と、もちろ
んそれに付随するイスカンダル科学の粋を、でき得る処まで解明しようと懸命なのは
想像してもわかった。

 「ワープ1分前」
「ワープ、30秒前」
島の腕に力が入り、背中に緊張のオーラが漂った。
「10.9.8――5、4、3、2、1・ワープ!」
 目の前が揺らぎ、いつもの感覚がよみがえってくる。

 その、ワープが明けたとき、目の前のパネルに懐かしい太陽系の姿が浮かんでいた。
「帰ってきたなぁ――」
島が傍らの古代に言う。
「あぁ。俺たちはついに、太陽系へ、帰ってきたんだ」
 古代は立ち上がった。
「相原」「はいっ」
「全艦に、放送。――これより、太陽系帰還突入前夜パーティを開始する。全員、当
直以外は展望室へ集めてくれ」
 島が艦内に放送を入れる。
「あぁ――艦長からの伝言だ。工場もよほどのことがない限り12時間休業せよ、
パーティに参加しない者は寝るように、とのことだから」
島と古代は顔を見合わせて笑った。
「本当だな、真田さん、地球へ帰りつく前に死んじまうんじゃないかって心配だよ」
「ユキ――工作班員のチェックも頼むぞ。残ってる者がないか、当直だけ残して休ま
せてくれ」
「はい」ユキも微笑みながらうなずいた。

 今日は少し顔色の良い沖田が姿を現し、短い挨拶を台上でした。
沖田の健康と地球の未来を祝しての乾杯、そして短いセレモニーがあったあと。
「年寄りがここで睨みを聞かせておると、楽しみも半減するだろうから――今日は
無礼講だ。ゆっくりと、皆で楽しんでくれ」
そう言って、万雷の拍手に送られ、沖田が去った。
 さて、いよいよ投票結果の発表と、パーティの始まりである。

 「厳正を期するために、今回は特別、電子メールではなくて“手書き”で行ないま
した投票です」
生活班で司会を務める三波は、なかなか小奇麗に着飾っていて、盛装した南部は、ど
この御曹司かというほどに(といっても実際に御曹司なのではあるが)ぴしっとスー
ツで決めていた。
南部あたりは「自分は実践派で、こういうものは対象外」と自ら決めている風がある。
だから、女をその気にさせるのは得意で、そういう経験も豊富、と噂されているが、
案外こういうのの遡上には乗りにくいのかもしれず、本人はいたって気軽に盛り上げ
る方へ回っていた。
 普通の男なら、自分にも関係ない、とはおもっていてもどきどきしたりはするもの
だ。ましてや今回は、投票結果は本人には知らされる(つまり、何票入っていたか、
というようなこと)とあって、若い男女の多い艦内は期待と興奮に満ちていた。
「われわれスタッフもまだ、中身を拝見しておりません。――これから皆さま衆人
監視の中、厳正なる集計を行ないます。その間、ご歓談ください。ヤマト、太陽圏帰
還、ばんざ〜い!」
そう告げて壇上を降りるとまた万雷の拍手。

 そこここで輪が出来、談笑の心楽しげな交流。
工藤や宮本、加藤三郎や砲術など戦闘班の連中たちと杯を上げていた佐々は、
「佐々さん――ちょっと」
という南部の声に振り返った。
「おう、南部。集計終わったのか――一杯どうだ」
ほんわかと少し上機嫌になった頬で見上げた。
「…いや、ちょっとこちら来てください」「え?」
 ニヤニヤと宮本と加藤が顔を見合わせて笑う。
「笑ってる場合じゃありませんよ…早く早く」「な、なんだよ」
コップを置いて、連れられていく。
 「あ、佐々さん来た。こっちこっち−」
生活班で、けっこう話をする方の、沼袋千恵が、ころころとした体型でころがるように
引っ張っていくのを、三波と南部、それにユキが出迎えた。
「早くしてくださいね、佐々さんも」
何がなんだかわからず、「いいからこれに着替えて」
三波と沼袋に、ついたての後ろに引きずりこまれて、「え、えぇっ!?」
コワモテの女戦闘機隊員も、こうなっては形無しである。


 「さて皆様。いよいよ、注目の集計結果でございます! お集まりくださ〜い」
この模様は、相原の機転(艦長の了承も得ていたし、艦長室にも放送されているはずだ)で
当直の者も含めて見ることができるように、艦内のモニタにも送信されている。
「いよいよ、ミズ・ヤマト、ミスター・ヤマトの発表です」南部が言えば
「今回は――(といっても初めて行なわれるのであるが、そんなことは気にしない)
激戦でした…魅力的な方々が多いんですね。それに男性陣は、人数が多いですから、
票も割れました。優勝、次点、3位入賞のほかに、特別賞を二つ設けます。一つは生
活班長賞、もう一つは功労賞、です。名前を呼ばれたら前に出ていらしてくださいね」
 つまり、男性は5人が選ばれることになるのだ。
「まず、三位入賞ですっ!」三波が読み上げ、南部が構えた。
固唾を呑んで見守る、女性たち――男もな、まぁ。
「これは激戦でした――わずか1票差で、戦闘機隊長・加藤三郎氏を抑え、航海班長・
島大介!

わぁっと叫び声があがり、緑矢印連中が騒ぐ。
「班長〜!」「島さん素敵〜!!」「1位よ、絶対ぃ!」
黄色い声も混じっているあたり、女性の人気はかなりのものとみた。
 次! 次!! という声に押されるように、興奮を自らも隠さない三波が、
「おおっ、次は激戦でした。1位と2位の差、わずか3票!!」
えぇっという声が満ちる。わぁわぁと大騒ぎ。
「第2位は、艦長代理…古代進さんでぇす!」
わぁっ、という声。
その声に、壁際で島をつついてからかっていた古代進が、え、という顔で驚くのと、
こいつ、と島がそれをつつき返すのが同時だった。
「あ〜あ、おれ、こんなとこまでお前に負けるのか?」と島が、ひょうきんな口調で
言って、満場の笑いを誘う。
――なら、1位は? 古代に3票の差をつけての。
「さて。――輝ける第一回ミスター・ヤマトは
もったいつけてないで、早く言え〜、という声があがり。まぁまぁ、と抑えて抑えて。
「栄えある第一回、ミスター・ヤマトは、戦闘機隊副官・山本明さんで〜す!」
どよどよっとなる展望室。
壁際によりかかって、加藤と並びちびちび飲んでいた山本は、その声に目を上げて、
「ま、騒がないで、皆さん」など、赤くなりもせず、クールな表情を崩さずに前へ出
て、すいっと人々の間を分け、壇上へ近づいてきた。
 壇上へ並び、なんだかわからない小さな記念品らしきものを渡され、おじぎをする。
決まり悪そう――。山本、古代、島。それぞれ三大派閥といわれただけあって、面目
躍如といったところだ。
「しかし、恐ろしく意外性のない答えが出たな――」
「まぁな。そりゃ仕方あるまい。次点なんかの方が興味あるぜ俺は」
・・・勝手なことを人々がほざく間にも。
 「次は、特別賞です――これは。正投票のほかに、魅力的だと想う人とその理由、
を書いていただいたもののなかから、得票数の多かった項目でまとめて、選びました。
生活班長賞は、中で、女性票の多かったものです……」
どんな人が出てくるやら……シーン、となる。
「生活班長賞は――なんと。沖田艦長! 沖田十三さんですっ!」
 どよどよっという声が大きくなった。女性ってのは不思議なもんだ。
「続いて功労賞――これも同様です。これは男女構わず数の多かったもので――何に
功労があった、ということではなく、人気投票の特別版と思ってください」
南部が発表した。「僅差ですねぇ、これも。――技術班長・真田志朗! ……なお、
わずかの差で、これも戦闘機隊長・加藤三郎氏が受賞し損ねですね」 戦闘機隊を中心に、どっとウケる。
真田が、俺か? というような表情を見せて、照れていた。
彼がいなければどうしようもなかったであろう、ヤマトの頭脳――だが、それだけ
を評価している皆ではない。その人柄も、外見に似合わぬ優しさも。ヤマトの乗組員
たちはそれを知り、慕っているのだ。

 いよいよ、ミズ・ヤマト選び。
「時間もないですし、このあとセレモニーも気になる処でしょうから、一気に行きま
すよ」
「これは、優勝から、発表いたしましょう」南部と三波がたたみかけるように言った。
「まず、第1位。第一回ミズ・ヤマトは!――生活班長・森ユキさんでぇす」
 誰もが、文句なく。意外性もなく、そうだろうなと思った。
「圧倒的多数――ですね。男女共に、というのがすごいですが……」
 その声にエスコートされるように、ついたての後ろから姿を現した森ユキは、以前
に一度食堂で着てみせた白とピンクのドレスに身を包み、それに変化をつけるために
か、首にはレモン色のスカーフを巻き、長い髪を襟足でまとめていた。ほぉ、と会場
にため息がわき、司会の2人もおもわず職務を忘れてそれに見入る。
 にこり、と笑うとぺこりとお辞儀をして、男4人の反対側の横に立った。
 は、と我を取り戻した三波と南部。次の発表に移る。
ユキはおそらく圧勝だろうと誰もが思っていたため、実はこの2位3位の方が皆、興
味深深なのだ。女性隊員は多くはない――だが、少なくもないのだから。
「第2位――生活班資材部所属・谷山小百合さん
人前に出るのなど初めてなのだろう、真っ赤になって、おずおずとついたての奥から
小柄な姿が現れた。――一部の男性の間で“ひなげしちゃん”と呼ばれている大和撫
子。おとなしやかで、物静かだが、芯の強いしっかりした娘である。格別美人という
わけではないが、淡々と職務をこなすすがたを誰もが忘れがたい。清楚な白のワンピ
ースは私物なのだろうか? よく似合ってそのはかなげな姿はユキとは対照的
に、さらに互いを引き立ててみせた。
「さて――最後になります。第3位」

 「だから、イヤだってもう! あたしはそんな処こんな格好で立つのはごめんだっ」
ざわざわとして、会場の目が舞台の後方に注がれた。
司会もあっけにとられてそちらをみやる。
「こんな格好似合わないんだからっ。だいたい、何かの間違いよっ! 投票したやつぁ
誰だ、出てこいっ!」なぐってやる〜、というような声がきこえて、舞台上にいた
面々が吹きだしそうなのを堪えているところへ、南部が可笑しそうにマイクを取った。
「今の声でおわかりでしょうが、第3位は、戦闘機隊員、いつもわれわれの命を守る
美形の戦士・佐々葉子さんです!」
南部の紹介が的を得ていたためか、戦闘機隊の方を中心にわぁっという声があがって、
後ろから押されたのか、とん、と佐々葉子の姿が現れた。
 ほぉっとため息をついたのは一番近くにいた入賞者の面々。
常にはぴったりと体についた黒と黄色の戦闘服に身を包み、髪はうしろでひっつめた
ようにまとめ、鋭い目をして走るように去る彼女の。
淡いブルーの長めのドレスをまとい、ほっそりと頬を染めてそこに立つ姿は、皆の驚
きのため息を誘った。思う以上に色の白い肌は、はらりと肩にかかる淡い色の髪、頬
に残るかすかな傷さえも、きれいにみせる。
 戸惑って立ち止まってしまった彼女を、救けるために山本が近づこうとする前に、
真田志朗がその手を取って、さっとエスコートした。
「佐々――そういう格好も似合うが。足許、気をつけて」
その様があまりに堂に行っていたので、工作班の方面から「きゃー」という声があが
り、やんやの喝采。佐々はもう恥ずかしくて、消え入りたいと思っていたから、あり
がたく真田の大柄な体を隠れ蓑にさせていただいた。


 「なぁにぼぉっと見惚れてんだよ」
どん、と背中を、ミスター・ヤマトに叩かれて、加藤三郎はえ、と我に返った。
受賞者たちは、挨拶がてら会場内を酒持って回れ、ということになっており、古代、
島はまぁ仕方ないかといいながらあちこちでからかわれつつ、巡業していた。
 ユキと小百合は生活班員でもあり、慣れたものだったが、あちこちで止められては
お話の輪に入ってしまい、なかなか会場は盛り上がっている。
 戦闘機隊たまりにやってきた山本は、「俺ぁもう、お役ゴメンだ。あとは島、古代、
頼んだぞ」そう言って、山本は加藤の隣に座ってしまう。
そこで、ユキたち3人が来るのを待つつもり。
近づいてきて、輪に入り。
 戦闘機隊溜まりで、やんややんやの喝采になった。
「お前ら〜。あたしに投票したやつ、あとから覚えてろよっ」
赤い顔になって佐々が言うのに、
「ちったぁ感謝しろよ」
「お前ぇだってそういう格好すりゃ見られるじゃねぇか」若い連中がからかう。
「おい佐々、お前そこそこ美人なんだから、自覚しろよちったぁ」これは宮本。
う、と口を尖らせて。その様子を横でくすくすと笑っているユキと小百合。
こうなってしまうと、佐々は戦闘機隊連中のおもちゃ――人気もあるのだが。

オチ、知りたいですよね?
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綾乃
Count009−−15 Nov,2006

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