planet icon  First Kiss
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 「それで、結局“賞品”の方はどうなったんですか?」
第一艦橋で古代が留守なのを見計らったように、太田が島に問いかけた。
「そうだ、俺も気になってたんだぞ」真田が珍しくそんな感想を。
島は両腕を頭の後ろで組んで、背中をうん、と伸ばすと
「どうにもなりませんよ」と笑った。
「あれは一位から優先順位がありますからね」と島。
「古代がユキにキスするのを許してくれるわけはないし――1回デートったってね」
「小百合ちゃんにすればいいじゃないか、島さん」と相原がちゃちゃ入れる。
「彼女、人気あるんですよ〜俺たちの間では」
「ばぁか」と島は返して。「彼女、好きな男がいるんだよ、艦内に。そんな相手のお話
し相手務めてもツマラねぇだろ」と島。――この男の情報網もたいがいだ。
楽しく遊ぶには真面目すぎるしなぁ、とも言う。
とりあえず、山本と古代の結論待ちさ。佐々がオーケーなら1回くらいデートしても
いいな、など言って、ひゅうひゅう、とからかわれるが、動じる気配もない。
 「そりゃいい線ですね」と相原。「俺も佐々さんなら1回くらいデートしてみたいな」
年上で、美形で、キリッとしてて、意外に優しい。
半年以上の旅を続けてきて大概そのあたりは知っている艦橋の面々である。
「ばぁか、山本か加藤に殴られるぞ」と南部が言う。
「――どっちなんだろうな」と太田がちゃちゃ入れて、「真田さん、知ってますか?」
いいや、と真田も首を振った。
「まぁ、意外な相手が意外に――かもな」と謎のような言葉を。
艦長が降りてきたので会話はそこまでになった。
 だが艦内で“デート”ったって、できることは限られているだろう。
いきなり部屋で……コースとかなら話は別だけど、と思う島。
結局は、きっかけつくりのお遊びなのだ、と思っているのであった。


 事態は意外な展開を見せ始めていた。
 艦内デートスポットのメッカ、展望室。
森ユキと山本が、並んで星を見ていた。
ユキはまだ、ドレス姿のまま――「一日これでいなさい、業務は良いからって、艦長
がおっしゃってね」…仕方なく、ユキも佐々も小百合も。そういう格好でいる。
でも、たまには戦闘服じゃなくてふわりとしたドレスで開放されるのも、気持良い。
沖田艦長も自分が賞をもらったから嬉しかったのかもしれない、と下世話なことまで
考えてしまう山本である。
「お、いますね、お2人さん」
にぎわしい声がして、南部と相原コンビが入ってきた。
「デートの邪魔、すんなよ」と山本が言うと、
「デートってことになったんですか? ミズ・ヤマトとミスター・ヤマトは」
「いや、俺ぁユキちゃんのキスの方がいいんだけどね」ばちんと片目をつぶって、ユキ
に笑いかければ、ユキはちょっと頬を染めて、顔を逸らした。まんざらでもないのは
――それは相手が山本だからだ。
 しかし、絵になりますね。
相原がそう言って、写真、撮りますよ。そうも言った。
う〜ん……こんな姿が残ってしまうのは、ちょっと抵抗があるけれど、の森ユキ。
いいじゃないか、と積極的に協力する山本に、そうねと答えて。
山本が肩に手を回したのを、ユキは今度は(前に古代がそうした時はぺし、と跳ね除
けたくせに)いやがらなかった。
お2人一緒の処と、1枚ずつ――はい、そうです。キレイですよぉ、こっち向いて。
ぱしゃぱしゃと撮る音がして。
そこへ、古代と佐々がやってきた――
「おい、山本、何してんだ。だ、だめだぞ」
 南部と相原は素早く目配せを交わし、
「じゃ、われわれはここで退出しますから」
カメラから吐き出されてきたお試しプリントを2人に手渡して、そそくさとその場を
辞する。もちろん、外からモニタで覗いているのは当たり前のことである。

 「それで、どうする? 俺は、君のキスなら喜んでもらうけど」
少々いじわるく山本が言うのに、古代は言葉を失って横で目を白黒させていた。
「そう、ねぇーー」嫣然と微笑んで、チラリ、と古代を見るユキ。
 1歩ユキに近づいた山本を、古代が心配そうな顔で見た。

近づいて、腕を取り、キスしそうになったのが。
やおら、そのユキをぽん、と古代の腕に追いやって。
「古代――このお嬢さんの権利は譲らぁ。キスでもデートでも好きにしな」
「や、山本っ」
 ほれ、佐々行くぞ、とまだ青いドレスを着たままの佐々の腕をつかんで。
「いつまでも見てんじゃねぇよ」と、さっさと連れ出していく山本である。
「ずいぶん気軽じゃない――その扱いの違いは何よ」
文句を言いつつ、それに連れられていく佐々と山本の声が軽口を叩き合う声が、
通路を徐々に遠ざかっていって――2人がその後何をしたかは、古代たちには
わからない。
「……ずいぶん、なんだかあの2人って恋人同士なのか?」
至近距離で抱き合わんばかり、それでずいぶんマヌケな質問だなと思いながら、
古代はユキにそう聞いた。ユキも「う〜ん、なんだかよくわからないのよ。謎ね」
 ユキは、佐々のいろいろな人間に対する気持ちは知っていたが、山本についてだけ
はどう思っているかわからなかった――それも当然。佐々自身がよくわかっていな
かったからである。
だがそれはここでは主旨ではない。
目の前に、古代進がいるのだ。
 古代はばくばくしている自分の心臓の音が相手に伝わらなければいいなと思っていた。
 ユキは、どきどきして熱くなっている自分の内心が相手にわからなければいいなと
思っていた。けっこう何度も2人きりでいたことはあったはずなのに、こんな至近距
離に近づいたのは、ビーメラ星で思わず抱き合ってしまって以来だった。

 「ユキ――」
その彼女の大きな瞳が下から古代を見上げる格好になった。
(わぁっ――)内心、じたばたじたばた、の古代である。
(こらっ、落ち着け心臓。これは、賞品なんだから――だから、彼女だって、だから
嫌がってないのだから)
 おい、古代進。そんなわけないだろう、の賞品考案者たちである。
 もともと、この2人を進展させるのもこのお祭騒ぎの目的の一つだったのだから。
そんなことは当人たちは知らない話だ。皆、イイヤツである。
山本は感づいて協力してくれただけだ。島だとて、わかっている。
 ユキは、間近にある古代の瞳がとても魅力的だなと思いながらも、どうしたらいい
のよっ、という状態になっていた。
「ゆ、ユキ――」
「古代くん」……切ない声になったが。
ドキドキを通り越して、腹が立ち始めた。

 よし、俺も男だ。
古代進はきっとした表情になると、やおら、言った。
「ユキ――行くぞ」
はぁ、とユキは。
(コスモ・ゼロ発信じゃないんだから)……でもまぁ、そんな処が素敵なんだけどね。
にっこりと笑って、目をつぶった。
 そうしたら。
ふっと髪が近づいたかと思うと、頬に柔らかい唇の感触。
(古代、くん――)
 なんですってぇ! これだけお膳立て整えて。キスっていったらほっぺにちゅ、
だったら友だち同士でもするわよっ。
「古代くん――私のこと、好きじゃないの?」
思わず小さな声で問い返す。
「え? い、いや……イヤだった? もしかして」
(んなわけないでしょっ! もうっ)
 腕の中――というか正確には顔を寄せ合っているだけ、の2人。
頬のキスはとても彼らしくて、柔らかく熱くて。頬の、彼の唇が触れた処から、熱が
発するような気がする。
でも。
それとこれとは――。
 キッ、と森ユキは古代進を見返し、その艦内服の赤い矢印のあたりを掴むと、やおら、
自分から古代の唇を塞いだ。
え!?
古代の頭の中をパニックが走る。
(むぐっ――ゆ、ユキっ!)
 森ユキは、自分からキスしたのだった。
それに応えて、短いが、でもしかし。一瞬、みたいなものだったが。
 体を離して、軽い息をつく。
「ユキ……」
あっけに取られて。
「古代くん――私の。First、Kiss、だからっ」
少し赤い顔をして、少し潤んだ目をして、ユキは言った。
 あ、あぁ……そう言うことしか、できなかった。
「ゆ、ユキ――」
 そう言うと森ユキは、くるりと身をひるがえすと、展望室を出ていった。
(First Kissだって?――)
頭の中を、ぐるぐるとその単語と、唇に残った柔らかい感触、そしてふっと近づいた
時の甘い感触がよみがえった――ユキ。

 翌日。
 古代艦長代理は、熱を出して業務をお休みしました、とさ。

おしまい

・・・エピローグ・・・

綾乃
――「宇宙戦艦ヤマト」 A.D.2200

Count011−−15 Nov,2006

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古代進&森雪100のお題−−新月ver index     
あとがき、のようなもの
現在のデータ
Cont001 No.57 コスモゼロ(改題「コスモ・ゼロ」)、Cont002 No.100 誕生、Count003 No.15 兄と弟、Count004 No.41 ヤマト艦長、Count005 No.21 再び…、Count006 No.53 復活
Count007 No.01 一目惚れ、Count008 No.78 温泉、Count009 No.82 夢、Count010 No.03 旅立ち、Count011 No.84 First Kiss

Count011 −−First Kiss
  男女が集まれば“人気投票”みたいなのが行なわれるのは、これ、普通。
  きっとこの連中、訓練学校時代もやってただろうし、こっそりと班内なんかで旅のヒマツブシにやっていた人たちもいたりするかもしれない。
素敵な人たちが多いですからね、互いに憧れていたりなんかもしたでしょう。同じ班の中なら、けっこう告白したり付き合ったりした人もいたかもしれませんが、たった100人強しかいなかったとしても(300人くらいは乗ってる設定にしたい気もするのですが)、やはり男女の壁・・・しかも使命をしょってる人々には遠い話。
 ともあれ、生活班長・森ユキちゃんの、Growing up話です。
「First Kiss」ったって、このお題で、進くんとユキちゃん以外には考えづらいので、、、
さてここで問題です。佐々葉子のFirst kissの相手は誰だったでしょう?
 まぁそれは良いとして。−−こんなユキちゃんが私は大好きなのですが、皆さまは、いかが?

  加藤四郎、佐々葉子、山本明、古代進、森ユキらの設定や関係は、
  三日月小箱−新月world設定=  「小箱辞典」 をご参照ください。
 葉子とユキが何故親友なのか、という話は、長編で申し訳ありませんが、
 NOVEL 「宙駆ける魚」 がベースです。
  ちなみに、イスカンダルへの旅の帰路の、葉子ちゃんの想い人は、古代くんではありませんので、ご安心を(^_^)。
  この、短い続き・・・つか裏話を、「三日月小箱例文百之御題」短編、に書く予定です。
  はいそーです、戦闘機隊の内部の話ですので、こちらではちょっとね。
  お楽しみに。

  第二期6本は、予定とぜんぜん違うラインアップになってしまいました。
 「01・一目惚れ」「78・温泉」「82・夢」
 「03・旅立ち」「84・First Kiss」「83・プライベートコール」の6本です。
  また唐突に更新しますので、時々覗いてみてやってください。

Novmber 2006、綾乃・拝 
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