Wedding Bell −軌跡・2−

CHAPTER-09 (081) (047) (045) (098) (027) (010)


このお話は、当艦オリジナル・キャラクターの宮本暁視点で
『ヤマトよ永遠に…』時代を描いたものです。
彼は白色彗星戦後、島大介とともに古代守参謀の直属として地球で過ごします。
ヤマトが脱出したあと、囚われた森ユキの脱出と戦いをメインに
パルチザンの人々を描けたらいいなと思った物語の一部です。
ゆるやかに「軌跡−地に潜り、軌跡追って」 の続きです。よろしければそちらもどうぞ。
 ★  ★
こういったお話が苦手な方は、ページを閉じて、お忘れください。
悲劇がお嫌いな方も・・・また、森ユキは当world解釈により、相当に“戦う女”です。
また、古代進やヤマトは登場いたしません(名前しか・笑)。
ちなみに、この話は、「永遠の誓い」 に続きます(別の話ですが)。




= 序章 =
 弔いの鐘が、鳴る。高く、低く……。
それは、取り戻した美しい青い空に、溶けるように響いていった。
 ハンカチを持っていた手をぎゅ、と握り締めて、雪が言った。
「これは、結婚式の鐘よ。――彼女はきっと、幸せに……」
涙を堪えるようにしてそうつぶやくのを耳にして、宮本暁は、ぐ、と拳を握り締め、空を
仰いだ。目許に湧き上がりそうになったものを抑えるように。
あぁ風が吹いていく――この空に。ヤマトが取り戻してくれた、この空に。

 「――ユキ。俺たちはまた、歩き出さなければならないの、かな」
えぇ、と微かに背後で聞こえたような気がした。だが、それが肯定の意味を含んでいたのは、
長年、戦いを共にしてきた間柄なのだから背を向け、言葉を交わさぬままでもわかる。
「……皆が、帰ってくるまでには。立ち直るわ、私」
「……無理することはないさ。何のために男が居ると思ってるんだ?」
務めて気軽に聞こえるように彼は言う。「――古代は、受け止めるさ。だから思い切り
泣けばいい――今までの分もな」
「宮本さん…」
「お前の恋人は、たいしたやつだよ、だから。時には甘えてやれ」
本部管制室から、すでに帰還途中のヤマトと交信した2人である。
「えぇ…」くすりと泣き笑いしたような雪の声が、耳に届いた。
『ゆき……帰るよ』そう言った古代進の声と顔が、よみがえった。
 会いたくて――喜ばしくて――そして哀しい。失われた多くの命、離れ離れの戦い。
ヤマトの哀しみ、私たちの――苦しかった日々。

 2人はまた教会の塔を見上げた。
この小さな建物の向こう側には、残されたいくらかの人々が集まって、葬列を成している。
――私たちは。勇敢に戦った彼女と、囚われ、死したその恋人を送った私たちは。
ここからこれが2人の結婚式だと、願いたいと思った。
そして約束しよう――貴女たちのためにも。
地球はこんどこそ、本当に平和な星になるのだ、と。




= 1 =
 「北野っ! 何をしている――そっちは良い。早く、後続へ連絡をっ」
「まだっ! まだ、ユキさんがっ!!」
「バカヤロウっ。ユキは大丈夫だ。絶対に抜けてくる、そう連絡が来た。信じるんだっ」
「しかしっ!!」
 「危ないっ」
宮本が飛びかかり、北野に被さるようにして潅木に突っ込んだ処へ銃撃が襲い、近くで爆発
が起こって、数人が吹き飛ばされた。
 燃え上がる何棟もの建物。そして、その炎を背景に、するりとした黒い姿が駆けてくるの
が見えた。
 「――ユキ……」
「森ユキだぞ」「無事だったのか…」
仲間たちの援護を受け、その反対側から。
パルチザンの市民たちの間を縫い、真っ直ぐに防衛軍の隊員たちの前に立つと
「森、ユキ――無事、帰還しました」
きりりと敬礼をし、窶れてはいたが、その姿は、北野が憧れて憧れ続けた、あの森ユキその
人だった。


 「おう、坂本。あっちの様子はどうだ?」
宮本さん――そういう声が被って、低い天井のカンテラを揺らすと坂本茂が立ち上がった。
「――だいぶ落ち着いたようです。今、お呼びしようと思っていたところですよ」
「ユキは大丈夫なのか」
北野をあぁ怒鳴り飛ばしてはいても、心配しているのは宮本も同じだった。
信じること――戦士としての力量と信頼。それと、女の身である友人を心配することは別だ。
無事に抜けてきた、とはいっても、傷つけられてはいないか、怪我は? 栄養状態は?
……そして。ほかにも心配なことは沢山あった。
 「伊勢さんでも戻ってりゃいいんだけどな」
「そうですね……女は女同士」そう言うと声を顰めて囁く。「――あっちのエリアの陽動
作戦は成功したそうですけどね、指揮官として離れられないんだと」
そうだろうな、と宮本は思う。
 実戦経験のある元士官などわずかだ。
本部周辺に居た宮本たちはまだ指揮系統を作り上げるのにさほど苦労はしなかったが、パル
チザンのほとんどは市民で、ガミラス戦のあと退役していた伊勢は、本部とはほど遠いエリア
で参戦し、その地域の市民たちをまとめあげながら動いているのだ。
連絡が取れたのも最近だった。

 「ユキ――入ってもいいか」
蟻の巣のように張り巡らされた地下の穴倉に、それでもさっぱりと清潔な小さな部屋をあて
がわれて、ユキはそこに座っていた。
「寝てなくていいのか?」宮本と知るとユキは笑顔を見せて、その緊張したままだった表情
を少し、解いた。
――厳しい顔をしている。
頬も削げて、窶れた。だが、凄絶に美しいな。
 “ヤマトの女神”といわれた彼女である。危機にあってもけっして揺るがず、弱いように
見えて常に冷静で、しかも熱い心と優しさでヤマトの乗組員を救ってきた。古代進を愛し、
愛され、だんだんと女性としても花開いていくような彼女に、熱い視線を送った若者たちは
多い。――だが宮本は。
 好みの範疇、という処から外れていて、彼女を女性として魅力的だと思ったことは、あま
り無い。ただ信頼する同僚で戦士――女ながら。見かけによらず、内実によらず。ヤマトの
同僚として信じている。だが今のユキは。
(美しいな…)
強さ、というのだろうか。
――逆境にあって。敵の渦中に捕らわれて。恋人と引き離され、絶望の中を泳ぎきり、俺た
ちに情報を流しさえした。
もっと早く逃げることもできたのに――そうせず。
敵の将校の好意を逆手に取って、パルチザンを助けてきたのだ。
“冬の蝶”=白く踊るもの…雪=ユキ――そういう符丁で送られてくる情報に、俺たちは
どれだけ助けられただろう。……そのための代償も、払ったというのか?
 青白い頬をして、目だけを大きく見開き、唇を引き結んでいる目の前の女。
宮本暁は、出会って初めて森ユキを、美しいと思った。

 行きましょうか――ユキはするりと立ち上がる。
状況を詳しく説明し、今後の作戦を練らなければなりません…。
長官はじめ幹部たちにはある程度のことは話さなければならないだろう――言いたくない
ことも。その強い意思にビリっと電気が走るようで、哀れとは思ったが、宮本にはどうする
こともできなかった。
 「長官がお待ちだ――なぁ、ユキ」
え? とユキが振り返る。「……必要最低限のことだけでいいんだ。言いたくないことは、
言わなくていい。君は、本当によく戦ったんだからな」
何を言うのかとユキは怪訝な顔になったが、思い当たることがあったのだろう、コクリと頷
いて、ふっと、しかし少し哀しそうに笑った。
「……いいえ、大丈夫。今の私には隠すべきことなど、なにも、ない」
 その頑固な口調と、少し逸らせた目を見れば、それは嘘だろうと宮本には推察できた。
歴戦の戦士の勘――だがその“嘘”が。敵将校との取引――約束ともいうが――に起因する
とは、この時、誰も知る由がなかった。しかも、その約束の根底にあったのが、敵将校の、
ユキへ向ける愛情だとは。

 「おりょう? ……ま、さか」
部屋へ入った途端、森ユキから驚きの声が出た。
「ユキ……無事でよかったわ」
大柄な、ユキとはタイプが違うがなかなか目を引く女性がユキを出迎えた。明るい声で。
「――森くん。――ずっとパルチザンの面倒を見てくれていた、崎谷諒香さきや りょうかくん……看護師
資格も持っとるそうで、助かっている。君の昔馴染みだそうだね?」
「はい。……最初の病院で一緒でした。――まさか、貴女が」
にっこりと諒香は笑い、ユキ、本当に無事でよかったわ、と言った。
「男だけではなにかと気が回らんからな。体調も整えてもらわなきゃならんし、しばらく彼
女に面倒を見てもらうがいい」長官付きのベテラン・眞南がそう言って、諒香は頷いた。
だがユキは。
「――いいえ。すぐにでも。大丈夫です、戦えます」
キッと掠れた声であがきっぱりとした言葉が返った。
体は弱っているが気力は十分だ。時間がありません、一刻を争います、とユキは言い、自分
も前線で戦わせて欲しいと言った。
「森くん――」「ユキ…」
「コスモガンなら扱えますわ――ヤマトの戦士は皆。戦闘員も非戦闘員もありません、いざ
となったら全員が戦う、それが沖田艦長の――それを引き継いだ艦長代理・古代、進の…」
そこまで言って、ぐっと詰まった。顔を逸らし、涙を見せまいとしたユキは、それでもすぐ
に顔を上げると。
「明日から、塹壕掘りでも突撃隊でも、何でも手伝います。……本来なら医療班に回るべき
かもしれませんが、お願いです。前線へ出してください」
「――何か、考えが……あるのだな」
こくりとユキは頷いた。強い目の光。
「お話します……」
 促され、部屋にいた人間はその場に腰を下ろした。
「崎谷くん、君もいたまえ」席を外そうとした諒香に、眞南が声をかけ、うなずいて彼女は
入り口近くに宮本と並んで座った。



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