air icon この蒼きそら

CHAPTER-16 (044) (064:1 /2 /3 /4) (051) (065) (093) (067)

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 「う、そ……でしょう? 全滅? ぜん、めつって――」
『お気の毒だが――加藤隊長以下、コスモタイガー隊40名、全滅。生存者5名、うち
再起不能2名を含む重傷者4名……』
 問い合わせると、知己の管理官が気の毒そうに、だが極力感情を殺した声で答えて
くれた。
『鎌坂少尉−−長崎隊員は、白色彗星内にて殉職。遺体も…残念ながら……』
 「……加藤も、加藤隊長もっ、死んだのですか? 生存者の名は? 古代艦長代理
はっ!」
そうだ。艦長は居なかったはずだ。古代は艦長代理のまま、ヤマトで飛び立った。
 『艦長代理はご無事だ――詳しいことはわからんが……加藤隊長は、殉職された』
「加藤がっ! 山本は」
『――山本隊員も鶴見隊員も……凄絶なご最期だったと報告されている』
「ほかにはっ!!」
『生存者5名の名は、宮本暁、古河大地、佐々葉子、中里勇、三波則夫――』
(そ、それだけ……吉岡も、工藤さんも、内藤も、横森や木村はっ!?)
画面の向こうで管理官は首を振った。
『――コスモタイガー隊の生存者は5名』
 「――し、島は? 南部や相原は? 太田は? 真田さんはっ」
『ご無事だ……ただし、航海長と砲術長は重傷で……島さんはまだ意識が戻らない』
(島が?)
『――これ以上は言えない。生存者の名はそちらへ転送する……ご家族に連絡してさ
しあげてくれ』
……といっても。――月に来ていた者はほとんどが単身で…いったい誰にどうしたら。
 へなへなとその場に座り込み、長崎ひかりは呆然としたように半日を過ごした。

 自分の体が自分でなくなってしまったようで――貧血を起こして倒れそうになったの
だ。だが気丈な女性で、自分の状況も十分承知している。これでこの子にもしものこ
とがあったら……という意識がどこかで働いて、病院へ連絡を取り、自分で出かけて
いった。

 地上はまるで何事も無かったようにざわめき、日々は昨日の続きのように営みを続け
ていた。――ただ、僥倖だったこと故。
 だがニュースは何度も何度も、繰り返しそのヤマトの最後の戦いの衝撃的なシーンを
流し、それは軍によって規制をかけられるまで続いた。

 ――混乱していた。
 いったい、何? どうなったの? あの人は、どうしたの?

 心労だっただろうか、一日の静養を言い渡され病院に泊まったひかりは、その夜、本
当の悲しみに襲われていた。
――嘘、でしょう?
帰ってこないなんて。19人しかっていうけど。19人も、生き残ったのよ? 何故、あの人
は入っていないの? 加藤。――鶴見。吉岡……内藤も、横森も、木村もっ。
教えてよ、どうして? 南部っ。古代ぃっ!!
 心の中でどれだけ叫んだかしれなかったが、その言葉がついに独り言としても外へ
出ることはなかった。

 寝苦しい夜――夢の中に浮かびでた夫――長崎浩は穏やかに微笑んで言ったのだ。
 宇宙空間だった。
 黄金の光が一条差し、そして鮮やかな、儚い笑みを残して、女神が青い姿を見せた。
その微笑と光に照らされたような気がした時、彼の声がきこえた。
(ひかり――帰れなくて、ごめん。……だけど、いつも、一緒だ。地球が無事なら、
 それで、いい―― )
 いつも見せてくれた柔らかな笑顔だった。
 加藤も、吉岡も、内藤も、横森も、木村もいる――皆、一緒だから。
見守っているから。
元気な子を産んでくれ――それと。古代を頼むな。
 (あなたっ――)

 は、と目覚めると、あたりは闇――そしてさやさやと少し開いた窓から、夜風が吹き
込んでいた。
汗を拭い、白く写る天井を見上げる。
(どこにも、居ないのだ――)
顔を覆って――そして、初めて涙が落ちた。
 落ち始めると、涙は止まらず、慟哭が彼女を襲った。
声を殺して、だが泣き続けた。
ひろ――ひろ。愛してた。愛してる――私の、ひろ。
一緒に、行きたかった――どうして。どうして、逝ってしまったの、浩。

 いつまでも、泣き声は静かに続いていた。

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 それから1週間――。
彼女は遺族の一人として、旧乗組員たちとも連絡を取り合い、ヤマト乗組員たちのため
の嘆願に動いた。そして、その足で。古代進に逢ったのである――。

 古代。
 もう、嘆くな。
 私は、幸せだったし――これからも、もっと幸せになろうと思う。
だから。
 私たちは同期だろう? 心は、一つだよ、古代。
 

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