= 4 = きゃぁ! あはははっ。 ほぉら、こっちよ? のりくん。こら、守っ! 危ないから気をつけて。 ほら、お兄ちゃんにご迷惑かけるんじゃありません…。 風の気持ちよい緑の広場。芝生の上をぱたぱたと男の子はビニールの大きなボールを 投げたり追いかけたりして走る。まだよちよち歩きの息子を見ながら森ユキはそれの相 手をして一緒になって遊んでいた。 少し離れた処から、それを見守る古代進と――息子の母親である、長崎陽。 爽やかな、五月晴れの一日――復興しつつある地球の自然は、そこかしこに息吹いて いる。 にこやかに微笑む女性は、とてもこれがコワモテの戦闘員には見えない。 5歳になる息子は今年、小学校に上がったばかり。古代の息子である守Jr.は、生まれて 1年、ようやくよちよちと歩き始めた可愛い盛りだ。 「――あんたたちも、ようやく幸せな家庭を築いてるっていうわけよね」 ふぅと空気を胸いっぱいに吸い込みながら、あかりは言った。 少し照れたように笑って、古代進は「そうかな」と言った。 「のりくんも元気に育っているようじゃないか。……益々長崎に似てきたな」 くすと笑ってひかりは言う。 「そうね……みんな、長崎の両親も、うちの親までそんな風に言うのよ。私も時々、はっ とすることがあるけどね。子どもの頃はあんなんだったのかなぁ、なんて。いまさらな がらに亭主を知ってく感じだわ」あっはは、と笑う。 子どもたちを見つめる目は優しい。 「――守くんはユキそっくりだね」 あぁ、と古代もけぶるように笑った。 「えらくハンサムくんだね、古代も負けそうじゃない?」 「そうかな……自分の子どもってあまり実感がないんだけどな。俺は宇宙に出っぱなし だし」 「でも、幸せそうだ――」 「長崎――俺は」 私も、幸せよ? とひかりは古代の言葉をさえぎった。 ――ヤマトはもう、無い。 昼間は光で見えないが、あの月の向こう側にいるのだ。 あれ以来、ついに自分はあの艦に再び乗る機会を得なかったが――それでよかった のだ、と今は思う。アクエリアスが来襲し、ディンギルの猛攻を受けても――あとを引き 継いだ若者たちが戦ってそれを退けた。 自分も――地上でだけれど。十分なバックアップはできたと思う。適材適所だわ、と言う のだ。 子どもがいるし――私は父親じゃなくて、母親だから。 ひかりは笑った。子ども放っておいて戦艦に乗るわけにはいかないしね。 地上勤務で、できることをやる――だからといって、戦うのをやめるわけじゃないわ。 心はいつも。ヤマトと共にある――だからこそ。 空は、五月晴れだ――。 地球は、美しいわね。 長崎陽は、そう言った。 あぁ、美しいな、と古代進も言った。 「進さ〜ん! ひかりさん! お昼にしましょうっ!!」 「母さ〜ん、お腹空いた」 はいはい、と言って、古代と顔を見合わせ、子どもらの方へ近づく。 ――西暦2206年。地球はようやく本当の、平和への道を歩み始めた処である。 Fin 綾乃
――18 Jun, 2009 |
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count064−−「五月晴れ」 また、同じく“白色彗星戦・地上篇”として、No.51「助けて!」、No.65「海へ」があり。 ちなみに、この短編は75本目。4分の3を折り返しました。 (2009年6月 綾乃、記す)
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CHAPTER−16, counter No.92−−18
Jun, 2009追訂
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