air icon この蒼きそら

CHAPTER-16 (044) (064:1 /2 /3 /4) (051) (065) (093) (067)

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 きゃぁ! あはははっ。
ほぉら、こっちよ? のりくん。こら、守っ! 危ないから気をつけて。
ほら、お兄ちゃんにご迷惑かけるんじゃありません…。
 風の気持ちよい緑の広場。芝生の上をぱたぱたと男の子はビニールの大きなボールを
投げたり追いかけたりして走る。まだよちよち歩きの息子を見ながら森ユキはそれの相
手をして一緒になって遊んでいた。
 少し離れた処から、それを見守る古代進と――息子の母親である、長崎陽。
爽やかな、五月晴れの一日――復興しつつある地球の自然は、そこかしこに息吹いて
いる。

 にこやかに微笑む女性は、とてもこれがコワモテの戦闘員には見えない。
5歳になる息子は今年、小学校に上がったばかり。古代の息子である守Jr.は、生まれて
1年、ようやくよちよちと歩き始めた可愛い盛りだ。
 「――あんたたちも、ようやく幸せな家庭を築いてるっていうわけよね」
ふぅと空気を胸いっぱいに吸い込みながら、あかりは言った。
少し照れたように笑って、古代進は「そうかな」と言った。
「のりくんも元気に育っているようじゃないか。……益々長崎に似てきたな」
くすと笑ってひかりは言う。
「そうね……みんな、長崎の両親も、うちの親までそんな風に言うのよ。私も時々、はっ
とすることがあるけどね。子どもの頃はあんなんだったのかなぁ、なんて。いまさらな
がらに亭主を知ってく感じだわ」あっはは、と笑う。
子どもたちを見つめる目は優しい。
 「――守くんはユキそっくりだね」
あぁ、と古代もけぶるように笑った。
「えらくハンサムくんだね、古代も負けそうじゃない?」
「そうかな……自分の子どもってあまり実感がないんだけどな。俺は宇宙に出っぱなし
だし」
「でも、幸せそうだ――」
「長崎――俺は」
私も、幸せよ? とひかりは古代の言葉をさえぎった。

 ――ヤマトはもう、無い。
昼間は光で見えないが、あの月の向こう側にいるのだ。
 あれ以来、ついに自分はあの艦に再び乗る機会を得なかったが――それでよかった
のだ、と今は思う。アクエリアスが来襲し、ディンギルの猛攻を受けても――あとを引き
継いだ若者たちが戦ってそれを退けた。
自分も――地上でだけれど。十分なバックアップはできたと思う。適材適所だわ、と言う
のだ。
 子どもがいるし――私は父親じゃなくて、母親だから。

 ひかりは笑った。子ども放っておいて戦艦に乗るわけにはいかないしね。
地上勤務で、できることをやる――だからといって、戦うのをやめるわけじゃないわ。

 心はいつも。ヤマトと共にある――だからこそ。

 空は、五月晴れだ――。
 地球は、美しいわね。
 長崎陽は、そう言った。
あぁ、美しいな、と古代進も言った。

 「進さ〜ん! ひかりさん! お昼にしましょうっ!!」
「母さ〜ん、お腹空いた」
はいはい、と言って、古代と顔を見合わせ、子どもらの方へ近づく。
――西暦2206年。地球はようやく本当の、平和への道を歩み始めた処である。

Fin

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綾乃
――18 Jun, 2009
 

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古代進&森雪100のお題−−新月ver index
あとがき のようなもの

count064−−「五月晴れ」

 五月晴れ、というのは「梅雨の合間の晴れ間」または「夏の空」のことを言うのだそうな。
5月の爽やかなお天気のことじゃないのね(^_^;)。
 この「お題」には、辛い戦いの後の晴れ渡った空、そんなイメージがあります。
「前書きのようなもの」にも書きましたが、ヤマト“第一航海”を扱った近作で、
“艦載機隊下っ端物語”を書きました。その中に古代進や加藤三郎の同期のメンバーが
かなりの数、登場します。順番に書いていったところ、約40名といっていたBTメンバーの
38名までに名前が付いてしまいました。うちの設定では44名ほど搭乗していますので、
決戦で戦死した人の名前をわざと付けなかったことを考えて、ほとんど全員が、顔と名を
持っている設定です。
 サイトを閉じた2008年10月。…この“御題”はあと75本+書きかけの何本かを残すだけ
になっていました。“せっかくだから残りも埋めてしまおうプロジェクト”の一貫です、
これ。古代進の同期=少年宇宙戦士訓練学校第四期生たち。「訓練学校篇」も少しずつ
書き溜めてはいたのですが、そこにはこれから登場予定の、女戦士たち。
そのうちの一人が、この鎌坂陽(かまさか・ひかり)です。
 また、NOVELの『YAMATO2199』で登場する長崎浩(ながさき・ひろ)も、同じく同期。
例によって、この2人、陽が1歳年上なのですけど(長崎と古代は同い歳設定)。

 『宇宙戦艦ヤマト2』=ガトランティス(白色彗星)戦は、ヤマトにとって、史上最悪の
敗戦、そして辛い戦い。
新月worldにおいては、完結編における島大介の死と同様、登場人物たちは、最後の
最後まで、このガトランティス戦を引きずって一生を生きていきます。
佐々葉子然り、豊橋至然り、宮本暁然り……もちろん、愛する女に出会い失った、島
大介はもちろんのことです。

 艦載機隊下っ端物語は、冊子『新月読本05:艦載機隊別冊』に収載予定ですが、
この前短編にあたる長崎鎌坂の物語は、Archive「嘘つきな唇に優しい罰を」
して、一時的に読めるようにしてあります。
 お楽しみいただければ、幸いですが(って誰に言ってるんだ? 自分・笑)。


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 また、同じく“白色彗星戦・地上篇”として、No.51「助けて!」、No.65「海へ」があり。
 ちなみに、この短編は75本目。4分の3を折り返しました。
(2009年6月 綾乃、記す)
CHAPTER−16, counter No.92−−18 Jun, 2009追訂


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