planet icon大嫌い!


CHAPTER-14 (068) (024) (034) (072:1 2 3 4) (067) (093)






 路面の食べ物屋や雑貨店をひやかして歩き、オレンジの袋を持って商店街を抜けた処で、
ふわりとビルの陰から飛び出した人を見た。
(少年? 少女!?)
すばやく飛び出し、路上に駐車されている車の陰から道路を横切る。フリーウェイの交通
が混乱した。
 「まてっ!」
「こいつらっ! 警察を呼べっ」「そっちへ行ったぞ!」
ユキと葉子は顔を見合わせると、風のように動いた。
エアカーの陰に駆け込もうとした方に(葉子が)足をかけ、道路にバラバラと飛び出そう
とした少年たちの前に手に持っていたオレンジを(ユキが)転がす。そののち、手近に飛
び出した1人の腕を横から掴まえるとひとひねり、ねじり上げた。
「大人しくしなさい。悪いことしてないのなら、逃げる必要はないでしょう?」
柔らかな声だが厳しく囁かれて、はっと怯んだ少年の顔を見れば、まだ10代半ば……息子
と同じくらいか、とユキは思った。

 「すみません〜」
バタバタと2人、男が駆けてきて、その後ろからは制服の警官らしき人々が通路を駆け出
すとそこらへんに躊躇していた数人はお縄になった。
「こいつら、このへん荒らしまわってる悪ガキどもでしてね。……お手数をかけました」
ハンティング帽など今更被っている男がそれを脱いで頭を下げ、ユキが腕を掴んでいた少
年の腕を強く掴まえつつ顔を上げて、相手を見たとたん、いっ、と驚きに表情を変えた。
月夜に熊に遭った、とでもいうような表情である。
少し離れた所からやはり暴れる少年を抑えながらこっちを向いたもう少し若い警官(だろ
う、私服だったが)も、こちらを見て呆然としている。――こちらはどうやら、ユキの
美貌に見惚れている、らしかった。
 「も、もしかして貴女は――」
年配の方が言いかけたのに、ユキはいたずらっぽく口に人差し指を立てると、ウインクし
た。「お友だちと買い物に出たんですけれど……悪い子にはキツくお仕置きしていただかな
くちゃね」そう言う口調は悪戯めいていたが、有無を言わさぬものがあって、係官は「は、
はぁ」と頷くしかなかった。
 「葉子、どう? そっちは」
2人が振り返ると、彼女は、ぷいと顔を逸らしたままグズる少女を引きずるようにしてこ
ちらに向かってくるところだった。その葉子の表情は無表情を作っているが、複雑だ。
ユキは驚いて息を呑んだ。
「……飛鳥あすかちゃん――」
 「…お知り合い、ですか?」係官が3人を見比べるようにして、言った。
「えぇ……彼女の。娘さんですわ。でも、そんなはずは。何故――」
 無言のまま、母娘が近づいてくる――少女がグズるのを、乱暴に引き立ててくる、とい
う感じだったが――のを2人は見つめ、佐々が「お手数をおかけしました。――これはう
ちの娘で、私の…母親の管理責任は重大です。きっちり・・・・絞ってやってください」
そう言い様、強引に身柄を引き渡した。
――顔に、なんともいえない表情を刻んだまま。
「葉子――」


 「いや、参りましたよ。さすがにお嬢さんは頑固ですな…」
まぁどうぞ、と取調室の横の応接に通されて、葉子は椅子に勧められるまま座った。この
まま放って帰るわけにもいかず、ユキも付き添って警察署までやってきた。本部にほど近
く、ここから基地の“タワー”が遠くに望める場所だ。
「――しかし、窃盗や傷害を起こしたというのなら、大問題です」
ヘタをすれば自分も辞任しなければならなくなる。
「――地球防衛軍、少佐・佐々葉子。第7外周艦隊および本部特務室所属、機動隊副班長、
ですか。立派なご経歴ですね」提示した身分証を見て、係官は言った。
「恐縮です…」小さくなるしかなかった。
「いやね、あのグループは…グループといえるのでしたら、ですけどね。窃盗というか小
さな乱暴を繰り返しているヤツらでね。さほど札付きというわけではないのですが――ど
うも後ろ闇い噂がありましてな」「…と、おっしゃいますと」「リーダーが破格に人望とい うか、カリスマがあるってのかね。なかなか力のあるヤツなんですが。……アレですよ。
……普通は民間の方には申し上げないのですが、貴女は特別です。口外しないとお約束い
ただけるのなら……“D”です。それの内偵も行なってる最中でしてね」
 「まさか!」
それは、超一級犯罪だ――まさか。クスリ、なんて。
ユキと顔を見合わせ、2人の顔色が変わったのを見てとったか、部長――だった、現場に
出ていたヒトだが――は、慌てて手を振った。「いや、お嬢さんがそれに関わっておられ
たというわけではないのですよ。ご安心ください――今回、たまたま一緒にいて捕まった、
ということらしくてね。微罪です――いや、微罪にもなりませんよ、実際、何をしたわけ
でもないんですからね」
「本当、ですか?」
うむ、と相手は頷いた。  グループに属しているというわけでもないようですよ。普段は一匹狼、というのですか、
あまりグループを組んでどうの、というわけではないですね。少年課の地域担当にも面通
ししてみましたが、間違いありません。このへんに現れることは多いようですけどね――
いやこれは、一緒に捕まった他の連中から聞き出したことですから。奴らの証言によると
ね、その少年――Mといいますが、彼がお嬢さんに、どうやら……惚れているといいます
かね。彼らは“ものにする”という言い方をしていましたが、どうやら誘われれば一緒に
つきあうことはあるが、相手にはされていない、という風でね。
それはそうでしょうな――こう申し上げてはなんですが、きれいなお嬢さんですな、あの
くらいの美人は、大人でもそんなには居ません。あの連中が崇めても仕方ない。
いや、それはそうなんですが――どうやらお嬢さんは、ほかの少年と時々一緒におられ
るようで、あいつが出てきたらどうしようもない、と彼らも言ってましたよ。
 「あいつ?」
「セイ――と呼ばれてるようですね」
2人は顔を見合わせた。
聖樹せいじゅか――)(そうね、たぶん)

 「あの――娘が。飛鳥が、そっちの方に関わっている可能性は、ないんですね。本当に」
「その点は大丈夫でしょう。皆の証言が一致してますからな、もちろん、仲間のほとんど
も知りやしません。Mという少年は、あれでなかなか一筋縄ではいかないところがありま
してね。私ども少年課でも手を焼いているんですよ…」
「――しかし、店の物を盗んだことには違いないのでしょう?」
「その辺も問題はないでしょう。どうやら、お嬢さんが男に絡まれたのをきっかけに始ま
ったらしくてね。店のモノを破損したのも他の子たちですし、お嬢さんは自分のために喧
嘩沙汰になった子たちを見捨てて逃げられなかった、ということなのじゃないかと私は推
測していますけどね」
「そう、ですか……」
 罪なし、というわけにはいかないだろうが、思ったようなことでなかったのはホッとし
た。犯罪に積極的に関わっている、ということにでもなれば、大変だし――何よりも、
四郎が悲しむ。

 「それで、身柄は――」
部長は頷いて立ち上がった。
「今日はもうお引取りいただいて構わないのですけどね――書類はもうお書きいただきま
したから、ここにお母様の受け取りサインをいただければ」「はい」
 ところが、ですね。
ご本人が嫌がりましてね。
え、と葉子は顔を上げた。
 あんな女、母親じゃない。父は忙しくて地球に居ないから、誰も構ってくれなくていい。
そう強行に仰っていて、譲らないんですよ――なにぶん、えらく興奮していまして。
 母親に直接手をかけられてしまった、というのはタイミングも悪かったのだろう、とユ
キは思う。
「――なにせ、親の名前の処に、ご父君の名前しかお書きにならなかったですからね」
え、と葉子は衝撃を突かれた。
「それで、先ほどお会いしたのを幸い、お嬢さんには内緒で来ていただいたわけです」
「――それで、月には?」焦った表情で葉子が問い返すのを、部長は穏やかに首を振った。
「加藤司令――でいらっしゃいますよね? 月基地の。月にはご連絡申し上げていません。
どうしても、ということになれば仕方なかったですが、幸い、お母様と連絡が取れました
からな。なにぶん、ややこしいですからな、通信、とひとことで申し上げましても」
「ありがとうございます…」葉子は頭を下げた。
 だが。

 あのは、そうまでして、私を避けるのか? それとも四郎に会いたいのだろうか。
私では、力不足なのだろうか――黙って下を向く佐々である。
 気づかず、手の甲にポトリ、と涙が落ちた。

 「葉子――」ユキが肩を抱いてくれたのがわかったが、「ご、めん」と言うだけで。
「お気持ちはお察しいたします――」
実直そうな、部長の余分なことを言わない様子がありがたい。
「――それで…」
「一晩、お留めするのは構いませんよ。ほかの連中はまだ取調べ中ですし、仕置きの意味
もありますが、もし明日、定刻にいらしていただけるのなら――少し頭を冷やされた方が
よいのではないですか、お互いに」
「どうしても、帰りたくない、と?」
「えぇまぁ。そうですな」
規定で、それ以上は置いておけませんから。
 ありがとうございます、よろしくお願いします。そう言って、2人は警察署を辞した。



 「とんだ土曜日の午後になっちゃったわね」
少し陽がかげりはじめた大気の中に出て、ユキが振り返って言った。
「すまんな――せっかくの休日を」
ううん、と彼女は言う。
「まぁ進さんも今日は戻れないし、聖樹が寮に入ってしまってからは寂しいものよ。どう
せ、帰ってもヒマだしね」
――うちは、大丈夫なのだろうか。とユキも、名前の出てきた次男坊を思った。
あの子は、意外に正義感が強いし、それに自分の意思も強いから……流されることはない
と思うけれど。私たちには、理解できないところが多すぎるものね。古代聖樹――長男と
はあまりにも異なる性質と能力を持った次男坊。彼は飛鳥の二つ、年上か。15歳。今年、
訓練学校へ入学すると自分で決め、私たちが反対する間もなく成績優秀で入隊してしまっ
たが――まだ、夜の町に出ていったりしているのだろうか?
 「それにしても――娘ってのは難しいもんだな」
自分も難しい娘だったんだろう、と。今になって両親と不仲だった自分を思う。表面いい
子にしてた――15の歳まで、母親は私がどんな子だったか、ついに理解しなかったのだか
ら。飛鳥もそうなのだろうか? あの子は私たちのどちらにも似ていない――清浄で、真
っ直ぐで。だからこそぶち当たる――まだ自分が何者かもわからない。不安定な年頃だ。
 聖樹と付き合ってるんじゃないか、そんな風に聞こえないでもない。だけど、それとな
く大輔に聞いてみても一笑に付された。
「「聖樹? それどこじゃねーだろ。あいつは俺の相棒になるんだからな」」
 16歳になったばかりの息子は妙に大人びていて――昔から、親が足りない分、しっかり
しすぎていたかもしれない。戸惑うばかりの――まだ親子として共に暮らして、わずか5
年ほどの娘。小さい頃は可愛かったし――そりゃ拗ねることはよくあったけど。二度。命
がけで助け出したことがある――自分の何と引き替えにしてもいい、というくらい。
「なぁユキ――連絡、した方がいいかな」四郎に。父親に……月からまだ帰ってこない、
相手に。
こくりと彼女は頷いた。
「忙しいのだから心配することしかできないとしてもね。彼は知る権利があるし、知って
おく義務もあるわ――たとえ貴女がどうあれ。一方の責任ということはないんですからね」
と、親友はそう言って、葉子は頷いた。「あぁ……そうだったな」私には相談できる相手が
いる。どちらにとっても、大事な娘だ。





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