air icon 水−MIYAMOTO−



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= 4 戦いののち

 ヤマトが再び動けるようになり、早速の訓練航海に飛び立ったと聞いた日、俺と
古河は本部へ出頭していた。――古河は訓練学校の教官となる。「2年契約ですけ
どね」と言って少し笑った。
俺は何故か防衛軍の中枢に入るようにいわれ、そこで「戦後の防衛システムの再
構築」を、真田さんや南部と共に手伝うことになった。
ただし、2人ともがヤマト勤務だから、そっちは戻ってきてからのこと。現在も、やる
ことは山のようにあり、藤堂長官としてはヤマトの元乗組員に、という気持ちがあっ
たのだろう。
 もちろん、処分もまだ決まっていない――訓練航海後、といわれていた。――だか
ら表舞台で働くことはできないため、これも長官秘書のような立場である。
足の具合が落ち着くまでは戦闘機に乗ることはできなかったし、関節だけに簡単で
はない。小型機の運転くらいはすぐにできたが、佐々のように火星の訓練学校勤務、
というわけにはいかないのも正直な処だった。――本当なら心配だったからついて
いってやりたかったくらいだ。もちろんそんなことが許されるわけはなかったが。




 ヤマトが大変な土産を抱えて戻ってきたのはそれから2か月後のことだった。
予定を急遽切りあげ、しかもサンザー星系まで往復してきたことは、俺は本部にい
たから一部始終を知っていた。
ガミラスの爆発。イスカンダルの暴走と自爆。そして、スターシアの死と……古代
守の生還。
 赤ん坊のことは、長官からじきじきに呼ばれて聞かされた。
「――というわけだ。これは、絶対の内密シークレットだ。古代艦長代理や 真田くんとも簡単に
ではあるが話し合った。頼むぞ」
 特別措置だったのだろうか――それとも、それを彼らが望んだからだろうか。
真田志朗元科学局長官は、台長としてイカルス天文台へ。そして古代艦長代理は、
乗員わずか3名の有人監視艇の艇長へ、と降格、配置転換が成された。
ヤマトは引き上げられ、何処へか去った――おそらくまた地球がそれを必要とする
まで。誰も――元ヤマト乗組員も。古代元艦長代理さえ、その行方を知らない。
 そして。

 「どうして俺だけお咎め無しで、本部に居るんですか! 真田さんが実働のトップ
だったとはいえ、行くと判断したのはわれわれ自身の意思です。そして、古代艦長
代理は、そのたび、俺たちに『どうする』と尋ねました。けっして彼ひとりの責任で
は――」
 処分が通達された日、俺は古河らとともに上官たちに掛け合った。
話を聞きつけた乗組員たちが集まれるだけ集まろうとしたが、「それは抗議行動、
または反逆とみなされる可能性がある」と、島や相原の判断で解散させられたの
だ、とあとから聞いた。
 皆、傷ついていた――。
 ヤマトにいた19名のうち、傷病兵として退役したのが7名。それ以外の12名は、
全員がばらばらにされ、それぞれの任務に就かされたのだ。
佐々は火星へ――古河は訓練学校へ。俺は本部勤務。そして、島は自宅待機を
命じられていた。――体の良い軟禁だが、彼はまだ体の回復が充分でなく、その
まま旅立った訓練航海でも体調不良を起こしたというのをチーフ連中だけの情報網
で聞いていた。……だが俺は知っている。彼を苛んでいるのは体ではない。精神こころ
だろう、と。
 失われたものの多さに、ときおり闇へ引きずり込まれそうになるのは、私も同じ
だった。
 恐らく、古河も、佐々もそうだろう。
それを乗り越えようとする手段は、人によって異なる――乗り越えようとしない者
はいないはずだった。この3人以外は全員がヤマトでの訓練航海に同乗していた
から、訓練生たちの面倒を見、そのことによって自らを叱咤したに違いなかった。



 「え? 私がですか?」
「あぁそうだ――そのために居てもらったんだからな」
詰め寄った俺に(結局、署名を持って直接交渉に赴いたのは私と、相原だった。
2人とも本部勤務が決まっており、大きな騒ぎにならないだろうという判断もあった
のだ)、藤堂長官はそう言った。
「君に、頼むのだ――古代守は、有能な軍人だ。だが軍務を離れて3年近くに
なる。その間、地球のシステムは激変した。それを補佐し、至急、まずは防衛線の
構築に力を尽くしてもらいたい――相原。君は直接の部署は違うが、同じだ」
「古代さんが……」
古代守とは同じ艦に乗っていたことがあった。彼が『ゆきかぜ』の艦長になる以前
の話だ。戦闘班長として有能で、ボロボロだった防衛軍の中で、彼と共に働くのは
希望だった。
イスカンダルで再会し、無事を喜び合ったのだ。その守が帰ってきて本部の参謀に
なることは、確かに実績からいって頷けたが――直接の上司。それでか…。
 「ちなみに、島も古代の下に就く。詳しい話は彼が明日出頭してからにしよう」
「はい――」

 気勢が殺がれたような形になり、陳情は不首尾に終わった。
 あとから知ったのだ。
一般からのヤマト乗組員減免への署名と世論の盛り上がり。そして、遺族からの
陳情。――多くの遺族は……それはもちろん古代が慰問に回った時に、厳しい言
葉を投げつけた人もあったが、ほとんどの家で逆に慰められ、古代はそのことを
言葉少なに語ってくれた。
その遺族たちが遺族会を組織し、生き残ったヤマト乗組員たちのために動いてくれ
たという。
 二度の謀反――それは、一般に漏れることはなかったが、だが一つの説として、
消えることなく人々の間に不確かならが広がった。
テレサという伝説とともに――。
 真実は島と古代と森の胸の中にだけある――。だがおよそを察していた15人は、
沈黙し、黙々と、その『賞罰無し』の決定に従った。
ただ2人、責任者である古代と、実働をプランニングしたと推測された真田の降格
のみ。また、輸送艦隊の艦長であった島も地上に留め置かれ、そういった意味では
“降格”といえなくもなかったが、これは古代参謀にいわせると“体調管理”だと
いうのだ。
(( 今は宇宙へ出さない方がよい―― ))
それは帰路に見た島大介の様子からだ、と。

 
背景 by Little Eden 様

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