air icon 水−MIYAMOTO−



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= 5 希望の惑星ほし

 古代守参謀と過ごした時間は短かったが、峻烈で、刺激的で、そして心休まる日々
だった。
この緊張感はなんだろう――穏やかで大らかな人だったが、日々のテンションの高
さはまるで戦時中のようで。今思えば、それは、あの強大な敵の来襲を、心のどこ
かで予測し、それに間に合わせるための焦りがあったかとも思える。
藤堂長官と古代守参謀――そして自分。この時期から参謀室入りした結城の兄・一
意と共に、私たちは寝もやらずシステム作りに奔走した。
 会議、会議――会議。そして現場との打合せ。
 真田さんも向坂も、山崎さんも居ない地球で、その中心になって働いた大槻の力
量は評価すべきものがあったが、地球の科学技術班の頑張りは賞賛に値する。
毎日のように、工場と軍本部を往復し、そして。
――島が無人艦隊のコントロールセンターに赴任し、部下に徳川太助を望んだとき
いた。
配属が決まってからは、あれほど強行に“無人”に反対していた島もその矛先を納
め、共にシステム構築に働くようになっていた。
ヤマト時代は少し距離があった島航海長と、この時期、奇妙に接近することになり、
またその島と古代さんの確かにできつつある信頼関係をも見つめる半年間だった。
 仲間たちは皆、ヤマトを離れ、何ができるかを試されていた時間だった。

 古代は初めて“ヤマトの古代”で無くなり、年齢にそぐわない実績と能力、そして
英雄像に戸惑いながら少しずつ自分の力で様々なものをつくりつつあったようだっ
た。まして、短い期間で地上に戻って来、きちんと休暇もある生活は、森ユキとの
初めてのような婚約期間を十分にもたらしていたようだ。――思えば、幸薄かった
恋人同士の2人にとって、最も幸せな恋人時間だったのではないか、そうも思う。
 島も時折彼らと会っていたようだったし、それに、明るくなった。――白色彗星戦
の傷が癒えたとは思わないが、それなりに光明が見えたように思うのは、俺の考え
すぎか?
だが会うたびに「宇宙うみに出たいですよ〜、宮本さん」そんな風に言い、なんだかそ
の自然体の姿が嬉しく感じられた。

 あまりにも多忙な最初の数か月が過ぎると、軍もだんだん落ち着いてきて、それ
まで抑えていた問題点がいろいろと噴出するようにはなり始めていたが、古代守参
謀はそれを、見事ともいえるような手際でこなし、戦艦の指揮だけでなく、地上でも
手腕を発揮できることを実証してみせた。
その半年のうちに――彼は元の“スペース・イーグル”の名をも辱めない復活ぶりを
見せたのである。
 その古代守と進兄弟の姿も時折見かけた。
守さんといるときの古代は、素直に年相応で、俺たちの上に立った艦長代理の別の
面を見せた。古代進は――やっと。度重なる戦いで失われた21歳の青年将校らし
い彼自身を取り戻したのかもしれなかった。




 そして、その日は突然やってきた――。

 俺たちは油断していたわけではない。
少なくとも、長官と、イカルスにいる真田台長、古代参謀――そして不詳ながら俺・
宮本は、この日の来るのをどこかで予測し、そうして動いていたのだから。
 そして、古代からの報告もあった。
火星基地全滅――あそこには盟友も、古代の仲間も……いた。

 夏の暑い夜だ――あの日のことは、今後どんなことがあっても一生忘れることは
ないだろう。

 残って会議をしていた俺たちが珈琲ブレイクに入り、森ユキがバルコニーへ出た時
に、ことは起こっていた。
ユキが慌てて駆け込んで来、敵襲を告げた――気づいていたのは俺たちだけだった
だろう。
驚愕をし――また、こんな方法で直接やってきた敵は初めてだったため、即座に対
応策が取られ、警報が発せられる前にすべてできるだけの準備は行なわれていた。
勤務時間中だったのが幸いだったろう。
 「宮本――お前は先に出て、此処を守れ。最悪、攻め込まれたら地下に潜るんだ。
奇襲は、かけた方に理がある――俺は島とともに迎撃する。それから、森」
「はいっ」ユキが呼ばれていた。「長官について――行きたまえ。……無事でな」
その言葉には深い想いが読み取れた。
「参謀――」何かしらをユキも読み取ったのだろうか。「――時間が無い、ユキ!」
(お義兄にいさん…)
 『島です――』
古代参謀の前のパネルに島大介のコントロールルームが写った。俺はそれを横目
捉えつつ、銃を持って駆け出していた。
「行くぞっ。第一分隊、右翼へ。第二分隊、中央管制室を守れ。第三分隊は、長官
と――私についてこい。非常警報発令――各人、任務を果たせっ」
そう指示を与えると、部屋を出る。
 それが、長くて短い――暗黒星団帝国植民地時代が始まりだった。



 地下に潜ってどのくらい経ったか。
分断されながらも地下の元の地球防衛軍本部へ近づくことに成功し、俺は数人の
小さな部隊を引き連れて、なんとか生きていた。
 「ここは、敵が来ます――ツブしていきますから、こちらへ」
まだ若い男が見つけてくれ、仲間の怪我人を運んだあと。
「俺は坂本茂――パルチザン第3分隊副長です」
そう名乗る若者と出会った。
 坂本――茂? あの、ヤマトの――幻の、戦闘機隊長か。

 そうして坂本と出会い、私はまた新たな戦いの幕が開いたことを知った。
 デザリウムから地上を取り戻し、イカルスから戦いながら本星へ向かったヤマト
を支援する。地上に残され、敵に捕らわれたユキを救い、そしてヤマトを信じて
待つ。
 ヤマトを、信じよう。――戦いは続くのだ、生きるために。

 「坂本、行くぞ」
「はい――ヤマトが起爆装置を破壊したそうです。地球は、救われますね」
「あぁ……俺たちも。戦おう」「はい」
 こうやって結局、戦い続けていくのだろう、私も。
きっとまたいつか戦闘機に乗り――ヤマトや、古代進や、島大介たちと。
加藤――お前の弟はたいしたヤツらしいな。さすがだよ。
お前が育てた若者も、ここにいる。2人ながらに地球を担ってくれるだろう。
俺も、及ばずながら手伝うとするか――また、飛べればいいな。

 ヤマトが帰ってくる。
 何故か、イスカンダルで見た、あの蒼い海が目の前によみがえった――。
くらい地下都市から、コスモクリーナーDに浄化された地上に 出てきた時のように。
そして、今またその闇の時代から、自分たちの惑星ほしを取り戻し、 地上の光を浴びて。
 水音が聞こえた――幻覚かもしれない。だが、それが不思議なほど加藤や山本
の笑顔にかさなる。イスカンダルの清浄な大気と、水。
地球にまた命が満ち溢れ、此処はまた、われわれの星に戻るのだろう。

――それは、新しい時代の幕開けだった。

Fin




綾乃
−−15 Nov, 2007
 
背景 by Little Eden 様

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