air icon 攻防・・@イオ基地



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= 3 = 潜伏!? 状況膠着。

 「え? じょ、冗談っしょ!?」
四郎が仕事帰りに、同じプロジェクトの同僚二人と居酒屋に食事兼飲みに行っ
た時、そこで言われた言葉に驚きを隠せなかった。
「遺憾ながら、本当だ」笑いを堪えて渋面を作りながら、同僚は言う。
「……俺ですら、去年巻き込まれてけっこう大変だったからな。お前なんぞター
ゲットにされた日にぁ、“生け贄”にされることは間違いない」
「い、生け贄って…」
言葉の通り、とヤツは片目をつぶってみせ、「ま、オンナどもに剥かれるのも
肴にされるのも結構かもだけど?」
じょ、冗談じゃないっ! それを聞いた途端、なんとか期限までに基地を抜け
出せる方法はないかと頭を巡らせる四郎であった。

 だが、もちろんそんな方法があるわけはない。試験機の最終テストは2月13
日と決まっており、そのチェック項目の再検討は翌日である。いくらその日中に
データをまとめてもダメ。上層部の来訪が14日なのだから逃げも隠れもできな
い。
 (いったいどうしろっていうんだよ)
とほほ気分の四郎だが、仕事はヘビーなうえかなり緻密なことを要求され、な
かなか諸事にまで気力体力を回すいとまが無い。おまけにその合間を縫って、(バ
レンタインとは関係なく)いろいろなアプローチもあったりするため、心底しんそこくたび
れる日々だった。

 そんなこんなで方策のないまま当日を迎えてしまったのである。なにせ、初期
チェックでトラブルがあり、そこからまた計画を組み直し修正する必要が出たた
め、中盤は突貫工事だった。……
(まったく。恋愛ごっこしてる場合じゃないっての)

 

 そして。――加藤四郎は、まったく勘違いをしていた。

 イオ基地は、外惑星の中では女性比率が高い。地球はほぼ40-60、業務官
やオペレーターズを含めれば女性の方が多く60-40。それに次いで多いといわ
れ、ほぼ30-70である。女性戦闘員はむしろ外惑星へ行くほど割合が多くなる
のは環境のためなのだろうか、そういった傾向がある。
 だが、恋愛をイベント化するのは、基地構内の心身の平和と、妙な軋轢が残
らないようにするため。恋そのものに本気や冗談があるはずもない。
中には憧れを照れで隠している者や、数少ない機会に賭けている者だっている
だろう。それにこのイベントに便乗しそれに隠れ、しっかり“本命”にアタック
する者も多い。追われているのは四郎だけではないのだった。

 だが今年は特に大掛かりだ。
 というのも、四郎は白兵戦でも実戦参戦章の持ち主で、容易につかまりはし
なかったからだ。
また、基地の男性陣が味方し(一部おもしろがっていた者もいた。小さな基地
はふだん、平和で刺激のないものなのである)、コトは《男女対戦》の趣も帯び
て来た。…こうなれば双方、ヒートアップするのは必然。どうしてもつかまえて
チョコを渡し、皆の前に引き出さずにはおくものか、という気分になってくる。
 さほど大きな基地ではない。試合開始(?)から65分……というのも、最長
記録である。

 
 (あぁぁ、いったい、いつまでこうしていればいいのやら)
 先ほどからいくらか潜伏場所を変えながら、先導してくれる男性オペレータの
指示に従って、格納庫へ潜り込んだ。ここはシールドされているため、もちろん
最初にチェックが入ったが、“一度攻撃された場所は安全性が高い” ――戦闘
員なら誰でも知っている真理だ。
…もちろんセオリー無視のテロリスト相手なら話は別だが。
(だがな。テロリストじゃないっていう決まりもないしなぁ…)
はふ、とため息をつく。
 こりゃ「チョコレートテロ」だぜよ。

 いっそのこと、最初に簡単につかまっておけばよかったのかもしれない。
四郎はそんな風にも思ってまたため息をついた。
ここまで来たらいまさらつかまるわけにはいかないのだ。
 いまや基地中に張り巡らされた警戒網は、“本気”の様相を帯びてきていた。
これでは、捕まったら最後、何をやらされるかわかったものではない。
……
(あのひとに顔向けできないようなことになったらどうしよう)
冷や汗たらぁり、の四郎である。

 

 格納庫の、さらにCT試験機の尾翼の下へ潜り込んだ。
 さすがに少し…疲れたかな。
 あまり眠っていないのである。夜も資料と首っぴきになり、また緊張をほぐし
てくれる相手もいない。昼間は神経を遣うテスト飛行、さらにはチェック、そし
てミーティングを繰り返す。疲れも溜まっていた。
 少しだけ…。
 機体に寄りかかり、その陰に隠れて…眠り込んでしまったのは、不覚といえ
ただろうか。


 
背景画像 by 「Salon de Ruby」様 

記事中アイコン by 「一実のお城」様、「Kigen」様 ほか

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