【宇宙戦艦ヤマト2199・第五章 より】


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【ヤマト2199・「望郷の銀河間空間」より
:新月world】
A.D.2199年



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 『――こちらブラボー1。航路Bから惑星の裏側に回る』
その人の澄んだ声が耳に響いた。
「こちらブラボー2。了解」
発進準備の進む中、両機はカタパルトへ装填されていく。
『……エンケラドゥスでの君の腕を見込んでのことだ……死ぬなよ。絶対に、生きて戻れ』
自分に向けたその言葉が、この人の信念であり、戦術長としての願いであり。
そうと知りつつ、単純に、嬉しかった。
言葉にならず、ただ敬礼を返す自分。それに応える彼をバイザーの向こうに納める。
それらは一瞬の動作。

――そして自分はハヤブサになる。

 冥王星は敵の要衝。地球攻略の要。
ただ、そして兄の敵(かたき)――あってはならないもの。
 だが、古代の言葉に包まれ、自身でゼロを駆る資格を得た今、勇躍、あきらの脳裏は冴えていた。
ただひたすら任務を。ガミラスの基地を発見し、叩く。
それだけだ。
 発進し、冥王星へ近づく――機体は宇宙の、風になる。




 「所属が決まったって、本当?」
休暇に帰省した兄を戸口に迎えて、山本玲は、そう兄に問いかけた。
「あぁ。……第3436部隊の偵察隊だ」
玲は息を呑んだ。
「それって……」
 「そ。実戦部隊。ちなみに、オレも一緒」
少し困った表情の兄の後ろから、憎らしい面を出したのが、加藤三郎だった。
玲ははっと息を呑むと、ん、とその顔を睨みつける。
「……なんっ。また腰ぎんちゃくみたいに、くっついて来なくてもっ! 実家へ帰れ!!」
「お〜こわ」
ひょいとおどけてみせるが、玲も本気で怒っているわけでも、三郎も本当にうろたえているわけでもない。
初対面の時からこの二人は、明生を間にはさんで、こんなやり取りを繰り返していた。


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 「お兄ちゃん、本当に、行ってしまうの?」まだ幼さの残る瞳に半分涙をためて玲が言うと、
明生はこくりと頷いて、いつものように柔らかく微笑んだ。
防衛軍の付属高校に行っていたのだから、そのまま宇宙軍に入ってしまうのは当然の道筋だった。
そうわかってはいても、“候補生”だったり“学生”だったりするのとは違う。
本当に軍に入って、自分の許から去ってしまう……その想いは、たった2人残された兄妹の、
しかも少々ブラコン気味の妹にとっては、喜べることではなかったのだ。
 「ほぉら、お前らしくないぞ」
「だって……」
頭をくしゃくしゃ、とされて、その美しい銀の髪が乱れる。
ルビーのような赤い瞳はマーズノイドの証左で、攻撃の始まった火星では、 そろそろ避難命令が出されるという噂が飛んでいた。
火星の一角に2人は住んでいたが、まだ中学生の玲……避難が始まれば一人で地球に降りることになるだろう。
だが今は? −−そう思ったが、玲は首を振った。
「大丈夫よ――此処で。お兄ちゃんを待ってる」


 そうして最初に休暇で帰ってきた時に連れてきたのが、加藤三郎……最初から兄の、生涯の親友となる男だった。
「おう、よろしくな」
と差し出した手を握るどころか、最初に「んべっ」とあかんべをされて、加藤三郎はのけぞった。

 なぁんで親友の家に訪ねて行ってみれば、初対面の女に“あかんべ”されなきゃなんねぇんだ???

 明生の妹自慢は耳にタコだったし、美人で気立てが良くて、運動神経抜群で、素直でカワイイんじゃなかったのか???
 んそりゃ、まぁ。普通にしてりゃ美人でカワイイけど、よ?

 きょとんとしている加藤の前で、山本は妹を叱った。
「こら、あきら。いい加減にしないか。
……彼は加藤三郎。兄さんの親友だ。お前に会いたいっていうから、わざわざここまで来てもらったんだぞ。
お前だって会いたがっていたろ?」
 少し膨れたままでいたかったが、さすがにそこまで子どもだとは思われたくなかった。
こくりと頷くと、
「い、いらっしゃい……どうぞ」と促した。


 「あきらちゃんかぁ」
どっか、と床に座り込んで、加藤三郎はじろじろ、と自分と兄を見比べた。
「それにしても美形な家系だな。あきらちゃんも、こうしてみると、すっげ美人」
「放っといてください」ぷん、と顔を逸らす。
「いやいや、ごめん。悪気はないんだ」と頭をかく加藤。
……この人はあまり、遠慮というものを知らないらしい。
 「いや本当に悪気はないんだよ、こいつ」明生がくしゃ、と笑って玲に言った。
 穏やかで大人な兄。その兄とこのがらっぱちのような加藤三郎とは、見ているだけで本当に良いコンビだった。
信頼や愛情や……そんなつながりが感じられる。
さぞかし空を飛んでいる時も、抜群のコンビネーションを作るのだろう。
 羨ましい気がした――。
 いや、実際、羨ましかったのだ。だから、嫌いだった――加藤三郎が。
兄を、玲から獲っていく人だったから。だから、あかんべ、だったのだ。


 しかし付き合っていくと、三郎は嫌いになれるような人間ではなかった。
柄は少し良くないが、ハートが温かく、兄が信頼するのもわかった。
そして−−これは後で知ったことだが、リーダーシップもあり、一級のファイターだった。
年上年下取り混ぜた部下たちからも、慕われていた。
 「『あきお』に『あきらちゃん』、じゃ面倒だなぁ」
ある日、三郎が言って、
「オレ、『玲(れい)ちゃん』って呼ぶからいいかな」
と言い、それ以来、三郎は玲のことをそう呼んでいた……ヤマトに乗艦するまでは。


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 そして2人は、前線へ配属されることが決まった――。



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★アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』をベースにした同人作品です。
本編の著作権を侵害する意図はありません。

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