此処ここから…


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 ここで大きなメッセージが、届いております。
南部がマイクを取り、雰囲気が変わった。いよいよだなと皆が身構えた。
スクリーンに映像が点り華やかな雰囲気が戻ってくる。
「ご注目いただきたい――大ガルマン帝国総統からのメッセージ、親書です」
わぁっという声があがり、会場が爆発しそうな騒ぎになった。
 待機していた佐々と加藤、坂本、北野らは、一斉に目を走らせ、不審な動き
がないか緊張をする。
だが、パネルに明かりと音声が点った途端、皆、シンとしてそちらを注目した。

 「――『ヤマトの諸君……ガルマン帝国総統、デスラーだ』

 「デスラー……」古代の口からため息のようにその声が漏れた。

 「『地球は平和のうちに反映を続けているようだね、お祝いを申し上げる。そし
て、古代、ユキ――君たちはわれわれと、最初は憎むべきかたきとして、また我が
ガミラス消滅の折には盟友として、ボラー連邦との戦いには共闘し、戦った。
永く遠い日々だ――だが現在いま、戦いの火は遠く、銀河は束の間の平和を享受
している。――君たちも次の世代を育て、早くこの銀河系宇宙の盟主の一員
として、再び宇宙へ出、合間見えることを期待している。
なによりも、デスラー個人として。2人の結婚を祝わせていただく。君たち在る
限り、わがガルマン帝国が再び地球に刃を向けることはない――1度遊びに
来てくれたまえ。心よりの祝いを申し述べる
                   ガルマン=ガミラス帝国 総統・デスラー』


 シーンと、静まり返ったまま、カメラの回るジーという音だけが小さく会場に
響いていた。300人以上がいるとは思えない会場。それほどに衝撃は大きい。
 デスラーの顔そのものを見た者は地球人では多いとはいえなかった。
青く気品のある顔立ち、そして鋭利な表情。整った目鼻立ち。
初めてその姿を見る聴衆は、その意外な若さに驚いただろうか?
 背景バックに見えたのは、総統府から見える星の空と背景に薄くかかる隣の星・ス
ターシアである。古代とユキには覚えのある部屋だった。

 大きな歓声が沸いた。
――祝福というよりも、どよめきだろう。
 古代はすっと前へ出、目で南部に合図するとマイクを取る。
 『ご来場の皆さま――本日は私たち、古代進と森ユキのために、お忙しい中
おいでいただきまして誠にありがとうございます』
特徴のあるよく通る声が静かに響いた。万雷の拍手が起こるはずが、それを留
めるような雰囲気があり、彼は静かに続けた。
『ガミラス――現・ガルマン帝国の総統デスラーからの祝電を戴き、ここに公
開するにあたって、一言。今いちど思い出していただきたいことがあります』
スクリーンに新しい映像が映った。
『――元ガミラスの総統・デスラーの名はわれわれ地球人にとって、忘れるこ
とのできない名です。遊星爆弾を降らせ、わが人類を滅亡の寸前にまで追い込
んだ。だが彼らも自らの生存をかけて戦い、私たちはそれを滅ぼし――地球人
もまた罪を負いました。…その責務の多くは私自身にあるかもしれません。ガ
ミラスもまた自らの星を失いました。先ほどの祝辞にあったように、そののち
の地球の災害、また恩人であるイスカンダルの危機には共闘して戦った――そ
の中でヤマトとガルマン=ガミラスは、共通の敵を持ったこともある。そして
なによりも……地球の最後の危機から、その破滅を救ったのはガミラスの艦隊
でした。』
 それぞれの戦いの最終の場面が、公に記録されているものから短くまとめら
れて投影されていた。第一艦橋からの映像が写る。
『――アクエリアスの来襲に備え、自らの命を絶つ決意をしたヤマトとわれわ
れ、そして沖田艦長の前に――戦えない、体ごと爆薬そのもののようなヤマト
の前に、ディンギルの最後の艦隊が急襲してきたのです。それを救ってくれた
のはデスラーでした。ヤマトはワープし、アクエリアスの前に姿を現した。そ
して、ただ一名の偉大な方の貴重な命と、ヤマトそのものが、あの恐怖の水柱
を断ち切ったのです。』
ヤマト最後のアクエリアスでの姿が写る――元ヤマトのメンバーはそれを見る
のは初めてだった。何故ならそれは地球上から記録された映像で、彼らはその
艦の中にいたのだから。
『それを地球人は忘れることなく――ガミラスからのこの祝電を、古代進・ユ
キは感謝して受け止めようと思っています。ご理解ください。この先も、宇宙
の平和のために、互いのよき立場を探っていかなければなりません、それを心
の誓いとして生きていきたいと思っています』
 古代は静かにマイクを置き、明かりは通常の色に戻った。
長い拍手が続き――会場は静かな興奮に包まれていた。

 (これは――単なる“結婚式”じゃないな)
加藤四郎はその古代が壇上からそっと戻ってまたユキの隣に並び、柔らかな表
情になるのを見つめていた。そしてまた、古代進という男を改めて驚きをもっ
て受け止める。先ほど淡々とマイクでスピーチを述べていた時の声――貫禄
があり、地球を率いる英雄。姿は見えなくとも、その説得力ある様子は古代進
という人物の大きさを思わせた。――いつの間に。加藤四郎にはそういう思い
もある。他のメンバーと違い第3代の戦闘機隊長として彼と出会った四郎にとっ
て、古代は出会いの日から艦長代理であった人だ、最初は雲の上の人。
だが、共にヤマトで戦った古代は、艦長という責務を身に着けようと努力し続
ける若武者であり、そのひたすらさは、世間の評やヤマトという名を背負い、
常に自分を奮い立たせ懸命に走り続けるしかないその姿であった。その苦しみ
もまた共に見てきた四郎である。……だが今の古代が持つ落ち着きは、その経
てきたすべてを越えて大きいと思わせる。
(古代さん――さすがですね)
先ほどから中継で世界中に流されているであろう映像の向こうから、またやお
ら新しい事件の火種を起こさないためにも、これは必要な儀式だったのだ。そ
れをするりと、しかも作られた言葉でなしにやりおおせてしまう人……それは、
古代の心の底からの言葉であったからだろう。


 弦楽アンサンブルの演奏がBGMに流れ始めた。
「しばらくお食事を楽しみながらご歓談ください。そのあとご挨拶をいただき
ます」
南部がそう言った。



 
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