After The Seconds'-War:Sachika



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 「訪ねてきてくれて、嬉しかった」
佐々は左手で悪いね、といいながら自由な方の手を差し出した。
「いえ。私こそ……もっと早くにお会いしたかったわ」
「それで、加藤を取り合うのか? ゴメンだよ」
 軽口の中に、加藤三郎を愛していた、という告白を聞いた。 ――きっと誰もが知っていたのだろうけれども、誰も告げず、 本人も知らぬまま逝ったんだろうな、と佐知香は思う。


 「そういえば」
と佐々が言う。「弟の加藤四郎が入隊したのをご存知?」
「えぇ」と佐知香は答える。
「あれも優秀な若者だ」
「小さい頃からお兄ちゃんのあとばかり追いかけてる子でしたわ」
くすっと笑う。加藤四郎は佐知香より三つ下で、弟のようなものである。
「兄貴よりは要領よさそうだ」
「確かにそうね」と佐知香。「末っ子ですもの」
「直接教えることになるな」
「よろしくお伝えください」
「あぁ――そう伝えておくよ」
 「貴女はヤマトには?」乗らないのかと佐知香は問う。
「うん……この腕じゃ訓練航海の役には立たないさ――それに、 私にはコスモタイガー隊を率いる力量ちからは無い」


 階級から行けば乗り組めば当然、隊長職を拝命することになる。 ――だが今回の航海の目的を考えれば、それは妥当ではないだろう、 というのが軍側が提示した一つの理由だ。
 どこまで本当なのだろうと佐知香は思う。
 加藤三郎と飛んだ日を、忘れがたいのではないか、その傷も癒えない艦に、 一人で戻っていくのは辛いのでは――。


 佐々は飛び上がり見事に転回を決めていく坂本機を見ながら、
(今回のコスモタイガーは全員総入れ替えだな)
と思っていた。5名の生き残りのうち、前線に復帰できるのはわずか3名。 しかもまだ自身を含め闘病中の身だ。
 新しいコスモタイガーは坂本を中心に若いメンバーで組まれる。 そしてまた次世代を担う人材の総仕上げが、火星で待っているのだ。


 この傷が癒えるのはいつのことになるか――。あの人たちは再びヤマトに乗り込み、 その魂を次代に引き継ぎながら乗り越えていくのだろう。 早めに退院してきてしまった古代自身を含め、南部や島も、 まだすぐに戦艦に乗れるような状況ではないはずなのに。それでもあの人たちは、 与えられた命で最大限新しい世界を守ろうと、再び旅立っていくのだろう――。
 この訓練航海を終えた時、私はどうしているのだろう?
 今はただ、加藤に続く人々を育てるために、彼らの魂を伝えるために、 この時間を捧げようと思うのみだ――。


 遠ざかる防衛軍関東司令部を眼下に望みながら、佐知香は心の中にあった決意が、 少しずつ確かなものに変わっていくのを感じていた。
(ありがとう、佐々さん――そして)
心の中に住む、加藤三郎に。
「ありがとう、お兄さん――私は、歩き始めます。私なりの方法で」


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 10年ののち。
 山吹佐知香の名は、大気組成分析学の分野で、地味ながら知られるようになった。 その仕事は、太陽系からその外へ拡がっていこうとする人類にとって、 限りない意味を持つ基礎研究であった――。


 加藤三郎の眠る星の海へ、人々はゆっくりと拡がっていく――。
【End】


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――Dec 11, 2005(Dec 18, 2005 fin)
Dec 30, 2010/再Up
 



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