>KY100・Shingetsu World:古代進&森雪百題 No.76




空は蒼、地球は碧。


(1) (2) (3) (4) (5) (6)


−−『宇宙戦艦ヤマトII』
:古代進&森雪百題 No.76「ピクニック」より


【はじめに】
このお話は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト2』をベースにした創作です。
艦載機隊員・山本明と古代進が登場しますが
山本は“きっぱり新月world設定”の造形ですから、××で△△です。
・・・
いただきましたリクエストにより、“古代くんと山本くんの馴れ初め”
がテーマですので、それらしい描写もあります。
そういうのがお好みでない方、また両者の熱烈なファンの方で
ご自身のイメージを壊されたくない方などは、
ただちにご退室の上、すべてをお忘れください。


それでもよろしい、という方のみ、下記へどうぞ。


star icon


= 壱 =



舷窓ごしに城壁を見上げて、あいつは言った。
「……あぁ、“地球へのピクニック”ってとこだなぁ」
傷ついた身を壁に持たせかけながら。


その壁の向こうには宇宙そらが拡がっている。
 そのさらに彼方から、白銀の光が突如、湧き上がった。
彗星の尾が見えたのだ。


star icon


 それ・・が意味していたことは何だっただろう。
 地球へ、必ず帰るということか――地球を守るということなのか。
もはや絶望の中、圧倒的な敵戦力の前に、命も希望のぞみも 風前の灯火ともしびだった。
――帰れるわけはない。
ただ此処で食い止めなければ、わが故郷ちきゅうにも明日は無い。
そのための捨石になることに、たいした感慨はない――いつもの出撃のたびの覚悟のことだ。
 あいつは不敵に笑った。――いや、不敵というのとは違う。いやに爽やかに笑ったのだ。
 「おむすびを食いたいな。渚で、草の上で。そうして……」
ニヤリと笑った口調に、その科白が例の詩を引用していることにはとうに気づいていた。 その先に続くのは“お前を愛そう、ここで。この地球の草の上で…”というような文言である。 その「愛」が何を指しているか、この時の古代にはわからなかった。 それがどれほど深く、長く彼の裡にたゆたってきたものだとしても、その瞬間、 そんな恋情の想いだけであったとは思えなかった。……思いたくなかった。
 いつだったか。そいつの想いには応えられない、と言ったあと、教えてやったのだ。 大事な友ではあるが――俺は、お前をそういった意味で愛することはできない、と言って。


 昔の人が書いたうたにこんなのがあった、と、 以前まえに雪が教えてくれたことがある。 彼女も知らないどこか古い資料で偶然見かけたのだと。
「――『ここへ帰ってこよう。何度も、此処へ。』…これって、私たちのことね?」
そう言って見つめてきた。
「『お茶を飲んで、おむすびを食べて、ピクニックをするのね。地球の上で……』って、これ。 たった20世紀のものよ?」
「20世紀か――人類がようやく宇宙へ出はじめたころだ」
 「『20億光年の孤独――』」
詩人の名はわからなかった。
「20億光年? イスカンダルより遠いな」
そう言って笑い合ったのは、つい数か月前のことだった。中央図書館に行く要件があり、 真田さんを待つ間に端末をいじっていて見つけたのだと雪は言った。


 俺たちのいくさってのはな、いつでもピクニックみてぇなもんさ。
斉藤はじめ もいつだったかそう言っていたっけ。 軍備かついで、泥水と極悪な環境踏み分けて、未知の国へお出かけってなもんだ。 行った先でどんぱちやって、帰ってこられりゃオンの字――生還率? あぁ。 BT隊おめーらよりぁ少しぁいーんじゃねぇか? って。 装甲板に囲まれたお城にいると、わかんねーだろう? ん?
 そう揶揄ともなんとも知れない科白を吐いて。
 そんなことはない。訓練生時代には、野戦もやったし、極悪な環境の場所にも下りた。 だがそうだな――実際にそういう立場に置かれるようになったのは戦後のことだな。
――その斎藤とも今回は一緒のご出勤になりそうだぜと艦長代理・古代は思う。 もはや一刻の猶予もないのだ。めまぐるしく頭は回転し、可能性のありそうなあら ゆる戦闘・作戦データがフラッシュバックのように浮かんでは消えた。


star icon


 そんな古代を、通路の壁に身を持たせかけたまま、山本明は見守っている。 傷の痛みはどこか遠くのことのようで、手当てはしてあるが重傷ではない。 かえって頭が冴えるのを助けてくれているくらいだった。
 加藤が発信準備を進めている。俺は第二陣、待機だ。……次は一斉出撃か? それとも、 波状攻撃か――さらには先鋒隊を務めるのか、いったい何処へ攻め懸けるのか。
 すべては戦将・古代の差配に賭ける。
 いまは待つこと、だ――。データが集まり、古代が決定するまで。僅かの間。
 山本は古代進という男と初めてまみえた時のことを思い出していた――。


star icon


←KY100・新月index  ↓次へ  →扉へ
dragon's_linkbanner

背景画像 by「Dragon's Planet」様

copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2010. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system