The End of this Load

・・銀の翼・血の赤・・


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Santa Cap


 はぁ…。
 ため息をついて、吉岡は部屋へ戻ってからもぼぉっとしているかと思ったら饒舌にしゃべり まくる、といった状態で、まるで躁鬱だった。
 「そんなに興奮するようなことか?」俺が尋ねると
「あったり前だろ――しかも、目の前で。先輩とはいえ、あ〜んな鮮やかに飛んで見せられちゃってさ…」
 山本明といえば二期のトップグループだ。三村、矢瀧と並んで三巨頭といわれている。
「仕方ねーじゃん。2年も先輩なんだからさ…俺たちこれからだろ」
と言っても…納得なんぞしねぇんだろうな、こいつは。意外に負けん気が強いんだから。
 「――古代も、きっと、そう、だ」
ん? 問い返した。
「古代もきっと。決めた目だな、あれは。……くっそー。絶対に負けるもんか」
「なにがだ?」
 吉岡は顔を起こすと、まっすぐに俺を見た。ドキりとする。
 「な。テスパイ、俺たちん中から選ばれるって噂があるんだよ。山本さんたち、もしかする ともう卒業だろ? 繰り上がるって噂もあってさ……今日みたく乗ることはあるだろうけど、 テスパイで担当できる人間2人。三期四期から選抜だって、聞いたんだ」
「お前、それ……」
吉岡は、力を入れた様子で頷いた。
「絶対に……取ってやる。加藤はたぶんやると思うんだけど……古代はあれ、決意した顔だ った――あいつには、負けないっ」
「吉岡……」
 いつになく強い意志表明だった。吉岡はわりとひょうひょうとしていて、モノははっきり 言う方だが、古代みたいに戦気が表に出る方ではない。だが、今回ばかりは。
「飛行科のメンツかけて……負けられるか」
「おーし、がんばれ!」
俺はどん、とヤツの背を叩き、あぁ、とあいつも明るい目をして頷いた。
 飯、行こうぜ。……2人で食堂へ向かう頃には、すっかり気分も前向きになっていた。


star icon


 この時期、兵器開発が急速に進められていた。1年後に俺たちの母艦となる宇宙戦艦ヤマ トの建造も始まっていたこともあるが、それに搭載され、また現実の戦いに間に合わすべく、 航宙機の新型開発も急ピッチで進められていたのだ。
 人は戦いに出ては不帰となり、戦艦や艦載機も力及ばず――そうして、訓練学校はそのま ま戦いの現場へのステップであった。
 だから訓練機であったR21型の次世代型として――その新型「コスモ・ゼロ型」といわれる 機体は、希望の星であると同時に、テストを繰り返し実戦に投入されるものである。だから 吉岡たちはもしかするとそのまま本番でも使うことになるのかもしれなかった。


 ――加藤と、古代、か。
(難しいかもしれないな…)
 吉岡も優秀な成績を上げてはいるが、古代進は天才だった。
加藤や鶴見がいて、吉岡や九重はそれに次ぐ……あいつらを追い越して取れるだろう か? まだほかに三期生がトライするだろう。
 実機は2機。…もちろん訓練生全員が交代に乗るのだろう。だが、おそらくシミュレ ーションを繰り返すためのテストパイロットは2名から3名。
――三期には負けない。ヤツは言うが……俺は三期のトップである酒井さんや津島さん、 佐々さんらの名を頭に浮かべながら、
(あの人たちはどうするんだろう?)と思っていた。


Jewell Key




 
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