The End of this Load

・・銀の翼・血の赤・・


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Santa Cap

= 2 =



 一週間が過ぎたある日のこと。


 週末の帰宅組が帰ってしまい、ガランとした校内で行なわれた選抜試験は、立会いは許され なかったため、俺は部屋で吉岡が戻ってくるのを待っていた。テスパイに決まればそのまま 訓練投入で、一緒に過ごそうと言っていた週末は無くなる。それでも、勝手に帰る気にはな れなかったし、せめて結果までは付き合ってやろうと思ったのだ。
 (五分五分だな――)
 本人には言えないまでも、案の定、テスパイの募集がかけられ――しかも推薦枠という格好 で、一応、受ける資格は得ていた。予測通り、出てきたのは加藤、古代、鶴見、吉岡、九重。 そして三期から酒井、津島の2人。佐々さんと都さんは受けてこなかった(理由はわからないが)。
 そうして…。


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 ガタン、と扉が開く音がして、吉岡が部屋に戻ってきた。
どうだった? と声をかけようとして、かけそびれた。
 部屋の真中に突っ立ち、肩を震わせていたからだ。ここまでずっと我慢してきたのだろう。
 こいつは熱いやつだが、怒りや喜びはオープンに表しても、めったに負の感情を人前に晒す ことはない。よほど……よほど取りたかった、そして悔しかったのだろう。
 「豊橋……おれ」
随分時間が経ったと思った時、ぼそりと彼の口から俺の名が漏れた。俺は立ち上がって悄然 としたままのヤツに近づくと、その肩に手を置いた。
吉岡の手がそれを捉えた。温もりが伝わってくる。
――だめだったんだ、な…?
 聞かずともわかった。そのまま後ろから肩を抱きこんでやると、あいつは顔を伏して震え た。泣きはしなかったが、相当に悔しかったらしくて、拳が震え、わなないていた。
 「ち、くしょう……」
声が、体に響き、俺はたまらなくなって、そのまま前を向かせて抱き込んだ。 「――えい……また、チャンスは、あるさ」
いいや、と首を振る。
「二度は、無い。……わかってた。あいつらには叶わない――だが。俺……俺だって!」
…悔しい。
 悔しいと、彼がこうあからさまに言うのを初めて聞いた。長い付き合いで、ヤツは古代と も加藤とも仲が良く、そしてヤツらを大好きなのだ。だが。――それとこれとは、違うのだ ろう。戦闘機乗りとして、初めての、心の底からの欲求。そして、挫折だ。
「ちくしょう――かなわねぇ……敵わねぇことが、悔しいんだ。自分が、イヤだ」
「英……」


 しばらくそうしていただろうか。
 なぁ、行こう。今日は外泊届け出してたろ? 家へ、帰ろうや。
 気分を替えてやりたくてそう言うと、ややもしてあいつは顔を上げて、そうだな、と言っ た。――訓練飛行に入る連中を見るのも勉強だとは思う。だが、いまは見たくない。
だから予定通り、帰宅組だ。
 午後ももう遅かった。地下都市の夕暮れは早いのだ――どこか行って、飯でも食うか。そ れとも家へ呼ぼうか。そんな話をしながら2人で用意をして、部屋を出た。
 2年生――16歳の冬だった。


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