The End of this Load

・・銀の翼・血の赤・・


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 「んなことあったよなぁ」
わっはは、とベッドの上に寝っころがって、バラまかれたチョコレートの山に囲まれながら、 吉岡英は笑って言った。
 「――あん時は、本当、悔しかったもんなぁ。俺、一生分古代を恨んだもん」
ころりと起き上がって、目の前にあったチョコの一つをつまむ。
 そうだ、あの週末もバレンタインが近くて、寮を出た途端、近所の女子高生たちに囲まれ たのだった。俺も貰ったけど、吉岡は凄くて、中には大学生らしいお姉さんもいた。その ままお茶しに行って、食事に付き合って――なんだかわけのわかんない1日だった。


 結局、テスパイは古代と加藤がゲットした。
 三期は誰も通らなかったのだ。それは、酒井さんや津島さんが彼らに劣ったということだけ ではない気がする。当然、二期は受けもしなかったのだろう、すぐに卒業だったから。
 ――その後、コスモ・ゼロ型に続いて、「BT@ビーティーアルファ」型機体が届いた。
吉岡はこれが気に入ったらしく、訓練機に投入されたそれをとても喜んでいた。
が……それが後のヤマトの艦載機となる「ブラックタイガーR37型」の試作機だったことは ヤマトに乗ってから知った。
 要するに俺たちの代は、最初からそれ要員として育てられた世代だったのだ。
 加藤は両方をこなし、ゼロは古代の専用機のようになった。結局、ほかの人間には乗りこ なせなかったのかもしれず、BTの方が汎用機になったのはそれが理由かもしれない。だから 古代の能力に合わせ、引き上げるだけ引き上げられたのがゼロの1号機だったのだ。


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 そうして今年もまた2月が来た。
――こんな時代で、世の中でも、人は何かしら楽しみを見つけるし…恋もするのだ。生きる、 ということの本能のようなものだと思う。
 そして俺もまた、恋をしていたし……吉岡も…。


 「それで? 今年は幾つ貰ったのかな? 英ちゃんは」
 俺は吉岡の隣に座り込むと、広げられた袋を見た。
「これ、貰っていいか? 俺、大好物」
地元のブランドチョコを勝手に口に放り込む。
 「おい、待てよ。これには女の子たちの温かい想いが篭ってんだぜ? そんな勝手に食うな よ」吉岡が口を尖らせるのを、俺は遮ってキツイ目で睨んでしまった。
「お前、なぁ――本気でそんなこと言うつもりか?」
「あぁ。悪い?」
ち、くしょう。人の気を知ってて、言うか。この小悪魔。
――「九重は? お前も結構、貰ったんだろ?」
隣のベッドで本を読んでいた同室に言う。硬派で大人しいやつだが、やっぱりなかなかイイ 男の九重も、モテるよなぁ。で、俺は…。
 「豊橋だって貰ったろ? 出せよ」
「え……」
3年になって部屋は別れてしまったが、同室の九重はいいヤツだし、いろいろわかってくれ るから英はよくこの部屋に出入りしている。下級生が居ない今日みたいな日は特にだ。
 土曜の午後だった。
昼の用事を済ませに外へ出た――というのは口実で、訓練学校生はそれとなくこの日、外 でねらってる女の子たちから貰えるものを期待していたといってもいいだろう。期待に たがわず、相当な収穫があり、
「あぁ、あ。やっぱ飛行科は強いよな」
と俺は嘆いてみせた。
 「――そうだな。得票数では科別にやればダントツよね」
うひゃひゃ、と楽しそうに笑う吉岡の頬を、つねってやりたくなった。
「全部、手紙付いてるだろ」とヤツが言い、
「そう。電話番号とか自己紹介とか。あと写真付きだな、たいていは」と、俺。
「よしよし。……女の子ってのは可愛いなー」吉岡が言い、九重が頷く。
 あまり屈託なくそう言うので、俺はついに堪らなくなって、おい、と吉岡の手首を掴んだ。
「い、……てっ。あにすんだよ、至! 痛いじゃないかっ」
「君があんまり、そう言うからだっ――そんなに、女の…方が、いいのかっ」
言うつもりじゃなかったのに。冗談で紛らせておかないと、収集がつかないんだから。ダメ だな、俺。


 ――それでなくとも、不安になる。
俺たち、気持ち確かめ合ったんじゃ、なかったっけ――いや。信じてはいるんだけど、こい つはもともとへテロなんだ。


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 ふっと空気が緩んで、吉岡の表情が「莫迦だな」と言った。
するりと指が伸びて頬に触れた。
「――冗談だろ? 女の子たちは皆、可愛いさ。一所懸命で。だから応えてやらないと 不誠実だろって」
「英……」その指を頬の上から掴んで、撫でる。愛しさが増した。
 「――だからって、俺の気持ちが揺らいでるなんて、想うなよ?」
後半はこっそり囁くように顔を近づけてヤツは言った。


 「――俺、出てようか?」
背中の向こうから声がして、
「あ、済まん」と俺は九重に詫びた。――此処は4人部屋で、俺たちこんな処でイチャついて るわけにはいかないんだった。ところが、英のやつ。
「あぁ、悪い、九重。――5分。…5分だけ、出てて貰っても、いい?」
そんな風に言って、自分の部屋でもないのに悪びれるでもなく。九重の方も、あぁといって あっさりと、文庫本一つ手に持ち、上着を引っ掛けて立ち上がった。
「お、おい。いいのか……すまん」
「いや。5分だな」あぁ、と見上げて笑う英の表情には罪悪感は無く、九重も気にする風 でもなかった。


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