The End of this Load

・・銀の翼・血の赤・・


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 パタンと小さな音がして扉が閉まる。えい はそのまま腕の中に、体を預けてきた。
頬に乾いた唇が触れ、「ごめん、な」とそれが言葉を形作る。
くすぐったさと熱さに体が震えた。
 ――英。……英。お前が好きだ。大事だ――誰にもやりたくない。
 そのまま腕を伸ばして抱き込むと、ヤツはキスしてきた。久しぶりに交わす接吻キスで、 少しチョコレートの味がしたが、息ごと、甘かった。
 そうしてじっと俺の顔を覗き込む。
 「――なぁ いたる
「ん?」「――誓うよ。俺は、浮気はしない。お前が好きで、大事だ。……だから、誤解するな」
「……英」
 俺は心が狭い。英がモテるのは昔からだったし、そんな英だから俺は好きだった。女性が 気になるのも当たり前だし、それを拘束する権利は俺にはないのだ。熱い友情――それだけ で俺は満足すべきなのかもしれない。それは十分に、こいつは与えてくれたし、互いに、互 いの居ない訓練学校生活など想像もできなくなっていた。
 「なぁ、至。――俺さ」
「なんだ」
「お前だけはどこに行っても変わらないと思ってるんだ。この先……別々の処に配属になっても。 一緒に戦いに出ていっても。一緒に生きて、勝って、そうして一緒に……ずっと、行こう。な?」
「――英」
 こういう、一途でピュアなところが吉岡英だった。少年のような――って本当にまだ少年 だけど。そうして愛しくなって、また抱きしめ、キスした。吉岡ヤツが言う。
「あとでチョコ俺からプレゼント、やるから。な。一緒に外行こう? いつものとこ」
 週末だった。外泊許可も出ている。家へ帰ろうと――そう言ってどこかへ行こうと、今日だ けは自由だ。


 コンコン、とノックの音がした。
「5分経ったぞ。――いいか?」九重だった。
「あぁ、いいよ。済まんな」するりと腕の中から抜け出した英は、自分でドアを開けて、九 重の、自分より少し高い位置にある肩をポン、と叩いた。
「ありがと。助かったよ」「いや」
 九重は静かな男だが、理解がある。ふところが深くていいやつだ――そう思う。


 そうして俺たちは週末デートに出かける。


 傍目には友人同士、休日をのんびり過ごしているように見えるだろうか。吉岡はあまり気に しないのか道を歩く時でも平気で手をつないできたりするし、町を歩いていると、俺たち2人 ともそれなりに目立つので何度もいろいろな声をかけられたが――大きくはない地元の町には 学校生は溢れていたし、だから俺たちが噂になっても驚かない、という覚悟くらいは必要だった。
 だが実際は――バレンタインデーの週末。皆がそれぞれに自分の事情に忙しく、人のこと など構ってはいられなかったのかもしれない。


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 「ほら。俺からのプレゼント――」
と言って英が小さな赤い箱を出したのは、軽く飲んだ後、とある場所に落ち着いてからだった。 さすがに居酒屋で出すのには抵抗があったのだろうと思っていると、
「なんかな。やっぱり気持ち篭ってるつもりだから」
そういう場所で無造作に渡すのがイヤだったんだ、と言う英。
――あぁ俺は、お前のそういう気持ちだけで十分だよ。
 デコラティヴな包装なんぞはしていない。箱はかわいかったがそれに無造作に突っ込んで あるだけのチョコだったが。
「味はいいんだ――妹がね。こういうの詳しくてさ」お前けっこうグルメだからな、そういう とこ。と言って照れたように笑うのがかわいくて、俺はそれを一つつまむと、ヤツの口の中に 突っ込んだ。
 「呉れるの? 変なやつ」
「いや…」噛み砕こうとする唇に自分のそれを合わせ、「俺にも半分……」
そう言って、溶けようとするそれを2人で口の中で弄んだ。


 なんだかすごくHな気分なのだが――これからしようとしていることを考えれば、それも またいいのかもしれない。とも思う。
 そうなのだ。俺たちは(お初というわけではなかったが)“外泊”して、誰の目も憚らなくて いい場所に居る。――しかしよく島ってこんなこと知ってるよな? 硬派に見えるあいつの それが不思議なところだが。島に教えてもらった、“ラブホに見えない、リーズナブルなシテ ィホテル”というやつ。ちょっとペンション風で、気分もリラックスできるから、なかなか 若い人間に人気なんだそうな……こんな時代でもな。ニーズがあれば流行るんだろう。
 「至――俺。なんか、熱い…ん」「おれも、だよ?」
そのまま腕に抱きかかえるようにベッドに倒れ込んで、俺はヤツの髪を指で梳いた。
――俺たちはそうやって互いの温もりを感じているだけで十分幸福だったし、なにも無理や り、やることをやる必然をいつも感じているわけではない。共にあり、魂を分かち合える相 手――だからこそ男同士なんだろう、と俺もヤツも感じていたに違いない。


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