・・・3か月め半ば・澪 12歳ごろ
もうこの閉鎖された小惑星にどのくらいいるのだろう――。 僕らはいったい、何のために此処にこうして。 そして、何を待つのだろうか!? 憶えることはそれこそ星の数ほどあった。 合間に、整備の手伝い。点検。新エンジンの仕組みの享受と実際。 やることはそれこそ、いくらでも湧いてくる。手不足で、人不足で、時間が足りない。 ただ、資材だけは豊富にあった。どこにこれだけ備蓄されているか、と いうほどの。……それもまた、何かの危機管理なのだろうか? 訓練の合間のふとした時間。 展望室にやってきて加藤四郎は宇宙を眺めた。 −−僕らは。 どこから来て、どこへ向かうのだろう!? 宇宙は平和で−−兄さん。貴方の望んだ世界は本当に、得られたの だろうか!? 兄さん……。 展望室の入り口に微かな気配があった。 黄金色の空気がふわり、と走って、ぴと、と足許にまとわりつく。 「しろ兄……加藤、さん」 「澪ちゃん−−真田くん」 少しずつ少女らしい姿を見せはじめる澪=サーシャに、四郎は最近、時々戸惑 いを覚える。それでも娘のような妹のようなこの娘には心温まる想いを貰っていた。 澪が望み義父の考えによって少しずつ訓練らしきものを取り入れた教育が始ま っており、必然、呼び名も変わっていった。体の成長が落ち着いてきたこともある。 もう少ししたら全体訓練にも出せるようになるだろう。 だが。 じっと見上げる時に体の一部に触れる癖−−。 「哀しい、の?」 ポツリと、心の裡を読むように言葉を発した。 「澪ちゃん…」 最初のあの日以来、四郎が兄を思い出していると、必ず澪に出会った。 「どうしてかな。わかっちゃうのよ。しろ兄さんの気持ちは、独特の色をしているか ら……」 そう言って、笑うのだ。 「君こそ、なにかあったのかい?」 澪はううん、と首を振ると、並んで星を眺めた。 「わからないの。……辛いのか、嬉しいのか、わからない」 四郎は澪の肩に手を置くと、そっと髪を撫でた。 「話したい? 黙っていたい?」 澪は少し笑うと、「聞いてくれる?」と言った。 四郎はこくりと頷き、微笑む。 2人は手をつなごうとして、やはりちょっと躊躇し、そして澪は四郎と肩を並べて “お気に入りの場所”へ向かう。 資材が積まれて固定されている部屋。以前は澪の“ぬいぐるみ部屋”だった其処に は、資材の箱の横にクッションが積まれてあり、何故か真新しい藁が積んである。 その匂いと温かな隅が好きで、よく、物語を語ったり相談ごとを話すのに使った 2人や山崎夫妻との“お気に入りの場所”なのだった。 |