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・・・Intermezzo・2 澪・15歳 羽アイコン

この項は、「Eternity」を書いている間に|
ふ、と出来た別掲の短編です。|
連載の1本として書いたものでしたが、独立した短編となっているため|
結局、掲載機会のないまま来てしまいましたが|
お読みいただければ幸いです。|
跳ばしたい方は、こちらへどうぞ >>(21)|
−−2007年ごろ著?|

[Intermezzo:四郎と澪の、短いお話]

 「加藤さん−−しろ兄ちゃん。……いるの?」
外の見えない展望室でぼぉっと一人、天井を眺めていた加藤四郎のもとへ、かわ
いらしい声がして、ほっそりした姿が顔を出した。ぴるるる、と足許には小さな
ロボットを連れている。
「澪…」「どうしたの? お夕飯に居なかったから、探しちゃったわ」

 真田澪は現在、外見から15歳くらいだろうか。成人に達するまでもう少し…
このまま17歳くらいまで成長して問題がなければしばらく様子を見て地球へも
降りることができる。
 そろそろ、ヤマトのあれこれを教えていこうか――。
 いつの間にか教育担当アドバイザーのような役割を真田から与えられて、やは
り兄のようにこの少女を見守っている四郎である。
……とはいえその四郎もまだ18歳になろうかなという処。少年の面影を濃く残し
ていた。

 「どうしたの?」
愛らしい笑みを見せて小首をかしげる様は、とても可愛らしい。
ふっと微笑んで、目の前の少女に視線を戻した。
「なんでも…ないんだ」
いつも明るい四郎らしくない。
「ナ・ツ・カ・シイ……ってなぁに?」
きょとんと見つめる。――あぁそうか。この子は。

 痛いとか、哀しいとか。切ないとか……そういう感情を微弱な電波として捉える
らしい。
「あぁそういう感情なのね」と口をすぼめて、少し大人びた口調で言った。
「澪にも、なつかしいって人、いるわ――お母様のことのような、こと?」
うんと頷く。「あぁそれなら。お父様も…それから叔父様も、そうだわ」
 うふ、と笑って。
「しろ兄ちゃんが寂しそうだったから――だからすぐわかったの。澪にはね、
此処にいるって」
そうか、適わないな、と笑ってみせる。


 「お兄ちゃん――のこと? しろ兄ちゃんの、お兄さん?」
「あぁ」そうだよと素直に頷く。
 出会った時――この子はまだ5歳くらいか。その時も兄のことを考えていて、
“寂しいの?”と訊かれた。手を触れて、慰めてくれたのはこのだっけ。
初めて真田と、澪に会った時のことだ。まだわずか数か月前――。

cross item

 「しろ兄ちゃんのお兄さんの話、してくれる?」
うん。
そういえば、誰にも話したことなかったな、と。
「僕の兄さんとね、君の叔父様はね、とっても仲良しだったそうだよ」
真田さんが教えてくれた。兄・加藤三郎は、古代進の、親友といってもよいほど
の信頼し合った戦友だった。
 古代は期待し、加藤はそれに100%以上の信頼を持って応えた。
 傍から見ていても気持ちのよい関係だったよ――。
 あいつらが揃ってコスモ・ゼロ−コスモタイガー駆ってると、誰も近づけない
迫力があったな。しょっちゅうつるんで飛んでたから。戦いの最中でもな……。
 ともかく、息が合ってた。
 古代は誰よりも、お前の兄を信じ――まるで兄弟のように。兄のように慕ってい
たよ。タメ口だったけどな、古代の方が上官で。だが三郎は、デカいやつでな。
皆が信頼してついていけた男だった――古代にとってもなくてはならない男だった
んだ。…

 「叔父様とお兄ちゃんは仲良しだったの?」
「あぁ――帰ってきたとき一度話したことがあったな。古代進っていうヤツがい
てな。ちょいと暗いが、天才だ――そう言っていた。あいつのためなら俺は何
でもやってやろうと思う、あいつは地球には無くてはならないヤツだ――」
ほかにも、うまいことやりやがってさ、地球一の美女ものにしやがったよ、と
言っていたな、とくすりと笑う。
 笑いながらも、また涙が沸いてきそうになって、四郎は慌てて膝に乗せた腕に
顔を隠した。
 「しろ兄ちゃん?」
「…ん、あぁ。なんでもないんだ」笑おうとする。
「みんな、そうね――」
澪はちょっと口を尖らせると、困ったような顔をして笑った。
あどけない表情と、瞳。
なにが? と四郎が問いかけると、「ある人たちの話を聞くと、話してくれるんだ
けどね、みんな、そんなお顔するの――義父とう様も、山崎の小父さんも……しろ
兄ちゃんもそうだわ」と立ち上がった。
 「ごめんよ――」
なぁ、と見上げた四郎をくすりと見下ろして。
「仕方ないわよね」と笑う。「だって、しろ兄ちゃんって、まだ17なんだもん。
コドモよね」
「はぁ?」
四郎は呆れて澪を見上げた。こ、コドモって。子どもにそう言われたくないぞっ。
 男兄弟ばかりで育って、思春期には全寮制の訓練校へ入ってしまった加藤四郎
は知らなかった――この年齢の女の子が、いかに生意気で、大人ぶっていて……
多少の年の差など、男が適うものじゃないってことを。
参っちゃうなぁ、と頭をかいて。センチメンタル・タイムは終了のようだった。
 「お腹すいたな――」
「そりゃそうでしょ、ご飯食べないともたないわよ」「うん…」
四郎は決まり悪そうである。「まったくもぉ、コドモなんだから」
こっちへいらっしゃい、という澪についていくと、お握りがこしらえてあった。

 「おいしい?」「うん」
と四郎も笑う。確かに腹は減っているんだ。食べ盛り、まだ育ち盛りでもある。
はいお茶――熱いお茶、、薄くて、味は付いているばかりのだけど。
 夜のお勉強の時間でしょ? もう、そろそろ行かないとね。
 にっこり笑って横にいる澪の笑顔に、なぜかお握りがちょっとしょっぱかった。

Fin

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