icarus-roman banner
(12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23)
・・・7か月め・澪 16歳 羽アイコン


 緊急通信が、入った――。

 訓練は6か月でほぼすべての過程を終えていた。
 通常の軍事教練に加え、宇宙空間での特別訓練を行いながら、ヤマトでの任務
に就いた。その矢先のことだ。
正体不明の敵が来襲――奇襲により惑星全基地が沈黙した、と。
地球も占拠されつつある、と。

 加藤四郎は、格納庫へ飛び込むと自機をセットアップし、ハンガーを回し始めた。
駆け込んでくる溝田、山口、川上……CT隊のメンバー。
 「おい! やめろ! 勝手に飛び出すと懲罰だぞ!」
「加藤! 無断発進は、重罪だ、やめろー!」
「タイガーで行ける距離か! 考え直せ! 加藤!」口々に叫ぶが、すでに発着口
へ装填されつつあるコスモタイガーを止めるには、強行手段に訴えるしかない。
慌てる面々。
 「おいっ! 何をしている」
そこへ真田が飛び込んできた。
パシューン! 激しい音と一瞬の光が格納庫を貫き、加藤四郎のコスモタイガーの
操縦席の風防にはね返り、四散した。
驚き、手を止める四郎。
「……真田さん」
 真田はつかつかと動きを止めたコスモタイガーに近づくと、渾身の力を込めて加藤
を張り飛ばした。ヘルメットが飛び、操縦席から転がり落ちる四郎――。
「ばかもんっ! 航宙機を飛ばしてどうする気だった!」
四郎が震えながら顔を上げる。
「地球が――月基地は! 探しに、行かせてください……」
 冷静で豪放な四郎らしくない――そこまで聞いて、仲間たちはハッと思い至った。
「月面基地って――」
「もうそこにはいないかもしれない。地球か――防衛軍か――」 四郎は小さな声で
答えた。残してきた女性ひと ――まだ想いの伝わらない相手。愛する人――。

 「ばかやろう!」
真田はもう一度一喝すると。
「お前はそれでも宇宙戦士か。こんな航宙機一機で、どこまで飛ぶんだ。飛んで、
どうする!?」 四郎に言葉はない。
「それに、お前たちにここを出る自由はない。機密作戦中だということを忘れるな。
……脱走は、問答無用で銃殺だぞ」
真田はコスモガンの銃身を立て、真っ直ぐに四郎に向けた。
「俺にお前を撃たせないでくれ――頭を冷やすんだ。どうすれば、勝てるか。どう
すれば、助けられる可能性を少しでも高められるか――」

 戸口に澪が心配そうに立っていた。目に涙をいっぱい溜めている。
「……俺たちが失敗したら、後はないんだ。そのためのイカルスであり、ヤマトだ。
希望を背負っている者の使命は重いぞ」うなだれて、四郎の目から涙が落ちた。
「それに、残してきた人がいるのはお前だけじゃない」
 はっと顔を上げた。仲間たちも、家族は皆、地球だ。親たちも、恋人も――そし
て、澪。
澪が駆け寄り、四郎の頭を抱きしめた。「しろ兄ちゃん――」
「……澪、ごめんな」
ふんわりと少女らしくなった澪の髪が、頭にかかる。
 澪の父・古代守参謀も地球にいるのだ。しかも防衛軍のトップの一人として守り、
戦っているに違いないと――そして、真田にもまた、大切な人はいる。
 「……申し訳ありません。自分が、浅薄でした」
立ち上がり、澪を離し、(ありがとう、という気持ちを込めて)頭をぽふと手で叩くと
澪はまだ涙を流しながらも素直に離れた。
「皆も、わかるな――」
真田は目を上げ、コスモガンを腰にしまうと、隊員たちを見回した。
皆、表情を引き締め、また心の中にそれぞれの闘いを抱えながらも顔を上げた。
 「よしっ。ついてこい。これから山南艦長から話がある」
(山南、艦長?――)

 卒業生たちは、急遽中央作戦室に集められていた。
 山南が一同を見回し口火を切った。
「……皆もここ数時間のうちに聞き及んだかもしれないが、地球は、奇襲攻撃に
より、正体不明の敵の手に落ちた。すべての惑星基地は沈黙し、生死不明。
地球防衛軍からの連絡も途絶えがちのため、敵に傍受される危険を鑑み、通信
管制に入る。時が来たら――準備が整い次第、われわれは反撃に出る――私
はそのために、ここにいる。
 宇宙戦艦ヤマトは、皆の足の下にある。われわれは最後の希望をそこにかけ、
地球を救う者としてここに居るのだ。各人、鋭意努力せよ。戦闘士官、技術士官、
主計官問わず、全員、常に連絡の取れる体制において、待機!」
 緊張が高まる。
 校長としてどちらかというと口数の少ない人という印象だった山南は、どこに
こんな気迫があったのか、というような迫力で、きっぱりとこう言った。隊員た
ちは、気持ちを引き締め、そしてざわめく。
 「ヤマトが――?」
「やはりヤマトか――」「俺たちが――」? 疑問と自負。不安。

 「真田技師長――通信が……」
そこへ技術部の向坂技官が飛び込んできた。
「急ぎか」
 「相原通信士からです」
「なにっ!?」真田の顔色が変わった。
 山南がうなずくのに、真田は身を翻すと駆け出した。
「あ、おい、加藤!」仲間の声も構わず、加藤四郎も隊列を離れ、真田を追った。
彼の持っているIDパスなら真田を追うことが可能だ。

←新月の館  ↑前へ  ↓次へ  →旧・NOVEL index
inserted by FC2 system