【暗黒系10の御題2】より

      window iconカニバリズム衝動。


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 「なぁ」突然、食堂で太田が言い出した。
「お前、いざ、って時になったら人、食うか?」
ぶふ、と喉に何か詰まらせたような音がして、南部がいやぁな顔をして太田を見る。
ぐえ、というような顔をしたくせに、スプーンでカレーを口に運ぶ動作はやめない加藤隊長が
「…その場にならないとわかんねーけど? 食うんじゃないの?」と、ごく普通の会話とでも
いうようにそう言った。それで、「な?」涼しい顔をして食事を続けている相棒を見る。
その相棒、山本も顔を上げると「――死にたくなきゃ、食うだろ。まぁ…病気でやられた死体
とかなら別だけど」
 「君たち、正気?」
気持ち悪そうに周りを見回す相原がそう言うと、南部は「俺は、食べませんよ」と、やけにきっ
ぱりそう言った。「そんなマズそうなもの願い下げです」
「人のタンパクあてにしなくても、いくらでも合成作れるだろーが」
加藤隊長は、冗談ごとでなくなったように睨み、言い出しっぺの太田の方がビビってしまった。
「人間なんて雑菌だらけのもの食ったら腹壊しますよ。過剰反応起こして死んだらおんなじじゃ
ないですか」と、南部。「俺は、食いません」
「美食家らしいご意見で」と太田がチャカす。

 「だいたい、カニバリズムってのは宗教的か社会的意味のあるもんじゃない」と相原が言った。
「難破船じゃあるまいし…今の宇宙船じゃ食糧の前に空気無くなっておしまいだよ」
おいおい、妙に現実的な方に話持っていくなよ、と加藤がしかめツラをする。

 カニバリズム、ね。
食い終わったらしい山本が茶を啜りながら会話に加わった。
「惚れた相手の肉なら、食うかな。俺は」
「まじかよ?」「げぇっ。山本ってそういう趣味あったの?」口々に言うのに、「あら、口で
ってのは愛情表現じゃねーの? そういう相手なら骨まで食いたいって、ね」
まんざら冗談でもないように彼は言う。
 「――クールなあんたがそう言ってもなぁ」と太田。
「そうそ。本気になった男も女も屍累々だって…」相原が言うと、
「誰からきいたんだよそんなこと」と凄まれる。
「BTの連中、皆言ってますって、せ・ん・ぱ・い」メゲない追求も相原らしい。

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 「なぁお前、昼間の話。どう思う?」

 (人の)ベッドに寝転がって雑誌など眺めている相方の方を向いて加藤が言う。
デスクのPCを閉じて、そろそろ寝ようかと思うところ。
「昼間の話って?」その相棒は面倒くさそうに聞き返した。
 「――人食い」
あぁ、あれか。と山本は雑誌を床に落として頭の上に組んだ腕にその頭を乗せる。
「さぁな……お前は?」「あぁ…」
ぎし、と椅子が音を立てて、隣に同じくらいの重量がかかる。
 俺たちはな。――そんなハメになるこたぁねーだろ? エネルギー波、受けりゃ爆発。一瞬で
宇宙の闇の中。南部あいつらだって砲弾浴びたらお終い。 のんびり餓死を待ってる、なんてこと考え
られねーもんな。
 「そっちじゃなくて…」
上半身を起こした気配が顔の上に影を作る。目を閉じていてもわかる気配がすっと伸びて、髪
を触わった。指先が髪の間から地頭をつかみ、熱が伝わる。
唇が、自分のそれに触れた。
「こーいうこと、だ」
 なんだよそれ。山本は心の中で苦笑する。
食いたいほど好き? ということか。キスってそういえば、相手を口から欲することだもんな。
舐めたり噛み付いたり――愛することを“食う”っていうこともあるし。

 「なに、お前。――俺のこと、食いたいの」からかう調子で山本が言うと。
あぁ、という低い声がした。
彼はふっと笑う――腹。減ってるかな、俺も。
 そのまま腕で首を抱え込むと、細身とはいえない体重が胸の上にかかった。

――Fin
   A.D.2200年 to Iscandal into the YAMATO

綾乃
Count001−−22 May,2008


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★TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』をベースにした二次創作(同人)です。
★この御題は、Abandon様からお借りしています。

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