【暗黒系10の御題2】より

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 「う〜ん、難しいのは戦闘班、かなぁ」
「ですよねぇ…」顔を上げて生活班長殿の方を見たのはサブチーフとして何かと頼り
にしている中津理央りおである。「――あんまりコントロールしすぎると闘争本能に影響
する……これって匙加減が難しいですよね?」こくり、と森ユキは頷いて画面に表示
されているファイルを次々繰っていった。
 「××値、マイナス3かぁ――これ以上投与すると気力減退しちゃうかも」
「気力振り絞らないと身体がキツくなるでしょ。それも可哀相だしねぇ」
その点、女はいいですよね。今のところ、ノーコントロールで問題ないですし、と2人
は顔を見合わせてにっこり笑った。

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 「――なぁんて噂、流れてっぞ、古代」
深刻な顔をして何を言うかと思ったら、と古代進は戦闘機隊長を見上げて苦笑した。
「莫迦なこと言うなよ。生活班が俺たちの性欲コントロールしてる? いったい誰が
そんなこと聞きつけてきたんだ?」
「――いや、あちこちと、な」
「最近、食事のあとダルかったり……それに朝、な――そのぉ…」言いにくそうに口ごもる
鶴見は、案外純情青年である。「お前、そんなこと、ない?」
加藤隊長が真面目な顔して覗き込むようにするのに、古代はようやくまともに向き合って
椅子を回した。……まさか、ね。食事に何か入ってるってのか? 確かに最近は、食堂で
メニュー選ぶ時に名前のチェックが入る。補給できそうな惑星を探す余裕がないから、
個別にコントロールが必要、ってそういう風に聞いているが。
 「昔の小さな宇宙船時代には当たり前だった、とかもいうぞ?」
「そりゃそうだけど」
努めて穏やかに古代は言った。だがその科白は自分に言い聞かせているようなものだ。
「知ってます――あれって一回服用するとあと本当に戻るかって不安ですってね」
研修の時に、古参の先輩たちが言ってたんだと鶴見は言った。
「でも、今の宇宙艦でまさかそんなこと」
「あぁ……生活環境が地上と近いからな――広さもあるし」
「それに、そこまでする権利ないだろーって」加藤が憮然と繰り返した。
「――俺にどうしろってんだよ」
もし、本当にそう・・なら艦長命令だ(艦医命令かもしれないけど)。逆らうことは考え
にくいし、嘘だったら笑われて莫迦にされる、だけじゃすまないだろうし。
「だからさ…ユキにな」加藤が代表して言った。
「ユキに?」……ど、どうしろってんだよっ!? ユキに訊いてくれって?
訊けるわけ、ないだろう、俺が。首筋に熱が湧いた。

 「加藤の方が仲良しじゃないか、森くんとは」
「ほえ?」「森くん、ねぇ」にやにや。
古代は赤くなった。「ばっ……生活班長、だ」
 「でもさぁ、死活問題じゃん、それって」と加藤が急に口調を変えて言う。
「――別に。問題ないだろ? もし事実だったとしても」古代が言うと、呆れたような
表情が加藤の顔に浮かんだ。
「…そうですか? 俺、立ち直れませんよ」鶴見は情けない顔をした。
「――心因性じゃないの?」努めて平静に古代が言うのを、加藤は首を振って否定する。
「……ともかく。闘争本能と男の性欲はイコールだっての。女見て何も感じなくなったら
お終いだろって」
断言する加藤を前に、そ、そうかなぁ? と古代は思う。
 いずれにせよ、噂、はマズいなぁ。士気も低下するし。なにより疑心暗鬼になって確か
に若いオトコノコとしては死活問題なのか、も? ……俺ってヘン? たいして気にも
ならない古代進である。

 で。森ユキを呼び出す、使命感の強い戦闘班長だったりした。

 「なぁに言ってるの? 古代くんたら」
あまり莫迦笑いをするような女ではないはずだが、本当に可笑しそうに笑われて、古代進
は、しどろもどろの上にさらに真赤になった。
――だってよー、部下たちがそういうんなら俺が確かめるしかないだろうって。島なんか
に言ったら思いっきり莫迦にされるに決まってるし。
 そう思って憮然と顔を逸らすと、笑い声がもう一つ、聞こえた。パーティションの影から。
 「誰かいるのかっ!?」
焦って声をかけると、その影から「……心配ないって、あたし」と顔を上げたのは
「――お前……佐々」。目許に可笑しそうな笑いを貼り付けたまま、戦闘服の片足をまくり
あげ、キレイな生足を見せて包帯を巻いている。目がチカチカしたが、
「ど、どうかしたのか?」と問うと「うん…ちょっとドジって。捻挫ってほどじゃないから
テーピングしとけばだいじょぶ」なるほど、包帯じゃなくテーピング中だったらしい。
「もう終わるから、気にしなくていいよ」
 そ、そうじゃなくて。今の話、聞かれたのかな? 森ユキはニコニコと笑っている。

 その笑顔に裏はないんだろうか? じっと見つめ返してみるが、自分の首筋が赤くなった
だけだった。
「古代くん? そんなこと心配しなくても、健康状態は良好、病気や神経症になってる人も
いないし。戦闘班は皆さん頑丈で助かるわ」明るく言われてしまった。

 どうも、この女は苦手だ。笑顔は素敵で、頭も悪くないから話してると楽しいけど。
どうもイマヒトツ掴みきれない処があって。思ったことが上手く言えない……。
「今日のお夕食は、古代くんの大好きなイワシの刺身風――この“風”ってとこが艦内の
哀しさだけど、もちろん加熱処理してあるから大丈夫よ。もちろん、妙な薬剤は入って
いません――納得していただけた?」
「ん……あ、あぁ…」
 なんだか誤魔化されたような気がするが、レシピと分量書きを見せろというと越権行為に
なっちまうんだろうな、きっと。え? 俺がイワシ好きなの、なんで知ってんだ?

 去っていく古代が扉の向こうに消えると、立ち上がって支度をしていた葉子がユキに
笑いかけた。
「いいのか? あのまま放置しといて」
ユキはんふっ、と笑った。「大丈夫よ、妙な噂にでもなったら困るし」
「だけど、ほんとに噂だけか?」
「――心配しないで。貴女たちには関係ないから」
「え゛、それじゃ、やっぱ…」
 「心配しなくて大丈夫。私たちはプロですからね」
にっこり笑うユキに、「まぁそりゃその方が私らも助かるけど?」不敵に笑い返す葉子。
医務室横の部屋で2人の女性たちは互いの笑みを交わす。
 「紅茶でも、飲む?」「あ。いいな、だけど、妙なもの入れるのはよしてくれよ」
「当たり前じゃない――美味よ? 天然ものだし」「そりゃありがたい」
――知らぬは男どもばかりなり。

 注※“もしかしてこんなこともあったかもしれない”という、お話です――。

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――Fin
   A.D.2200年 to Iscandal into the YAMATO

綾乃
Count002−−26 May,2008


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★TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』をベースにした二次創作(同人)です。
★この御題は、Abandon様からお借りしています。

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