【暗黒系10の御題2】より

      window icon崩壊した精神が産む。


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 「考えてみたら、おかしいと思いませんか」
テーブルにいた面々を見渡して相原義一が言う。「ネアンデルタール人とクロマニヨン人っ
て全然違う人種だったっていうでしょう? それで、優れている方が先に生まれて、先に
滅亡してんですよ?」
「だから?」加藤三郎が、わかんねーぞ、という顔をして相原を睨んでいた。
「だから。必ずしも優れた者が生き残るとは限らないってことと…」
 「鈍い方が確かに強ぇわな」と山本が突っ込みを入れた。
ちらとそっちを向いて相原は、目の前のミルクをくい、と飲むとカップを置いた。「そういう面も
確かにあるでしょう?――だいたい…」
「鈍いだけじゃ生き残れないけど、あんまり繊細じゃない方が強えぇのは確かだ」と加藤が言い、
「だから女の方が強いんだよ…」とぼそと言った声が聞こえたらしく、大槻が顔を上げる。
 「……女の方が鈍いっていいたいのかしら」ギロりという視線に睨まれて、加藤は横を向き、
山本はふん、と笑う。「まぁそれはさておき」と相原が言う。
 “さておき”されてたまるもんですかっ、と大槻がむくれる間もなく、彼は続けた。
 「現生人類つまりホモ・サピエンスとはどっちも違うんですよね」
「クロマニヨン人もネアンデルタール人もってこと?」「新人・旧人、とかっていうぜ?」
古代や島が混ぜ返すと、「どっちも正確な表現じゃありませんよ」と相原が通ぶりを見せた。
 「あら。進化が断続的なものだっていうのはもう進化論の定説でしょ」大槻が引き取り、
ね、と相原を見る。大槻の研究テーマは生物系じゃなかったとは思うが、総合科学者という
意味ではここにいる誰よりも専門家に近い。「種は、その種として最も優れた形で突然、歴
史上に現れ、あとは分散後退して拡がっていく……。これ、定説なんじゃないの?」
 「定説とは限らないぜ」――珍しく古代進が口を挟んだ。
目が輝いている。そうだった、この妙な戦闘隊長は、こういう話が大好きなのだ。
「後天的に、より環境に適応する資質が残っていく、という説だってまだ健在だよ? もちろん
その現れ方が突然変異だったりある種の病気だったりする可能性が高いってことだけどね」
と、言った。
 そんなこと、考えもしねーな。どうでもいいじゃんかよ、という戦闘機隊コンビである。

 だいたい、最初に現状にあるものより飛びぬけた種が表れたら、まず迫害されるよなぁ?
と加藤が言い、現実的にそうだろ、と山本・古代に同意をうながす。
頷く2人。
 「――ですからね。ガミラスって地球人の亜種かも」
突然、話題が飛躍したような相原に、
「なにっ!?」「てめぇっ」と古代と加藤が噛み付いた。
相原が、なんですよぉ、そんな怖い顔しなくって、とその過剰反応にちょっと蒼くなる。
 「……いやだけど、そういう風に考えるなら、逆かもしれない、よな」と妙に冷静な島大介。
なにぃ、と戦闘班の面々が睨むのに、大槻と顔を見合わせて、愉快そうに言った。「科学力、
って意味じゃガミラスの方が断然上だろ。イスカンダルだったらもっとそうだ。同じホモ・サピ
エンスか、またはその亜種だってことがわかったんだからさ」
――先般、捕虜を捉えて開放したばかりだった。
「地球人の方がガミラス人の亜種かも、なんてこと本気で言う気か?」と加藤は島を睨む。
「――敵さんが太陽系とか全部治めてる星間国家だとすれば、本星の人間とは限らないが」
山本が言って、「そうだな。植民星の現地採用兵士って可能性もあるしな」と加藤が返す。

 「だって、現生地球人とクロマニヨン人の差よりも、ガミラス人と現生地球人の差の方が少ない
んですよ? 宇宙中にホモ・サピエンスが同時発生した、なんてこと本気で信じてるわけじゃない
でしょ?」と、それでも言う相原である。

 ガミラス人と地球人が兄弟? ……んな莫迦な。
「そうするってぇと…」ぽり、と頭をかいて加藤三郎が言う。「――極端にいえば、繁殖できる
……交尾できるってことだな」 ガミラス人と。
 なんだか戦慄する想像だった。――本土決戦、なんてねーだろなぁ。敵さんが同じ“ヒト”だ
とわかっただけでも、感情をさかなでされるような処があったというのに。――おい相原、これ
で戦闘意欲削がれたら、どうしてくれるっ。古代、加藤、山本はなんとなく押し黙るのである。

 「そういえば」
ふと思いついたように大槻が。なんとなくその場の雰囲気を変えようとしたのかもしれなかった。
「“狂った遺伝子”説もあるわ…」なんだそれ、と皆が注目。
 「突然変異もそうだけど、要するに、集団と異質な素材を持った個体のことよ――それが精神
とか頭に発生した、なんて考えればわかりやすいんじゃないの?」
「それが?」わからねーぞ、というように。
「芸術とか発明とか何でもそうなんだけど。天才の反対は――莫迦でしょ。天才と××は紙一重、
なんてもいうじゃない?」
「――それも一面、真理でもあるよな」と島大介。
ヤマトはある意味、天才の集団だが、中でもその先端を行くような工作班のリーダーの1人にそん
なこと言われたくねーぞ、の人々である。
 「痴呆とか愚か者が天の遣いとか哲学や真理の象徴っていう文化もあったのよ」
「なんだそりゃ」また加藤が頭にクエスチョンマークを貼り付けている。
「――昔のロシアとか東欧の文学。ギリシャにもあったわよ、気の狂った乙女が予言をする、っ
ていうの。誰も信じないんだけど、それだけが正しいのよ」
「『崩壊した精神が、真理を産む』ってか?」と言うと、
「お? 加藤にしちゃ高等な表現」と島が茶々入れて、
「おー、宇宙に嵐が来ても驚かね〜くらい珍しいな」と山本に言われ、ちぇ、と加藤が腐った。

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 あまり頭が良くなりすぎると、ヒトってろくなこと考えないのかも。
昼間の会話を思い出したように大槻がそうつぶやくと、加藤が「なんか気になることでもある
のか?」と気遣う顔で見ていた。
 格納庫である。――BTの操作パネルがおかしいというので隊長機をいじっているのだ。

 「――う〜ん。ガミラスってのも物凄い科学力と、組織力と。そして恐らく人口爆発かなんか
でどんどん他所の星に進出してきたんでしょうね」
「あぁ…そうなんだろうな」あの執拗な遊星爆弾の攻撃は、ただ地球をツブしてしまえというだけ
の意図には思われない。容赦なく爆弾で叩き潰してくれたってことは
「選民思想なんかもあったかも、だ」
「進化しすぎると、ヒトってそれに耐えられないのかも」
「だから、狂うのかも、ってことか? 民族ごと?」
へぇ? という顔で大槻は加藤を見た。
 バランス感覚はすごくあると思うし隊長やるくらいだから頭良いと思うけど。それでも、オベン
キョウは苦手、と言動に表れたような本能の男・加藤三郎。
でも、案外こういう人は本質つかんでるのかもね。――と彼女は思う。
 「――おかしいわよね、狂ってるわ。確かにね」
「まぁ、あんまり考えねーほうがいいぞ。俺たちは行って、貰って、帰ってくるのが仕事だろ?
違うか」少し困ったように微笑んだ加藤を見て、なんだかホッとする気持ちになる。
加藤三郎という男の言葉が、ふわりと胸に落ちた。
「そうね。――さ、もうちょっとやっちまいましょう」
「あぁ、ありがとな」

 14万8,000光年。まだ旅は半ばにもほど遠く、ガミラスの攻撃は執拗で、ヤマトは宇宙の孤児
だった――。

Fin
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――A.D.2200年 to Iscandal into the YAMATO

注★この話は、フィクションです。特に生物・進化論については、まったく
創作ですので事実とは異なる場合があります

綾乃
Count003−−27 May/03 Jun, 2008


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背景画像 by「十五夜」様

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★TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』をベースにした二次創作(同人)です。
★この御題は、Abandon様からお借りしています。

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