【欲しがる想いに10】より

      air icon 好き過ぎるから 愛し過ぎたから。


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= 短章 =

 ふん、ふんふ〜ん……♪

 加藤三郎は、少しご機嫌な気分で、シャワー室から自室へ向かう艦内通路を歩いていた。
何でご機嫌というわけでもない。イスカンダルでコスモクリーナーを受け取ってあとは地球
へ急いで帰るばかり。工作班や航海班が大変そうで、自分たちがお暇なのは、そりゃいろい
ろ問題はあるが、今日はなかなかビシッとした一日で、戦闘機隊長としては気分がよろしい
――そんな程度である。
 山本も面倒なこと言わなかったしな…。
 ここのところ妙に絡みがちな親友兼副官に思いが至る。
(なぁんか考えてるに違いないんだけどな?)
深くは気にしない性質たちである。――何かありゃ、言ってくんだろ、くらいな。
(――ちょいとご無沙汰だしなぁ? ストレス溜まってんなら)夜、来ればいいのに。
なんて思ってしまう――ちょっとソッチ方面では考えることもないではない…こともない
加藤であった。

 通路の角を曲がった向こうに、人影と話し声がした。――展望室。
(最近、みんなお盛んだよな――)

 “百里の道は九十九里をもって半ばとせよ――”
沖田艦長の教育も浸透して幹部スタッフは皆、これを厳しく守ろうとしていたが、戦闘も無
い、ある意味退屈な航海と急に見えてきた希望に、お年頃の多い艦内が多少、色めいても仕
方が無い――。生き延びた、そういう安心感も手伝っているだろうと思う。
 展望室は最近、そういう“お話の場”になりがちだ。……と、生活班からリーダークラス
には注意が回っていた。

 (どれどれ…)
興味が無いわけではない、戦闘機隊長なのである。
それに、あの制服――うちだろ。え?
 後姿は女、だ。――女の戦闘機隊員といえば、2人しかいない。
 (げ――佐々っ)

 横を向いて目を伏せ、常にも無くたおやかな風情でいるのは(もしかしたら口ごもってる
だけなのかもしれなかったが)佐々葉子――自分の部下で、腕は一級、信頼のできる女であ
る。……そしてここだけの話――実は、加藤三郎自身が、憎からず思っていないこともない
……というような相手だったりもするのだ。
 誰にも言ったことがないけど。
 自分にも認めるのを迷っていたけど――だけど。
告白する気はなかった。――自分のものにしたい、と思わないでもないし、明らかに好意を
持ってくれているのはわかっているので。だがそれは隊長として、だったり、同僚として、
だったり? 一緒に命の綱渡りをやって、一緒に宇宙やみの中を飛んで――そっちなのかも
しれなかったし。
……でもまたそれで十分かも。

 俺――責任、あるんだ。

 連れて帰ってはやれない幾らかの命を思う。それを抱えているのが隊長というものだ。
使命もまだ半ば――地球へ降り立つその日まで、仕事は終わらない。
だから。

 でも、人の気持ちにまで蓋をする気はなかったし、他人が恋を語っても、喜ばしいことと
思いこそすれ――また野次馬根性を発揮したりこそすれ、止めようという気はなかったし。
 だけど。
 さ、佐々かよ――。

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   「よっ」
ぽん、と肩を叩かれて、あうっ、と声を出しそうになった。
「や、山本ぉ――」少し情けない声になる。「あ、あれって…」
ひそひそと、展望室内を指差すと、やつは鷹揚に頷いた。
 「あぁ、……航海班の――長野だな」
「太田の班の?」こくりと頷く。
行こう、特に見てる必要もないだろ? 

 佐々がイヤがってるそぶりも、そのままラブシーンに突入しそうな雰囲気もなかった。
殴り飛ばしそうな感じでもない。少し伏目がちにした彼女が、いつもと違う雰囲気で、もう
少し見ていたい気もしたが――向かいにいる別の男のためかと思うと不愉快なような気も
する。
……促されて、気にはなったが、あぁといって山本と一緒に踵を返す。やつはスタスタと
迷いも無く俺の部屋へ向かっていた。――なんだよ、こいつはよ。

 どさりと遠慮もなく俺さまのベッドに腰掛けて頭の上に腕を組むと、ふぅと山本はため息
をついた。
「――放っておいて、よかったのか?」
そう言うと、やつは少し黒めの笑いをした。
「……気になるのはお前ぇさんだろ?」
うっせぇ、と言い返す。
「さ、佐々って、あんなタイプ、好みなのかなぁ」
思わず口に出ると、さぁな、と山本は言った。
 お前、佐々にこくったやつ、何人目だか知ってるか?
え? と加藤は驚いて山本を凝視する。
「たいていは、自分で殴り飛ばしてるみたいだけどな」可笑しそうに笑う。
 殴り飛ばして……はぁ。彼女らしいや。
「自分で殴り飛ばさないヤツは…」
え、と目を向けると、ごいん、と山本は拳固でもう片方の掌を叩いた。
「え? お前――」
うっそりと笑う。「……あいつの好みに合いそうなはな。俺様の鉄拳殴り倒してから
行け、ってなもんだ」
「や、山本――それって、お前」
なんか文句ある? と言ってごろんとベッドに寝転ぶ。罪の意識、欠片もなさそうな。

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 まったくこいつはよ。
天然なのか、鈍いのか――それとも度胸据わってんのか、わかんねぇやつ。
山本明は、目の前で多少ショックを受けてるらしい親友を見た。
(ショックくらい受けろって。俺の苦労、わかってねーんだからまったく)

 山本にしてみれば、大事な妹分。
自分が手を出す気はないけどヘン男に捕まるのも許せねぇ。……まったく勝手な言い分では
あるが、それはこの親友のためでもある。
 (とっととこくってくっついちまえよ、まったく。目の毒だ――)
そんな内心を表に出したり忠告してやるほど親切ではない。
一方で、面白がってもいるのである。――葉子を取られるようなのも好きじゃないし、こい
つに熱々の彼女が出来るのも大歓迎ってわけじゃない――だって、なぁ。
 古代とユキを見てみろよ……。
 2人が想い合い、通じ合っているのはわかった。あとは時間の問題――。
ガミラス本星での戦いで――イスカンダルで。
もはや割り込もうとする者はいないだろう……そんなつながりを持ってしまった、古代。
 ちっ。
 仕方ない――あいつらが幸せになれれば、それで十分だ。
そのくらいの覚悟はある。

 目の前にいる親友で――もしかしたら恋人。加藤三郎。
こいつは。

好き過ぎるから
 あの女に告白できない。――隊長の責任。失われてしまった命――そしてまだ終ったわけ
ではない重い使命。
誰が忘れても、忘れたふりしてても、こいつは絶対に忘れないだろう。
そのために、自分を抑えるなんて平気なやつだから――まったく尊敬する。

愛し過ぎたから
 俺は、告げることもできない――あのひとに、だ。
あの最初の時代に――宇宙そらへ去っていった、愛しいひとに。約束は、守った――若い
日の、遠い約束。
今、心から愛しいと想う、そのひとを――これからも俺は、守るだろう。
いつまで傍に居られるのか、わからないが。どんな時でも、駆けつけてやるさ。

akira1 illust by Jay
Akira,YAMAMOTO
Copyright © Neumond,2009./Jay,All rights reserved.
 おっと。佐々だった――。

 「なぁ、本当か?」
「あん?」何が。――自分の世界から引き戻される。
心配そうな顔のこいつは、けっこうカワイイ。いぢめたくなるだろ?
「お前、佐々に言い寄る男、殴ってんのかよ?」それって、余計なお世話なんじゃ…。
ぶつぶつと言うのに、誰のためだと思ってんだよ、と内心の声。
 佐々が興味持ちそうな男、近づけたらヤバいだろ?
気に入らないとか。明らかに好みでないやつなら、自分で蹴飛ばすだろうさ。

 そのくらいわかれよ――わかるわけねぇよな、と思う山本。
あれ? 加藤が不思議そうな顔をした。
「じゃぁなんで、今日のやつ――長野には手、出さなかったんだ?」
お、気づいたか。まるきり鈍トンカチでもないんだな。
「――戦闘員じゃ、なかったからな」
「あ?」
「……航海班だろ? しかも人望もあってなかなかいい男だ。年上でキャリアだからしっ
かりしてっしな」
女のことだけかと思ったら男にも詳しいのか、こいつは。
半ば呆れて加藤は山本を見る。
 「地球へ……帰ってからも、無事に幸せに暮らせそうだ、って言いたいのか?」
俺は、答えなかった。

 佐々に惚れるのは戦闘員が多い。
そりゃそうだ――命翔けていく戦乙女――あの姿見たら、男ならなんとかしてやりたいと
思うだろう。一緒に戦えば真っ直ぐなあいつの心情も伝わっちまう。
人として、惚れるさ。
 だけどな――戦いはもう、終わる。
 軍人が、生き延びられる可能性は、少ないんだ。地球へ戻って――それで、どうなる?
守ってやるってのは。宇宙へ出て、戦ってくることじゃないさ。

 だけど。
 例外が、あるんだな――。

 「なんだよ? 黙っちまって。……戦闘員じゃなきゃいいのか?」
(例外は、お前だよ――それとあと、もう1人)
本人ささが、惚れた男。……そうなったら、誰も、止める権利なんぞないさ。

 加藤――お前、本当にわからないのか?
 お前が行かないんなら、俺が貰っちまうぞ?
 あと、もう1人……。
宮本さんは、本気なんだろうか? あいつもむしろこいつより、あの人に気があるよう
な気もする――少しファザコンぽいからな、あいつは。
落ち着いてて、大人で。そりゃ、俺だって女だったら惚れそうなひとだけど。

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 ぐい、と腕を引かれて、加藤三郎は山本の体の上にかぶさるような格好になった。
あ、、、
やだ、よ。
珍しく抗って、キスしようとしたら顔を逸らされた。
 純情なことで。
 好きな女の話をしながら、男とイチャつくのはいやだって?

 ぐい、と強引に唇を合わせる。

 そうしてしまえば――しばらくご無沙汰だったしな。
やんわりと応えてくれて、手が宙をさまようのを捉えて、その指を組み合わせた。
少しずつ口腔から興奮が伝わってくる――。

 しようぜ? たまには。昼間からってのもいいだろ――非番だしな。
 んっ……んんっ。
 息が弾んでるのがカワイイかもしれない。
俺はこいつのことも、実際。本当に好きなんだろう。

 するりと手を外して、制服のジッパーに手をかける。
もどかしげに自分でもはぎ取ろうとし、互いにするりと上半身、シャツだけになった。
加藤はシャワーを浴びたあとだったからそのままするりと裸になってしまう。
――だが、さきほどまで飛んでた俺は、ガード用のアンダーシャツも下着もぴっちりと体
を覆っていて、それを外すのは少し時間がかかるのだ。

 「すっげ匂いだな――」
ぱこん、と剥ぎ取ろうと胸の上でごそごそしてる頭を叩いた。
「すけべ。何言うんだ――お前だって搭乗後なんてそんなもんだろ」
「うひひ――悪ぃ」
先ほどの憂いはどこへ行ったんだ、というようなスケベ顔で笑うと、いそいそと人を裸にし
ようとする。――まったくなぁ。この明るさがどれだけの人間の救いになってるか。

 急に、切なくなって、涙が出そうになった。
 自分でも驚いた――そんなことはなかったのに。
自分自身をコントロールできているという自信はあった。それに、こいつはじめ、連中には
助けられてきたんだ。だが。
 ぎゅ、とその顔ごと抱きしめると、ぺろりと舌の感触が敏感な部分を濡らした。
 (あぅっ――)
小さく呻く。……唐突に涙ぐみそうになって見られないためにもう少し強く抱いた。
ヤツはメゲずにそのままぺろぺろと舌を使う。
 ――古代。……こだい……。
 ごめん、三郎。
 少し、だけだ――。

 少しずつ快感の波に溺れていきながら、山本は体をずらして目の前の男にまたキスをし、
2人は目を見合わせると、その日のお楽しみに沈んでいったのであった。

space clip

 西暦2200年――宇宙戦艦ヤマトは太陽系を目指しひた走っていた。
宇宙の海は果てしなく拡がり、故郷はまだ、遠い。

Fin
――A.D.2200年 into the YAMATO
Ayano
Count009−−30 May, 2009


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背景画像 by「Blue Moon」様

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★TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』をベースにした二次創作(同人)です。
★この御題は、*月の咲く空*様からお借りしています。

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