小さな城−辺境の小矮星ほし

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 「ただいまー」
帰ると母親が先に戻っていた。
ありゃー、と思う息子。
「ご飯は?」 と問われる。間で茶菓を少しつまんだりしたが、やっぱりまだお腹
は空いてる育ち盛り。「食べる。手間でなかったら」
何生意気言ってんのよ、私もまだだから一緒に食べよう、という声がした。
ダイニングキッチンになっている間のルームへ入っていくと、
こらっ、と頭を小突かれる。
「寄り道しちゃダメでしょ、お使いに行く時に」
えー、だって。無意識に頬がふくらむ。
「……まぁね、ここから街まで便利とは言えないからね、足がある時に寄りた
い気持ちはわかるけど」
ふぅ、と苦笑して葉子はキッチンへ引っ込む。そこ座ってなさい、あ、冷蔵庫か
らサラダ出して。
「なぁに、今日は」「喜べ、お前の好きなハンバーグだ」「へぇ」
「カレーもあるからハンバーグカレーしよう」
にっこり、というような声がして、大輔はため息をついた。
(また、混乱してるし……)
 葉子は料理が好きだし、レパートリーも多い。得意、といってもいいだろう。
だが、時々こうやってわけわからない組み合わせになるのだ。
感覚がズレてんのかな? と息子は思う。カレーハンバーグって…デパート
のお子様ランチじゃないんだから。
 でもまぁ食事はおいしかったし、母親と食事するのはやっぱり楽しい。1人
で食べるのとはさ、味違う感じがして。

 「ところで、大輔くん」
お茶になったところで、母親が真面目な声をした。「報告は?」
「もう連絡行ったの? 早いね」
「当たり前でしょ」
スープのお代わりを注ぎながら怖い顔をする。
「あんなの一瞬で連絡が来るわ。もうその少年どももつかまってる頃ね」
「僕……」
「明日、もう1度管理所へ行って。ごめんなさい、しておきなさい」
「減給かなぁ…」
「仕事はちゃんとしたんだからお金はもらえるわよ。でも、バイクの修理代くら
い引かれるかもね」――そんなことはないのだが、母親はいじわるである。
明らかにがっかりした顔になった大輔。
「……新しい辞書買おうと思ってたのに」「電子辞書?」
「うん。チップ加えたかったの。ちょっと面白いのみつけたから」
「そういうのよく拾ってくるわね、きみは」

 「あぁいうのどのくらいの罪になるの?」つかまるだろう少年たちのこと。
「うーん、どうかしらね。初犯なら軽いけど、どうやら道具も持ってたんでしょ。
貴方に怪我させたのと両方で、少し喰らい込むかもしれないわ」「そう……」

 気をつけなさいよ。
急に表情が変わって葉子は大輔の顔を覗き込んだ。
え? と思う。
いくら放任だったり、危険は自分でねじ伏せろなんて言っていてもね。
心配かけないで。
 そう言われると、なんか苦手だ。
これでも母親ですからね――危ないことしないのよ。
「はい……」そう答えるしかない息子である。


 部屋へ戻って、いろいろあった一日だったなぁ、とごろりとベッドに仰向け
になる。
 あ、そうそう。
先ほど、本屋のレジ袋とは別の布袋を引っ張り出し、ベッドの下から籠を引き
ずり出す。そこには様々な形状の部品――金属のものもあれば特殊合金の
ものもあったが、が詰められていて『触るな! 持ち出し厳禁!!』と書いた紙で
覆ってあった。部屋のケアをしてくれる人が勝手に触らないように。
(もう少しだな……)
ある程度増えたら、中古で買ってしまってあるバイクの筐体に部品を組み合わ
せ、エンジンを組み込んで自分の乗り物を作るんだ――そのための技術や知
恵は、兵隊さんのお友だち――泉田さんに教えてもらって、大きなものはその
工場の片隅に預かってもらっているんだ。そこまでは母さんも知らないと思う。
大輔の趣味で、また自分のバイクが欲しいという欲求の賜物でもあった。
――だってまさか。コスモタイガーってわけにいかないじゃないか。父さんも
母さんも。あんなにメカ好きだもんね。母さんなんか僕と同じくらい、タイガーが
大事なんじゃないか、って思うくらいだ。
 そう思いながら今度は大事にプラモデルの箱を前にかざす。
コスモタイガーIIIの新型。今、母さんが乗ってるやつ。……父さんが乗ってる
のはもう一つ大きな実験機だそうだけど、それも見たいな〜。地球に帰ったら
見せてもらおう、そう思う。
 ごろん、と起き上がって机の上に大切に箱を乗せると。ちょっと眺めた。
今日、作りたいのは山々だけど……1日サボると1日遅れる。机の前に座って
PCを立ち上げ、テキストを開いて資料のダウンロードを始めた。


 結局、3日経って。
減給もされなかったし、バイクも無事戻ってきた。あちこち引っかき傷があっ
たそうだが、扱いきれず――軍所轄のものだと知って怖くなり主犯格が自主し
てきたとかで、罪は減じられたそうだ。
「ガキが偉そうなもの乗ってやがんでさ――金持ちのボンかと思って、もらっ
てやってもいいだろうと思って」。少年はそう語ったという。
「あれで仕事してたんだっていうのなら悪かったなぁ」
そうも言っていたそうだから、さほどスレた連中でもなかったのかもしれない。
――現場労働者の息子たちで、1人は学校=教室へは行かず、時々自分たち
でも仕事の下請けをやっているらしかった。
いろんな人たちがいるな……そう思う。


 
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