宇宙そらを見つめて

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= Epilogue =

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 それからほどなくして、36歳の艦隊航海長兼提督・島大介と、同艦航法士・
多賀眞菜実は結婚した。
花嫁は21歳、西暦2217年のことである。
元ヤマトのメンバーをはじめ多くの人の祝福を受け――もちろん、その中に、
野々村サジオの姿もあった。
古代進だけが、多大な祝いの言葉を伝えてきたが、スケジュールの関係で
地球におらず(挙式は地上で行なわれた)、会うことはできなかったが。
 「なに、古代にはそのうちイヤってほど会えるさ。――新しい家はゲストルー
ム付きだろう? そこに古代に来てもらおうと思ってな」
今は1人で宇宙を旅する孤高の狼は、地上に拠点を持たない。
「それもまた寂しいだろう? 俺は以前からそうしたかったんだ」
と夫は嬉しそうに友を語る。
そんな処が一番魅力的だ、と新妻はまた夫を見返した。
「なに?」
優しい目が見つめ返す。「じっと見て――」
すっと近寄ってきて抱き寄せると、接吻キスされた。
んん……。大事にしてくれるのは良いけれど、島さんて、こんなに直情径行
だったのね――。
それは、一緒に暮らすようになっての新たな発見だった。
 「誰が、冷静で落ち着いていて――クール、なのかしら」
「誰かそんなこと言ってたか?」悪戯っぽく笑う夫。
「そういう評判です――公式ファイルにすら載ってるわ」
わはは、と島は笑った。「勝手にそう言ってるやつが多いだけ――いや、商
売柄な。その方がお得だろ、航海士官としては」と楽しそうに言う。
「ヤマトの連中や古代なんかにそんなこと言ったら、大笑いされるさ」
昔から、“古代か島か、山本か”と言われたほど、喧嘩っぱやく直情径行で、
熱血だったんだそうな。
――それは結婚式の時さんざ、皆さんから聞かされたし、からかわれたし。
『島はあぁみえて案外情熱家だからさ、奥さん翻弄されないようにね――』
ニヤニヤしながら言われた意味は、今は、よくわかる。
だからといって――それは嬉しいんだから、いいのよっ。

 女性には慣れているそうだ――これも戦友仲間たちからの入れ知恵。
『安心してられて、良いですねー』
『あぁでも周りの女性連中が諦めるかな』『はは、そりゃ苦労だ』
――ん、もう! 皆、勝手なこと言ってなさい。
 だが一番喜んでくれたのは太田教官せんせいで、半分涙ぐみながら、「俺の愛弟子
と島さんが一緒になってくれるなんて。今日は生涯で一番嬉しい日だ〜」
なんて言って騒いで。付き添ってらした奥さんに呆れられてたっけ。
本当に、いい方だ。
 だから。

 「もう、休む」
突然、雑談を切り上げて彼は言った。「今日は疲れただろ」
親戚筋の挨拶周りをしてきた処。――遠洋へ向かう航路の艦長と航法士だ。
地上勤務の寄航時にはやることは山ほどある。
前回は結婚式前後の手続きと引越しでツブれてしまい、今回は通常業務に
加え、眞菜実自身の配置替えのことなども打合せなくてはならず、2人は
忙殺されていた。
 でもそれも、2人で新しい生活を始めるためだと思えば――苦にならない、
と大介は言う。
 だからといって。
2人の時間は大事にしたい――同じ艦に、もう配置転換を終えるまではもう一
度の、そして最後の一緒の航海になる次の旅。
たとえ同じ艦にいたって上官と部下――こんなことはできないのだから。
「目の前で見てるのに触れられないのは辛いな――古代の気持ちが、今頃
よくわかるよ」
 ゆっくりと首筋にキスを落とされながら、部屋の明かりも落とし、腕の中で
眞菜実は大介がそう言うのを聞く。
「えぇ……島、さん」
「おい……」大介は苦笑する。「テレサもそう言ったけどな……」
2人の間では彼女の名は禁句ではない。
一度、出てしまい躊躇した大介に眞菜実は言ったのだ。
「私は貴方の過去ごと、愛している――だからテレサさんのことも、そうなの」
そう言われて。思うことを大介はそのまま口にするようになった。
「『しまさん』ての、やめない?」
うふ、と眞菜実は笑った。「でも、素敵なんですもの――私の、しま、さん」
ちゅ、とキスされて、それを舌で捉え、離さずに深くキスしていく。
 あ――んん。
 ふわりと包まれて、優しい手が首筋から肩を覆った。
(だいすけ、さん)
心の中で、そっと呼びかけて、眞菜実は熱い愛撫に包まれていく。
島大介は、そうして、幸福な、新たな航路を行き始める。

ほんとうに、Fin

綾乃
12-13 Feb, 2007
−−パラレルワールド・A 西暦2217年「木星の月」


 
このページの背景は「十五夜」様です

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