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――コスモタイガー隊訓練生・加藤四郎の記録

羽アイコン= 序 =


  火星基地訓練校研修所を1か月で終えた俺たちコスモタイガー隊見習生12
名は(10名の予定だったが増えた)、迎えの小型機にそそくさと放り込まれて
(それはまさに“積み込まれる”という感じで)、愛機とともに小惑星帯へ向かって
発進した。家族に挨拶する暇も与えられず、希望者に交信だけは許されたけ
れど、「どこへ行く」とは言ってはならぬと厳命で。だけれど地球との相対位置が
頻繁に動くその小惑星は、正確に「どこ」と言えるようなものではなく。たいがい
の訓練生たちは、「秘密訓練」ということに納得し、何か重要な職務が待って
いるのだということだけを肝に銘じて、多くはそのまま、身一つで旅立った。
 そこで待っていたのは、不思議な閉ざされた空間で。
 だが僕たちにとっては、火星基地と何が変わるわけではなく。あちらこちら
から合流してきた数は多くはないが、同じような立場の訓練生たちにとって、
山南という寡黙な校長と、山崎という穏やかそうなベテラン技官に至っては、
いったいここで何をするのだろうという疑問が少し沸いた程度で。
‥‥ところが、その前に立って現れた背の高いがっしりとした 肩幅の男性ひとを紹
介されるにあたって、僕らがザワめいたのは当然だっただろう。――元宇宙
戦艦ヤマト技師長――現在では、地球防衛軍科学局所属本部局特別企画室長
だった、真田志朗の姿と名は、軍に奉職しようという者だけでなく、地球の
およその人なら知らない者はない。
 伝説の志士。生きながらにして。
 艦長代理・古代進や、航海長・島大介の名前と顔は、マスコミやその他の
記事、星間TVなどで知らない者の方が少なかったが、真田はその名の著名さ
に比して実像を知っている者の方が少ないといえた。いかついともいえそうな
顔と、思った以上の若さに驚きはしたが、確かに見るからに天才――普通の
人の常識では図れないような雰囲気と目を持つ。その人が俺たちのまさか
戦闘班の“教官”だなんて、冗談としか思えなかったが。確かにその実戦経験も
知られていたし、雰囲気や外見そとみからも、 十分にそれが伺われた。

 そして。
 閉ざされた空間での、厳しく、また不思議な時間が始まった――。   
 
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written by Ayano FUJIWARA All rights reserved.


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