air clip この手の中に…

・・on the Earth, 2227/2195・・


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【18. 僕を叱って】


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:三日月小箱「少し甘い二十之御題」より No.18

= 1 =



 西暦2227年−−地球。列島の海を隔てた西に広がる砂漠地帯。


 その訓練用小型艇は、ぎゅいん、と空中で旋回すると、 砂漠の真ん中にある中継基地の外れに着陸した。強引ではあるがその空間に、 ものの1mとズレることなく着け、さらにそのスピードときたら「急停止」 と言ってもよいくらいだ。しかもそれは大気圏外から戻ってきたばかりである。 その証拠に、外郭が少し熱で黒く溶けていた。
 訓練艇は貴重品であるし、本来なら咎められるか罰則だ。 だがそれどころではない規定破りはその艇を動かしていた若者にはしょっ中のことで、 着陸した途端、スピーカーとインカムからのわめき声を無視すると、ひらりと艇から飛び降り、 一目散に基地の中へ向かっていく。またそのスピードたるや、 地球に戻ってきたばかりとは思えなかった。
 「おいっ、セイ! ――聖樹せいじゅ!! ま、待てよっ。待てったら」
一緒に遅れずになんとか飛び込んだ基地の中で、ロボット警備に止められる前に それをすり抜けた若者を、その親友が追う。
 が、こちらは息を切らしており、柱に手をついて、一息ついた。
 「古代聖樹っ。当麻しゅう! またお前らかっ!! いい加減にしろ」
飛んできた駐在の一人に呆れるように怒鳴られて、当麻はその場にへたり込みそうになった。
「――まぁた何か騒ぎ起こしにやってきやがったな、お前ら」
「そ、そんな……」
 実直な当麻はいつも聖樹に振り回されっぱなしである。なだめるのは俺の役目、 と割り切ってもいるが、今回は止め切れなかった。


 「どうした。何の騒ぎだ」
そこへ通りかかった先任がいた。
はっ、と敬礼して身体を起こす警備員に、
「なぁんだ、また聖樹かよ」親しい口を利く。
彼は同情するような気の毒がるような風情で両手を広げると、
「――あいつのは病気だ。……おめぇも苦労するね」
「大輔――なんとか止めてくれ。あいつ……あいつ。重大な軍規違反を」
「あぁ……でもな」
止めて聞くやつじゃあるめ? と彼は言って。「行こう」と当麻を立たせた。
 加藤大輔――2人より1年先輩の幼馴染。聖樹と自分は親友同士だと思っているが、 時折、育った環境も、背負わされた運命も似ているこの大輔と聖樹の絆に、 嫉妬めいた想いを持つことがある。――入っていけない。とはいえ、 この加藤大輔は卒業し早くも実力遺憾なく発揮し始めている、自他共に認めるエリートだ。 自分――航法の先輩でもあり、それも引け目に思うこともある。だがそれも、 “諸刃の刃”なのである。


 当麻は加藤大輔に連れられ、奥へと歩いていった。


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 聖樹は、いくつかある訓練生用の通信室へ飛び込んだ。慣れた手つきでダイヤルをセットする。 防衛軍本部につながった。
《――受信。要件をどうぞ。所属と市民分類を》
ロボットメッセージに、すぐにコードを打ち込み、 いらいらしながら画面に人が現れるのを待った。
《宇宙戦士訓練生、本部所属訓練学校――名前と所属は××−コード▼▼》
「古代、聖樹。宇宙戦士訓練学校戦闘科5年。分類β……オヤジを呼べっ!!」
画面に映った相手は表情も動かさず、
《もう一度、聞く。用件を、どうぞ》と返った。
 若い局員だった。
よく知っている男である。
「オヤジを、呼べ。と言った。ほかに用件はない。それも、すぐにだっ」
《古代聖樹! 上官を呼ぶのになんと言う言い草だ。きちんと、申告っ!》
「うるさい。さっさとしろ」
《切りますよ――》
 これがもう少し年配の人間だったら即座に切られていただろう。
聖樹はムッとしたが、ギッと唇を噛む。ちくしょう。
「――太陽系外周第七艦隊司令、古代進少将に面談求めます」
《最初から、そうやれ――司令は来客中だ。ちょっと待っていろ》
言い残して画面から離れる――聖樹は内心を抑えてぐっとその数分を耐えた。
 間もなく戻った管理官は、古代進の伝言を伝えてきた。
聖樹はそれを聞くと、怒りを露にした。
「何故、逢えないんだっ。5分でいい。――直接会って、話したいことがある」
係官は厳しい顔をし聖樹に対した。
《――君のコードはC−XIIIのグリーンだ。司令にこちらからコンタクトを取るにはG−V以上、 ブルーコードが必要なのは知っているはずだ。資格も階位も足りない》
「そ、そんなことは……」
わかっている。と、言い放てないのは聖樹の側にも弱みがあるからだ。 父親だから――いくら“雲の上の人”でも、血のつながった実の父だ。 現に、兄・守は訓練生の頃から頻繁にあの人と会っていたじゃないか。
 だがその聖樹も内心の声を表に出せるほど子どもにはなれない。


 《面談はできない――必要も無いと仰せだ》
「なにっ!? 俺の用件はまだ、話してない」


 一瞬、画面が静止した。
 古代進の顔がそこに映ったのだ。
《――司令》という声が背後で響くが、すぐに消えた。
 《古代聖樹! 訓練生の身で何という態度を取る。秩序も訓練のうちだろう》
聖樹は、ようやく現れた数か月ぶりに見た父の顔に、一瞬、ひるんだが、 次に怒りで顔を真っ赤にして言った。
「司令! 何故、俺を外すんですかっ。俺のオーロラII世号配属は、 すでに決まっていたはずだっ」
古代進は表情も変えず、目の前の少年を見返した。
《決定は発表したとおりだ。お前はαケンウリ方面の主力戦艦ディオニソスに乗艦、 訓練の最終行程を終える――そう聞かなかったかね》
「何故だっ! 横暴だ。俺は、そのために今期トップを取った。選抜試験も通過したはずだ。 内定もしていたんだ――あんたが反対し、外したって言ってくれたやつがいる。何故だ」
《頭を冷やせ》
古代進は冷静だった。
「……納得、できない。すぐ、そこに行ってやるっ、待ってろ」
聖樹は父親の顔を指差して言ったが、古代は静かに見返すだけだった。
《――来る必要は、無い。来ても同じだ。それに君は、私には逢えんよ……此処ではな》
くそっ。
 わなわなと震えたが、面と向かっていない以上、通信を切られたら終わりだった。
「――何故、俺は外されたんだ。俺は、あの艦に乗るためだけに…、これまで」
《お前一人ではない。そういう者は沢山いる――それに》
古代聖樹、と父親は言った。
《外された、と言ったな。もしそれが事実だったとして……理由がわからんか。 ――わからんのならそれが理由だろう》
「なんっ! ……」
 ザラリという音がして、画面は途切れ、管理官の声だけが追いかけた。
《面談は、終わりだ――古代聖樹。あとがつかえておられる。切るぞ》
「――」
くっ、と身体を折り曲げ、聖樹は屈辱に燃えた目を伏せた。


 ばん、とドアを開け放ち、通路へ出たところで加藤大輔と当麻修に会う。
「聖樹−−」「セイ……」
2人の心配はわかったが、くそっ、と彼はつぶやくと、それを押しのけ、 もときた方へ飛び出していった。


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= 2 =


 「司令――」
その部屋には、2人きりだった。


 古代進は手元のスイッチを操作すると、怒りに燃える次男坊を突き放し、 こっそりとため息をついた。声が静かに追いかける。
「古代司令……あれでは彼は。聖樹は、納得しないでしょう」
「――守……いや艇長。仕方あるまい。いつかわかるときが来る、と思うしかない」
「司令――」
 広い部屋に居るのは古代進と、そのもう一人の息子である長男の古代守だった。
古代は顔を上げて守を見る。
「――だが、聖樹の態度は、どの角度からみても正しくはない」
「もちろん、そうです」
守は突き放されなかったことに力を得て、父に少し近づき、まっすぐ見つめた。
 秩序と階位――2人きりでいても、防衛軍に奉職してからの親子は、 親しみを職場で示すことはない。必要以上に慇懃に振舞っているといってもよいだろう。 それが互いの身を護り、規範を守ることにもつながるからだ。
 だが守は、その無言のコミュニケーションを取るにはまだ幼いともいえる弟と、 父の“うまくいかなさ”にも心を痛めている。
(父さんと聖樹は、似すぎているのだ――)
その思いもある。
 「しかし、聖樹はあれでは、、、」
古代は無表情のまま息子を見た。
「――君は、努力し、経験を積み、そうして地位と責任を得て、ここに居る。違うか?」
古代の言う言葉は厳しいが声音は柔らかい。お気に入りの息子・守には、 これまでも父親のくせに、いろいろ助けられてきた。 それがこの古代守という青年の美質でもある。
「はい。……そう仰っていただけるなら」
守は胸の前に手を上げて敬礼をした。
「――だからそれらを知り、責任を分かち合い、方法も理解している。そうだろう」
「はい」
「だが、聖樹にはまだその資格もなく、権利も――そして義務もありはしないのだ」
「それは……ですが、司令」


 せめて此処にお呼びになって、諭されては。
「特別待遇は、できない――」
冷たい横顔だった。
 「――彼は。聖樹は、叱って貰いたいのかもしれない」
え、と古代進は、その言葉が胸に響いた。
僕を叱ってと、そう願っているのかも……しれない」
「守――」思わず、言葉が零れた。


 可哀相な、子。何を求め、誰の手に導かれるのか。


 そうして古代進は、自分が訓練学校の下級生だった時代の。 兄・守とのことを思い出していた。


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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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