navigation clip この眺め遥か。

・・on the Galaxy, 2203・・


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【07. 探し出してみせる】


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:三日月小箱「少し甘い二十之御題」より No.7



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 星が、輝く――。
 銀河系宇宙にきらめく数多の星が、いまは瞬くことをせずに、そこにただ、 った――。
 この星星の中に、俺たちの安住の地は、あるのだろうか?
 希望と絶望は常に、表裏一体となって古代の、ヤマトの体内を駆け巡り、 その血を黒く、絶望の淵に引きずり込もうとした――。
 人々がヤマトに賭ける希望と、期待――その望みを。
 一番信じたいのは、古代進自身だったかもしれなかった。 ヤマトの古代――戦神と呼ばれ、勝ち残ってきた地球の若き英雄だった。


 平和な時代には忘れようとする本能が働く。
 危機になれば口の端に上るその名と、艦は、いま、最後の希望となってしまっていた。 誰も、望みは捨てていない――艦長こだいと、ヤマト の伝説を、信じていた。乗組員たちですら…。


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 着任して艦長室へ入った古代あいつを、正式に副長として訪ねた。
 ヤツは艦長で、俺は副長だった――それまでのように、ではいけないとも思ったのだ。
 それまで“艦長代理”の間、古代はどんなに進言しても、艦長室を自室として使おうとはしなかった。 公用には時折使っていたが、私室は相変わらず士官エリアにあり(俺の隣だ)、 今回初めて“艦長室”から全艦を統制する。この少しの違いが、古代の責任の違いとなって、 ヤツの肩にかかっていたのだろう。
 「探し出してみせる――」
 公式の問答を交わしたあと、タメ口に戻ってやつは俺の目を見据え、一言言った。 そうだ。その意気だ、と俺は無言で頷いた。
 「よろしく頼む」「あぁ」と握手を交わして。


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 あの西暦2199年――。俺たちはこの艦に出逢った。
 イスカンダルへの、無謀で、さらに可能性の低い旅――だが、あれが原点だった。


 「古代!!」
 待てよと止めたかったのか、行って戻って来いと言いたかったのかわからずに、 島大介は、座った位置のまま表面上は微動だにせず、其処にいた。
 そうしてぐいと操縦桿を前に倒し、待機する。
 来る日も、来る時のたび、繰り返されてきた毎日――あの時間とき。 このふねの中。


 言葉は、出さぬまま唇の上で、消える。
 駆け出していくのは古代あいつの仕事で、此処でこうしているのが自分の仕事 ――そうだった。ヤマトに乗ってからは、ずっと。


 共に地を駆け、宙を飛び、赤い土と汚染された大気に閉ざされた惑星ほしで、 俺たちは育てられ、宇宙そらへ飛び立ったのだ。
 古代は飛び、駆け、そうして常に先頭を走っていた。 そうして帰ってきた――どんな時も、必ず。俺たちの許へ、ヤマトの戦闘指揮席へ、だ。
 俺は待ち、追いかけ、そうしていつも共にあった。


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 (行け、古代――緒戦は、任せた)
 ワープだったり、艦隊戦だったり、ヤマトそのものを武器として敵の前に立ちふさがる時、 俺はヤマトと一体になれる気がするのだ。
 ヤマトはぐいと力を得て、スピードを上げる。戦神こだいを追って戦いに行く龍 ――それが、このふねだ。


 人はいつしか“ヤマトの両輪”と呼んだが、そんなことを気にする俺たちじゃない。 仲間がいて、互いが屍にならぬよう、信頼と、厳しさが、それを支えてきたのだから。導く手の許で――。

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 目の前に、古代の背がある。
 この旅に出てからは、やつはめったに駆け出すことはなくなった―― ただ此処に立ち、飛び行く者たちに心と目を預けていた。


 「ワープ点までの計測は?」
「あと20分で上がってきます、艦長」太田が答える。
 「――副長、どうだ、こんどの星は」
その声は深く、静かだ。
「……なんとも。可能性はあるが、空気中のヘリウムが若干多い。土に毒性がなければ可、 というところかな」
俺は第二艦橋から上がってきていた分析結果を古代に示した。
 うむと頷いてじっと前方を見る。
 その時、レーダーに光点が光った。
「――右前方に敵艦らしき発光点。船籍確認します」
続けられる報告と情報の流れに頷いた古代は全艦放送のマイクを取った。
 「全艦、第一級戦闘配備! 探査準備中止、各人各場所において待機」
コスモタイガー、発進! 探査と初手を叩け。
そう言う古代は、自分はもう駆け出そうとはしない。
 その姿を、俺は横から眺めているのだ。


 古代進――その肩には、多くのものが、あまりにも多くのものが乗っている。 ヤツを見つめていた瞳――それは森雪だけじゃない。第一艦橋の仲間たち皆の。 その期待と、責任を負って、ヤツは走った。飛び出し、戻ってくるのはヤツ一人、 そうして古代は必ず帰ってきたからだ。
 だから俺たちは帰る。探し出すべきものを探し、見出して、古代あいつ とともに、帰るべき場所へ帰ってみせる。


 いま此処に立ち、皆を、星を見つめている艦長あいつ は何を思うのだろう。


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 「では。半舷休憩に入ります――」
敬礼して艦長室を辞そうとした俺に、古代はすれ違い様、小さくつぶやいた。
ともすれば、聞き逃しそうになった俺は、はっと振り向き、足を止める。
 「俺に、ヤマトに……できるのだろうか――」
第二の地球など、あるのか? 期限内に、皆を移住させることのできる惑星ほし など。皆、やられたり探査し尽して終わった。あったとしても、先住民族がいれば、 不可。そして、地球型の惑星にはその可能性も高い――そうしてこの、宇宙規模の戦闘状態の中。
 言葉に乗せなかった言葉が、流れ込んでくるようだった。
 古代は、不安に揺れる目で、見返していた。
決意と意思――それは変わらない。艦長になり、それはますます揺らがない強い意思となって、 ヤツの中に乗り移っているようにも思えた。
 だが、そこに揺らめく心は、俺にもわかる。――誰にも見せることのない、不安と絶望を、 俺たちもまた、知らないわけではないのだから。


 古代――いや、艦長。
 迷った。


 「お前なら大丈夫」と突き放すべきか。
「わかっているから。不安なら分けてくれ」と言うべきなのか――。
 俺は結局、何も言わず、ただ目に力を入れて見返し、肩に手を置いた。
 「しま――」
ぐ、ともう少し手に重みを乗せる。
 古代は同じようにして、そのまま顔を伏せると「すまん」と言った。
き、と顔を上げると。
「γ星の件は了解した。明日艦内時間0900からミーティング――ゆっくり休め」と言った。
はい、と表情を改めて敬礼した俺は、そのまま艦長室をあとにする。
――あとで酒持って来るかな、とそう思って。


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 西暦2203年――ヤマトは銀河系中央域へ向け、惑星探査を続けながら航行している。


 【Fin】


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――06 Feb, 2011 05-2・改訂新作

=あとがき #07=
 
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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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