air clip 刹那の時・永遠の夢

・・in the Galaxy, 2202・・


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【06.流れ込む感情】


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:三日月小箱「少し甘い二十之御題」より No.6



 「島――これを聞いてくれ」


 古代と俺だけを残して皆が去った艦橋に、途切れ途切れの音声が流れた。
『……しま、さん。逢いたい、しまさん。もう一度、……しま、さん』
 これは。
 あの女性ひとか。
 あの人の、真実ほんとうの、声――心か。


 流れこむ感情――それを抑えて別れてきたひとの、声だったのか。
 「島……」
古代の温度が近づく。肩に手の重みが乗り、あいつはその時、いろいろな想いを語りかけてくれたが、 俺はその言葉よりも、その心を感じ取っていた。
「テレサ――」


 それでも逡巡する気持ちは何だったか――今ならわかる。


 俺は、自分を解放することが、怖かったのだ。自分の激情を、抑えてきた…いや長い間かけて作り上げてきた“島大介”という性質の奥にあった、 自分も知らなかった感情と本質を、俺は知りたくなかったのかもしれない。
 「艦長代理の命令だ――」
古代のあの言葉がなかったなら、俺は踏ん切れなかったに違いない。
 ヤマト発進までx時間――暁の、この惑星ほしの暁が迫り、時間は刻一刻となくなっていった。


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 ほっそりした華奢な体と黄金きんの髪が腕の中に飛び込んできた時、 俺はもうこの女性ひとを離すことはできない、と感じていた。
 流れ込む感情――それは、彼女のものなのか俺自身のものなのか、区別することは不可能だった。
 彼女は俺であり、俺は、彼女である。
 だが、自分の中に、かすかに残るのは――任務しごとへの使命感プライド。 ヤマトの航海士である、という自分自身の矜持だったのかもしれない。それは足枷ではなく、 生きる、俺のすべてだったのだから。


 そうして俺の中に残ったのは、その残像である――。
 残像だけ、だった。


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 確かなものには、カタチがない。
 真実にも、実像はなかった。


 時折俺は、思い返すのだ――あの、めくるめくような時間ときは、何だったのだろうか、と。
 真実の想い――確かな手ごたえに嘘はない。自身の感情も、疑ったことはない。
 俺は、彼女を愛し、彼女は――ただひたすら孤独だった彼女は、俺を求めていた。


 テレザートからヤマトへ向かった僅かな時間だけが、俺たちの蜜月ハネムーンだったかもしれない。 俺は未来に夢を託し、彼女は強い決意と愛に揺れながら道を模索する。
 ヤマトが、古代が待っている―― 一刻も早く戻らなければならない事態はわかっていたのに、 彼女が道を急がなかったのも、俺も逸る心を抑えながらもこのひとを連れ出すことに躊躇し、 手を取って乗り込ませた温もりを手放せなかったのも、なにごとかの予感があったといえば、 それは穿ちすぎかもしれなかったが――。
 この幸福な時間ときが長くないことを、少なくとも現在いまの位相と、 現実リアルでは短いことを、どちらも感じていたのではなかっただろうか?


 俺は、夢中だった――。


 格納庫に降り立った時の誇らしさは、わかってもらえるだろうか?
あの時のテレサの微笑みを、あの場にいた誰もが忘れられないと言う――。
 もともと女神のような美しさの彼女だが――あれは、本当に美しかったのだと、格納庫に居た誰かが言っていた。 島さん、愛された女って美しいんだなって、思いましたよと。


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 愛に後悔など、あるだろうか? ――すくなくとも俺の愛した女は、価値ある女だった。
 彼女と過ごした時が、あまりに短かったとしても――今の自分が、ただ生かされている存在だったとしても。


 時折、星の宇宙うみを航行していると、どきりと沸いてくる感情がある。 気の所為ではない。どくどくと血管の中から沸いてくるものがあって、息が苦しくなる時があるのだ――彼女なのかな、 と思う。それは錯覚かもしれないけど、ね。
 星の光がキレイだと想ったとき――未知の空間を飛ぶときだ。


 最近、ちょっとした趣味を始めたんだ。
 宇宙の写真を撮るんだよ――俺の艦の操縦席からは眺めが良くて、モニタ越しだけでない宇宙そらが見える。 特殊感光の、そうだなおそらく20世紀あたりの技術を使ったカメラを使えば撮れるんだ――と詳しいヤツに教えて貰った。 懐古趣味だと笑うかい?


 その中に君の姿が見えるような気がすることがある。
 そんな時は、名前を呼んで見ることもあるんだ――“テレサ”、とね。


 長いことではない。
 また逢えるのだから――うん。時間の感覚など、そちらとこちらでは随分違うだろうからな。


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 あの時、流れ込んだ真実の感情を知らなかったら。
 俺はあのまま別れていただろうか――そうして後悔したかもしれなかった。
 星の海は、すべてを腕の中に抱いて、今日も静かだ。


【Fin】
――06 Feb, 2011

=あとがき #06=
 
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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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