air clip この手の中に…

・・on the Earth, 2227/2195・・


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= Epilogue =



 「守――」
「はい」
今は亡き兄――目の前にいる同じ名の息子には叔父にあたる兄との思い出に浸っていた古代進は、 少し柔らかな表情になって息子を呼んだ。
 プライヴェートタイムだ。少し、付き合わんか。
 そう言って目の前のソファに彼をいざなった。
グラスと氷を用意させ、酒を持ってこさせる。


 「いいのですか? 私などがご相伴に預かっても――」
たったいま、弟を追い返したところなのに。本当なら古代進は多忙なはずなのだ。 次々と持ち込まれる懸案に、頭を痛めていたところだったから。守が呼ばれたのも、 今週行われる銀河系方面探査の会議の件だった――。
「いいさ」
古代進は先ほどとは打って変わった表情でゆるりと座っていた。


 「お前には苦労をかけるが――行ってもらうぞ」
その時だけ、少し真剣な目で。
……だが、寂しいと思うのは父親の方なのだ。
「はい、わかっています」
守は静かに、その母に似たまっすぐな瞳で父を見返した。
「――行けばしばらく戻れん」
「望むところです」


 まぁ、乾杯しよう。
グラスをカチリと合わせて、2人はロックを喉に流し込む (実は守もけっこうな酒豪だ)。
 「父さん――」
「ん、なんだ」
今度はわきまえろ、とは言われなかった。……そういう“場”を読むことにも、 守は長けている。 長けていすぎる、といってもよかった。それがまた哀しいとも思うのだ。
 「僕が留守の間は、充分ご注意くださいね」
「なぁにをボケたことを。私はお前なぞ居なくても、大丈夫だ」
くすりと笑みを見せる守は、
「――聖樹がいます」
ぴくりと父の眉が動いた。
「あいつは、力になります。絶対に……もしかして、私よりも」
 「……そうだな」
肯定の返事が来たので、守の方が驚いた。
「司令、それでは、あなたは――」
あぁ、と古代は頷く。
 そうか。わかっていないわけではないのだ。古代聖樹が逸材であることも。 父の、母の才能を受け継いで、これからの宇宙軍を担っていく才能があることも。
「――あとは、どれだけ我慢がきくかだ。……なかなか、思うようにはならんな」
苦笑というような表情が現れて、古代守はホッとする反面、より身近に父を感じた。
 「銀河系中央域は、遠い――今は安全が保障されているとはいっても、 何があるかわからん。気をつけて、な」
「えぇ……でも大丈夫ですよ。(相原)航も一緒です」
「そうだな」
不安なのは父の方なのだった。だが、そうだ、あの人にも行っていただこう。 古代の腹の中にはいろいろ腹案もある。


 「デスラーの息子たちによろしく言ってくれ。奥方にもな」
「はい、もちろん。親書を書かれますか?」
いや、と古代は首を振った。
「何かと憶測の元になるからな」
「そうですね」
 デスラーと古代進を取り巻く状況はいろいろな意味で複雑である。 今回もその遠い旅に若年の古代守と相原航が当てられたのは、 いろいろな思惑もあるのだ。 古代進にしてみれば、自分で行った方が楽だったろう。――だが彼は今、 太陽系を離れるわけにはいかない。
 「気をつけて――ゆっくり別れも言えんかもしれないからな」
「父さん……」
2人はそうやってしばし黙ってそこにいた。


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 23世紀半ば――。銀河系宇宙は広く、 その中央域にはいくつかの帝国星団が跋扈していた時代である。
 古代聖樹はまだ、己の果たすべき役割を、与えられていなかった。


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【Fin】
――05 Sep, 2011

=あとがき #18・2=

 
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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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